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4章 そして悪意の嵐は、吹き始める

4-8 流石に周囲の被害も考え、場所移動

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‥‥‥仮称ダンゴールとした魔獣は、徐々に接近していた。

 感覚的にじわりじわりと嫌な気配が迫ってきており、間違いなくこちらを目指してやってきているのが分かるだろう。

 とは言え、流石に王都内でドンパチぶちかますわけにもいかず、念のために王都民は奥の方へ避難してもらっていつつ、魔獣と王都の間にあった平原で仕掛けることにした。


「よいしょっと‥‥‥ふぅ、これで大体準備はできたか。飛行していたらあっという間だったけど、思ったよりも準備する時間はあったな」
「全員、装備は行き届いているか?王都中の鏡や反射物体、鏡のような反射効果を持つ魔剣などを持っていない人はいないなー!」
「「「おおおお!!」」」

 全員魔剣を掲げ、準備が整ったことを示す。

 魔獣ダンゴールの主な攻撃手段は光線系であり、反射可能な装備品であればある程度防衛は可能なことはもう分かっている。

 とは言え、熱や衝撃などは完全に反射できないのでそのあたりは各自の耐久力などに頼る部分があるが、それでもここまで準備をしたのだから、後は天に身を任せるしかないだろう。

「それにしても、鏡なども付けているとはいえ、全員テカテカに反射しているのはちょっと眩しい‥‥‥」
「一応、即席ですが反射剤も塗ることにしましたからネ。あとで風呂に入れば全部流れ落ちますので、今だけの我慢デス」

 そう言いながら、艶々担っているメイド服を着こなしつつ、使われた道具の後片付けをするゼナ。

「即席の反射剤か‥‥‥それにしてはかなり反射高率が高そうぞなが、どうしてこんなものを作れているのだぞな?」
「ご主人様のために、新しい形態をいくつか考える中で出来た副残物として、記憶しておいたものなだけデス。サテライトモードとでも言いましょうか、ビームで出来た刃を反射させて使う目的があったのですが、如何せん出来具合がいまいちだったので放置していたのデス」

 なにやらさらっと新しいモードの開拓を試みていたことを口にしたが、どうやえらこの反射剤はその名残らしい。なんでもそのモードになった際に使用する物として開発を考えていたようだが、どうも彼女の満足のいくものにならなかったようで没にしていたらしく、今回の魔獣討伐に役立つかもしれないということで引っ張り出したそうだ。

「常に研鑽を磨くどころか、新しい形態模索‥‥‥魔剣ゼナのその高い探究心は、非常に気になる処ぞなねぇ」
「気になりますね、先輩!」

「言っておきますが、私は探られる気はありませんからネ。ご主人様のメイド魔剣としてあるだけなのデス」

 研究部長の言葉にどことなく避けたくなったのか、瞬時にスクリューへと形態を変えて吹き飛ばした。

 勝手に変化してしまったが‥‥‥まぁ、無理もない。どう見ても不審者にしか見えなかった研究部長が悪いだけの話だ。


「とにもかくにも、計算上後3分で到達が予測されマス。速度から考え、攻撃自体は後数十秒ほどで仕掛けられるでしょウ」
「よし、全員気を引き締め、覚悟を決めろ!!これは訓練でなく、人工的に作られた可能性があるとは言え本物の魔獣相手!!作戦があるとは言え、油断していたら命を落とすから、全力を尽くすのだ!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおお!!」」」」

 ゼナの言葉を聞き、号令をかける生徒会長。

 そしてそれに答えて生徒たちが叫びつつ、迫りくる魔獣へ向けて戦闘態勢へ移行する。

「さて、作戦が成功するかどうか…‥‥確率はどうだ?」
「成功確率は78%デス。高くもなく、かといって低くもない微妙な処ですガ‥‥‥やれるだけ、やりましょウ」

 不安しかないが、やるしかないだろう。

 そう思っていると、ついに相手の攻撃が襲い掛かり始めた。

―――ギュゥゥゥゥゥン!!
「太めの光線接近!!全員反射用意!!」

 光そのものを利用しているかのような攻撃ではあるが、実際には攻撃に大分部分を割いているせいで速度その物に関してはだいぶ減退しているらしい。

 それでもかなり高速の攻撃ではあるが、生徒会長の指示に従い全員が攻撃を受け止める態勢をとって直撃した。

ガガガ、ギィィィィン!!
「いっでぇぇぇえl!!結構衝撃があるぞ!!」
「熱よりも物理的な痛みがきっつい!!」
「でも気持ちいぃぃ!!」
「おお!!反射したぞ!!まともに浴びてたらチリも残らなかったかもしれないけど、うまいこといった!!」

 かなり太い光線が直撃したが、少し後退させられたところで、各自の直撃個所によってあちこちに攻撃が反射される。

 痛みを訴える者もいたが、それでも焼き尽くされるとかそういうことはなく、反射はうまいこと言っているようだ。

「おかしな人がいたような気がしますけれどネ」
「今は気にするな!!」

 とにもかくにもその後も何発も続けて光線が来つつ、ようやくダンゴールの姿が見え始める。

「鳴き声を上げず、それでいて数が多い事に気が付いて細かい光線を撃って来たぞ!!」
「反射できても数が当たると痛さも倍増だ!!ある程度回避しつつ、攻撃をして奴の狙う対象を分散させるぞ!!」

