私はあなたの魔剣デス ~いや、剣じゃないよね、どう見ても違うよね?~

志位斗 茂家波

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4章 そして悪意の嵐は、吹き始める

4-15 それは小さな、芽生える心

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‥‥‥さぁぁっと風が吹き抜け、いつの間にか朝になっていた。

 周囲を見れば風に吹かれて木々が葉を揺らし、昇ってきた太陽に照らされ、隙間から温かい光を届けてくる。

「…‥‥本当に、色々あり過ぎましたねご主人様」

 そっと自身の膝枕で穏やか寝息を立て、いつものものになった角と翼を生やしているフィーを撫で、ゼナはそうつぶやいた。


――――

「‥‥‥管理神、何て言葉で言われるのも久し振りね。そちらは使徒と言われるのは初めてそうだけれどね」
「ちょっと違いますネ。私はご主人様のメイドにして魔剣、使徒と言う意味を持ってはいないのデス」
「そうかしら?大方、この世界の管理している神がいないから、どういった事情があるのか調べるために使われた存在でもあるならば、間違ってないとは思うのよね」
「‥‥‥」

 月明かりが輝く中、相対するゼナと青薔薇姫。

 最初は少々言い合ってみたが、ややゼナの方が分が悪かった。

「‥‥‥むぅ、こうやって目の前で立たれているとやはりどうもやりにくい相手デス。青薔薇姫の情報では一歩二歩三歩と出るたびに何かと起きていたという話もありましたが、管理神であれば納得のいく話デス。請け負っている世界そのものを管理しつつ、出ているだけである程度その世界を思うがままに動かすはずですからネ」
「まぁ、それもあるわね。でも、思うがままにと言うのは間違いよ。私は人の肉体を得てこの世界を自由に自分の目で見て肌で感じて、楽しんでいただけだもの」

 自由気ままな風のように、青薔薇姫は動いていた。

 その魂が神そのものだとしても、そんな事を気にもせずにやりたいことをやっていたのだ。

「だって、神と言う立場は本当に高位の人達以外じゃないと孤独になりやすいものね。こうやって世界に降り立つことで、孤独が癒されるのよねぇ…‥‥」
「と、悲しげに言っているようですが、かなり楽しんでましたネ?寂しいからと言って、善悪関係なく巻き添えにして人々を恐怖と混乱に落としている時点で邪神になりかけてますヨ」
「失礼ね!!邪神になんてなってないわよ!!悪神なら3~4回ぐらいなりかけたけれどね!」

 ゼナのツッコミに対して反論する青薔薇姫。

 何か似ているようなものでも受け取り方が色々と違うようだ。




 とにもかくにも、いつもならばフィーがこの場でツッコミを入れたいところだが、生憎そんなことができない状態。

 と言うか、青薔薇姫が彼の身体を乗っ取っているような形になっているので、黙らせたくても主の身体でもあるので手が出しにくい。

 守りたいのに守りにくい、大事なはずなのに奪われているような、非常にもどかしい感覚にゼナは鳴っていた。

「そもそもなぜ、ご主人様の中に貴女がいたのでしょうカ。神がちょっとばかりサボるために世界で遊んでいたりするのはまだ理解できるのですが、どうして今になってなのですカ?」
「そうねぇ、話すと色々と長くなるし…‥‥ここはちょっと要点をつかんで、話してあげるわ」

 ゼナの問いかけに対して、ふっと軽い笑みを浮かべて青薔薇姫は話し始めた。







…‥‥そもそもの話、神が人のいる世界に降りてくることはそうそうない。

 どこかの世界では色々と例外も多いかもしれないが、普通はそうではないのだ。


 けれども時として気まぐれに、神自身でさえも予期せぬ形で降りてしまうことはあるのだ。


「そう、私は気まぐれに管理している中で、ある時事故に遭って、この世界に降り立ってしまったのよ」
「事故?」
「ええ、なぜそうなったのかは分からないけれども、本当に偶然。神としてこの世界の調整中だった時に‥‥‥どこからか飛んで来た、でっかい拳が横から飛んできて、落ちちゃったのよねぇ。何だったのかしら、あの巨大な金属の拳。機械神を一瞬疑いたくなったのだけれども、彼女のものとは違う気配を纏ったものだったのよね」
「‥‥‥どんな事故デスカ、ソレ。まぁ、機械神であればレーザー系を好んでいるので、その攻撃手段はないと思うのでそこは分かるのですが‥‥‥」
「そして落ちたところがちょうど、産まれる前の赤ちゃんの身体でね。まだ魂が入ってなかったところにスポッと嵌っちゃったのよねぇ」

