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169 やるときはやるものである

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…‥‥ノインの見立てでは、ディーの体がまともに動かせるようになるにはひと月ほどかかるらしい。

 何しろ、死にかけた上に怪物化しかけ、その上治療のために解体されるなどしたので、これでもまだ短い予測のようだ。


「‥‥‥だからこそ、必死になって努力して、ようやく動けてきているんだから‥‥‥そろそろ一人で入らせてくれ」
「ダメでありんすよ。リハビリ後に動けなくなっていたのは、どこのダーリンでありんすか?」
「マイロード、ピクリとも動けなくなっていたからなぁ‥‥‥運びやすいとはいえ、体力の方もなんとかしないといけないのではないか?」
「いえ、その問題はないでしょウ。今はまだ、神経伝達の部分で繋がりが悪いようですし、リハビリをこなせば日常生活に支障が無くなるはずデス」

 恥ずかしい気持ちなのをこらえて、そう問いかけるも、彼女達は全然その要望には応えてくれる気が無い。


 今、1週間ほど経過しているのだが…‥‥風呂場に彼女達と共に入浴しているのは、色々と気恥しい。

 うん、ココ男湯だからね?研究所から移動して、なんとか寮の自室で寝込めて、そこからリハビリを受けつつ授業を寝ながら受けているのはまだ良いとしても、流石に裸の付き合いは恥ずかしいものがある。

 普通の男ならばラッキーそうには見えるだろうけれども…‥‥実際にこの立場に立たされると、非常に理性とか何かの精神がゴリゴリと削られる。

 やらかせば不味そうなのは分かっているんだが。見た目が全員美女だからこそ、たちが悪すぎる。

 目隠しでもしたいのに、風呂場で筋肉が弛緩しているからこそ、目の方に目薬を注すためにとか言う名目でさせてくれないし、せめて水着でも着て欲しいと言ったのに答えてくれないし‥‥‥精神修行を俺は受けさせられているのだろうか。

 2,3日で慣れるかとも思ったが、それもないし…‥‥ああ、どうしてこうなったのだと、思いたい。

「というか、他の男子の姿が見えないな…‥‥」
「事情を話していますので、理解を得られているのでしょウ。まぁ、迷惑にはならないように、深夜の湯治ですけれどネ」
「覗きの気配もないようですし、問題はないですわね」

 いや、問題しかないのだがこの空間。

 男湯のはずなのに、混浴状態だとか、俺の心が破裂しそうなんだけど。

「まぁまぁ、御前様。無理に気を張らなくてもいいのじゃよ。今はまだ、体が動かぬから、儂らが総員で手伝っているだけじゃし、やましい思いは皆抱いてはおらぬのじゃ」
「そうでござるな。拙者らは純粋に思っての行動だから、気にしないで良いでござるよ」
「そもそも、他に見られたくない」
「ご主人様の前だからこそ、全員納得しているのデス」
「グゲェ」

 ノインの言葉に、全員がうんうんと頷きつつ、ちゃぽんっと共に湯船につかる。

 アナスタシアだけは、入浴と同時に溶けていたが…‥‥うん、あれもあれで浸かれているのだと思いたい。

「まぁ、それでも何とか手足が動いてきたのは良いんだけどな‥‥‥でも、何でリハビリ終わったら、直ぐに動けなくなるんだ?」
「まだご主人様の体が完全ではないですからネ。一度壊れた物を、もう一度つなぎ合わせるのは大変ですし、瞬時に直せるわけでもないのデス」

 とはいえ、リハビリをするだけで動ける可能性があるのは良い方のようだ。

 場合によっては生涯寝たきりとか、怪物化を止める事もできず、悲惨なことになっていた可能性も考えると、まだマシなのかもしれないが…‥‥この全員との入浴は、精神的に削られているような気がする。

 それも助かった代償と考えるべきかどうか…‥‥うう、尊厳的な物がなぁ…‥‥

 何かと悲しく思うような気になりながらも、早く精神が安定できるようになってほしいと俺は強く想うのであった…‥‥







‥‥‥ディーが湯船から引き揚げられ、リザのマッサージも含めた全身丸洗いに移行させられたその頃。

 学園の図書室には、ある程度の人数が集まっていた。

「‥‥‥おおぅ、皆暗いな」
「当り前だろう、今の時間湯船には‥‥‥」

 はぁぁっと深い溜息を吐きつつ、その場に集う者たちはみな同じ気持ちである。

「うう、美女との入浴が羨ましいが‥‥‥悲しいかな、我々には共に入る勇気がない」
「覗く勇気はあるのに、出来そうな機会があったらなぜこうも引き下がってしまうのだろうか!!」