 ズダダダッっと、細かい攻撃に切り替えてきたようだが、それでも全員ある程度反射で防御しつつ、回避も加えて攻撃を重ね始める。

 相手が宙に浮かぶ巨大な黒団子ゆえに的としては非常に大きく、これで攻撃を外せと言われる方が難しい。

 そして他の魔剣士たちが攻撃を引き付けている間に、こちらは作戦の次の段階へ移る。

「ゼナ、用意は良いな?」
「大丈夫デス。アンカー射出、反動防止完了。出力最大でぶちかませマス」
「各自、吹き飛ばしに長けた魔剣を扱う魔剣士たちはどうだ!!」
「準備完了!!」
「同時に吹き飛ばし、いけます!!」
「合図があれば、いつでもどうぞ!!」

 
 前線での魔獣との戦闘から離れ、後方の方で力を蓄える。

 ギュイィィィィィンっと背中に背負うスクリュー状態のゼナの音が大きくなり始め、反動で後退しないように足場も固めつつ、他の魔剣士たちの魔剣もうなりを上げ、力を使い始める。

 一人では無理な、あの巨大な黒玉魔獣の身体を吹き飛ばす力。

 内部に魔獣のコアが蠢けるほどドロドロとした見た目なのに、しっかりとした耐久力があるのはおかしい話だろう。


 けれども、そんなドロドロも、この数の魔剣士たちが協力すれば…‥‥

「発射、3秒前!」
「2秒前!!」
「1秒前…‥‥」
「うてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

ドッゴォォォォォビュォォォォォォォォォォ!!

 全員の力を一気に合わせるために、合図と共に射出される膨大な風。

 いや、風以外にも砂嵐や火炎竜巻などといった吹き飛ばせる力なら何でもいいと言えるような魔剣の血からも混ざりあっているが、それらが全て同時に打ち出され、魔獣に到達する前に重なり合い巨大な暴風と化す。

ドォォォォォォォォォォン!!

 そして見事にその巨大な暴風は直撃し、飲み込まれる。


ブバババババババババ!!

 球形に固まっていた液状の身体が吹き飛ばされ、あっと言う間にはがされていく。

 光線の攻撃は止まらなかったが、それでも暴風は無視して吹き飛ばしを続け、見る見るうちにその巨体は小さくなっていき‥‥‥暴風がやんだ後、魔獣はそのコアを見せた。



ビゴン、ビゴン、ビゴン…‥‥
【ギュッゲェェェェェェアァァァァァ!!】

「「「「キモっつ!?」」」」

 なんかこう、もうちょっとコアというからにはイメージ的に艶々した感じの球体とかひし形とか、そういう感じのものを予想していた。

 けれども、曝け出されたコアの姿はリアルな目玉で血管が浮き出る程充血しており、瞳孔の部分にいくつもの口があり、見た目の不気味さはあったが全員その言葉が口から出た。

「でも大分小さくなったな!!ちょっとした大型犬サイズか!!」
「ここまでくれば後は、あのコアを徹底的に攻撃するだけだ!!またあの巨体になる可能性もあるから、全員全力で攻撃を当てろぉ!!」

 吹き飛ばしたとはいえ、あの巨体にふたたびなる可能性は0ではない。

 時間が経てばまたあの大きさにまで戻り、光線を周囲に撃ち出しまくるだろうし、同じ手が通用するとは思えない。

 けれども、こうやって攻撃に転じても、今度は的が非常に小さくなったせいで、全員の攻撃が結構当てにくく‥‥‥

「あ、待てよ?動き回るなら押さえつければ良いのか。空にいるから当てにくくもあるし‥‥‥落とすぞゼナ!!チェーンガントレットモード!!」
「了解デス!!」

 固定していた足場を解除せず、背中の巨大なスクリューの筒からガントレットへ早変わりする。

 そして魔獣ダンゴールのコアに狙いを定める。

「つかめゼナ!!発射!!」

 ドォォォンっといきおいよく撃ち出され、チェーンが伸びながらガントレットが宙を駆け抜け、コアのもとにすぐに辿り着く。

がしぃっ!!
【ギャグゲェ!?】

 そのままがっちりと掴み上げ、コアを確実に捉えた。

「良し、ゼナのアイアンクローから逃げられるとは思うなよ!!こちとらしっかり体験済みだからな!!皆、あいつを落とすから集中攻撃を頼む!!」
「わかっているよ!!」
「落とすならさっさと落してくれ!!」
「全員で地上に落ちたところをボッコボコにするんだ!!」