 その嘆きに対して、その場にいる者たちは同意し深く頷き合う。

 彼らは、この学園の男子たちであり、寮の風呂を利用していた者たち。

 割と健全でありつつも、年頃な彼らにとっては、今まさに風呂場で起きている出来事…‥‥ディーとその召喚獣たちが共に入浴しているのは、非常に羨ましいのだが、その中に入っていけないことに嘆いているのである。

 覗くのならばまだ良いのだが、堂々とされたむしろ下がってしまう。

 そのため、色々と貯まる物が多いので、こうやって湯船が埋まってしまった時間には、集まって互いに慰め合うのである。


「ああ、俺たちも美女の召喚獣が呼べればなぁ。こんな悲しみを背負うことはなかったのに」
「何故あいつばかり、あんなに美女に囲まれるのか…‥‥モンスターだとしても、羨ましすぎるだろ!!」

 深い深い嘆きに、血の涙を流して同意する者も多い。

 
 とはいえ、彼らが同じようなことができるのかと問われれば、誰もできないだろう。

 各学科の者たちであり、召喚士でない者たちは召喚獣を呼べないことに嘆き、召喚士だとしても同じような召喚獣を持てないことに嘆く。

 いや、まだ召喚獣がいるだけでも、いない者たちよりも嘆きはそこまででもないのだが‥‥‥美女に囲まれているかいないかという事で言えば、別の話なのだ。

「だからこそ、互にこうやって本を持ち寄り、品評会を開くのだ」
「ああ、規制されている品もあるが‥‥‥女子に見つからなければ、問題あるまい」
「あそこの本屋とかは特にえげつないからな…‥‥店主と懇意にしてこそ、購入できるものもあるしな」
「中には、あの召喚獣たちをモデルにしたものもあるし、需要は高いぞ」

 なお、そのモデル本は思いっきり無許可であり、見つかった時が怖ろしいが、彼らの欲望を満たすためにも、全員一致団結して秘匿するつもりである。


「そう言えばだが、こうやって集まるようになったが‥‥‥この図書室には、歴代の先輩たちの中でもとんでもない輩が残した秘蔵本があるって話があったな‥‥‥」
「お?なんだそりゃ?」

 っと、この場で全員が嘆きを慰め合っている中で、ふと一人がそう口に出した。

「それを見つけると、非常に物凄いものが見られるとかなんとか‥‥‥まぁ、所詮噂話だし、そうそう見つける事もないだろうな」
「でも面白そうだなぁ。せっかくだし、ちょっと探してみるか」
「それも良いな。慰め合うだけでは悲しくもなるし、気を紛らわせるのにも良いだろう」

 やや暗い雰囲気ではあったが、宝探しのような雰囲気に切り替わり、彼らは和気あいあいと楽しみ始める。

 悲しむべきことを引きずるよりも、より楽しめる事へ人は行きたいのだ。




‥‥‥そして数日後、事件が起きてしまった。

 調べられた結果、その話題が原因かもしれないという話が出たが…‥‥まだ、誰にも分からないのであった‥‥‥


「…‥‥何か背中に色々当たっているような気がするんだけど、気のせい?」
「大丈夫ですよご主人様。そのままうつぶせで良いのデス」
「そうでありんすな。っと、腰のツボがちょっと移動しているでありんす‥‥‥一度解体された分、ツボ自体も落ち着いてないようでありんすなぁ。よっと」
ゴリィッ!!
「あげべばぁっ!?今、全身痺れたんだけど!?」
「大丈夫でありんすよ。ダーリンが背中の感触が気になるというから、気にならないようにするツボを押しただけでありんす」
「あ、言われてみれば確かに背中の感触が‥‥‥‥いや、ちょっと待て。気にならないようにするとか言うけど、そもそも何をしていた?」
「「…‥‥」」
「位置的に見えないけど、何となくお前ら全員、顔を背けているのが分かるんだが」

…‥‥なんかちょっと、見えない位置の動きが分かるようになったような気がする。

 でもなんか、位置が位置だけに、色々と問題しかない気がするのだが…‥柔らかい感触とか…‥‥

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