 ぎゃりぎゃりと音を立ててチェーンを戻し、コアを引っ張り上げる。

 逃げようとするが、生憎その掴みからは逃げられないことは身を持って体験ををしているので保証でき、固定された足場も利用して手繰り寄せる。

 そしてある程度地上に近くなったところで、真上から攻撃を他の魔剣士が叩きつけ、コアが地面に落ちる。

【ギャグエゴアァァァ!?】
「「「「狩るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

 巨体相手には分が悪かったが、それでもここまで落とせば後はもう楽なものだ。

 逃げられないようにしつつ、全員で襲い掛かる。


 それはまるで、アリが獲物に群がる光景にも見えなくはないが…‥‥最後は思いのほかあっけなく、魔獣が絶命するのと同様に、コアは逝ったのであった…‥‥


「勝ったぞぉぉぉぉ!!」
「準備をしっかりしすぎた気がしなくもないが、あの大きさの奴からよく勝利をつかめたなぁ!!」
「とりあえず今は狩れた喜びを祝うために、」



「---おぉ、物凄い歓声が上がってますねぇ」
「「「「!?」」」」

 勝利した祝いのムードに包まれようとしたとき、ふとその場に流れた声に、全員一斉に声の主に向けて顔を向けた。

 勝利した喜びがあるとは言え、全員学園で訓練を積んでいる魔剣士であり、瞬時に臨戦態勢になれた。

 その声の主の方に、油断せずに目を向ければ‥‥‥そこには、黒いローブで身を包んだ謎の人物が立っていた。


「…‥‥何者だ、お前は」

 この場にいる者たちを代表し、生徒会長が魔剣を抜刀してローブの人物に問いかける。

 突然現れたローブの人物だが、全員なんとなく理解する。この相手こそが、あの魔獣の元凶だと。

「何者、かと言われればそうですねぇ、あの魔獣を作ったただの研究者とでも言うべきでしょうか」
「研究者?」
「ええ、ええ。研究テーマは多岐にわたるので正確なものはないのですが、今はとりあえず、実験していた人工魔獣のデータを取っていたのです」
「やはり、人工魔獣ぞなか‥‥‥でも、人工的な魔獣に、あれほどのものはできなかったと思うぞなが」
「簡単なことです。だってあれ、まだ未完成品ですが従来の魔獣の発生要因の一部を利用しているのですからねぇ」
「従来の発生要因‥?」

 研究部長の言葉に答え、そう口にする謎の人物。

 ローブでがっちりと身を包んで中身が見えないが、不気味な笑みを浮かべていそうな声色である。

「何にしても、アレを倒されるとは皆様お強い事で何よりですねぇ。これで、万が一大失敗しても、後始末を任せることが出来るでしょう」
「ちょっと待て、後始末って何だ。まだ他に何かをやらかす気なのか」
「はい。そうですがぁ?」
「即答かよ!!」
「残念ながら、後始末をする気にはならない。ここで、拘束させてもらおうぞ」


 ツッコミを入れている中、生徒会長が刃を振るう。

 爆発する魔剣なので、爆風でふっ飛ばしつつ動きを取れなくする気なのだろうが‥‥‥その謎の人物は生徒会長の刃をかわした。


「かわしただと!!」
「そりゃ、かわせますよぉ。だてに実験で魔獣を作るために、自身でいろいろできるようにしてますからねぇ。まあ、ここでつかまるわけにもいかないので今日はここで逃げさせてもらいますが‥‥‥その前に」
「っ!?}

 生徒会長の目の前にいたはずなのに、その姿が一瞬で消えうせる。

 けれども、俺は角のおかげが背後の方に気配を感じ取った。


「ゼナ、ソードモード!!」
「了解デス!!」
「おおっと、危ないねぇ!!」
ガァァァン!!


 思わず背後の方に刃を振るったが、今度はかわされることなく受け止められ‥‥‥その衝撃でローブの一部が吹っ飛び、相手の腕が露わになった。

「なっ、ソードモードと同じ、刃の…‥‥」
「あ、これ義手なので魔剣とは違いますよぉ。でも、こんな素敵なことが出来るのでぇね」
「フィー、離れろ!!」
「遅いでぇす☆」

 刃の腕に驚く中、何かに生徒会長が気が付き声を上げた。

 何なのか判断するよりも早く、相手はもう片方の腕で何かを押し‥‥‥次の瞬間、


バチバリバリリィィィィィィィィ!!
「あべべべべべべ!?」


 突然、強力な電流が流された。

 どうやら刃の義手に仕掛けを施していたようで、今の動作は電撃を流す仕掛けだっただろう。

 見事に単純な罠にかかり、しかもかなり強力な電撃を流され、痺れて動けなくなる。

「がはっ…‥‥」
「おードラゴンの混ざった子でも、このハイパースタンガンブレードはばっちりだったかぁ。でもまだ気を失ってないようだし、これでねぇ」
ゴッ!!



‥‥‥痺れて動けない中、頭に強力な衝撃を感じ、俺の意識は暗転した。

 最後の方で、周囲の皆が叫びつつ攻撃を仕掛けようとしていたようだが‥‥‥どうやらその場から瞬時に連れ去られてしまったようであった‥‥‥‥


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