 ツッコミどころが多い偶然ではあるが、人間の肉体に入ってこの世界に来てしまった。

 一応、寿命を迎えればまた神として復活はできるのだが、それまでは無力な人間の赤子として過ごすことになる。


 でも、そんな不幸な事故が遭っても彼女は気にもしなかった。こういう人間の中に降りて、世界を見るというのも悪くはないと思ったのだから。

 多少神としての力が完全に消えていなくて全く無力な人間ではなかったとしても、長い神としての命の中ではほんの一瞬の事。

 だからこそ、事故だったとはいえこれも運命だと受け入れ、精いっぱい人として生きる道を選んだのだ。


「けど、全然人として生きていたのかと言う問いかけには、答えようがなさそうですよネ?歩き回るたびに騒動や天災やら、色々引き起こし過ぎデス」
「そこはちょっと自覚していたわ。管理神として私は珍しく力の強い方のようだから、人間の肉体になっても抑えきれなかったのかしら。だから、わざわざ他のところから力を押さえつける呪具をもらってつかったのよ」

 そんなハチャメチャな中で、彼女はある日恋に落ちた。

 令嬢として婚約者がいた身ではあるが、その相手が酷すぎたのでどう料理してやろうかと思っていた時に、偶然見つけたのだ。


「‥‥‥管理している世界の中で、唯一残っていたドラゴンのあの人。魔獣という存在をこの世界に招いてしまった以上、彼らがここにいるのは難しかったのだけれども、あの人は最後まで残る事を選択していた‥‥‥そんな人だったのよね」

 人間の肉体であろうと、神の魂を持とうとも、一目惚れと言うのは本当に厄介なものだ。

 燃え上がり、どうしても愛したくなり、そして相手からも愛が欲しくなり、必死になって恋愛を学び実践し、そして結ばれた。

‥‥‥他者から見れば少々押しかけられた哀れなドラゴンがいたと思えるかもしれないが、それでも熱意と心が伝わって、どうにか両思いになったのだ。




 そして後は、婚約者をどうするのかという事にもなったのだが、その婚約者自身がやらかしてくれたのでこれ幸いと酷い騒動を起こし、身を隠すことにしたのであった。

「そしてあの人との子を得たのだけれども…‥‥そこから先が大変だったわ」
「というと?」
「私自身が神の魂で、あの人はドラゴンとして過ごしていたのだから、お互いにちょっとした当り前の常識を忘れていたのよ。‥‥‥人間の肉体の脆さにね」

 神の力は抑えられているとはいえ、それが四六時中あふれ出ているような人の肉体。

 ドラゴンの力もそこに加わればかなり莫大な力がずっと存在していたことになり、その力の大きさに人間の体の器が耐えきれるわけが無かったのだ。


「気が付いた時には、もう本当に酷い状態…‥‥産まれる前に、この子はもう死の世界へ踏み入れようとしていた。私達の無知と言う名の罪によって奪われかけた大事な命‥‥‥だからこそ、私達は死力を尽くして助けることにしたのよ」

 二人にとって、大事な子供‥‥‥フィー。

 生まれて欲しかった命がこのままでは危険だという事で、その膨大な力を二人は自分達のすべてで押さえつけ、それでもどうにもならなかったものをかき集めて来た呪具などでほぼ無力化することで、無事に出産の時を迎えた。

 そして赤子が産まれたのだが…‥‥無事に命が産まれた代償に、彼女達は力を失った。


「けれどもね、それでもよかったのよ。人として生きる道を選んで、この子のために一生懸命生きようと私たちは誓い合ったわ」





‥‥‥一柱と一匹の、そんなささやかな願い。

 それは普通の親子が持つ様な、何気の無い願いだけれども、何事にも代えがたい大事な願い。

 それを叶えるために、人として生きるために適当な村に家を作り、そこで生涯を終える‥‥‥はずだった。



「‥‥‥けれども、それは無残にも崩れ去ったわ。事故でも何でもない、悪意によって」

「そもそも、私の管理していた世界になぜ魔獣が産まれたのか不思議だったけれども…‥‥その原因が、まさか私たちを直接狙うなんて、まだまだ想像できなかった身が甘すぎたわね」

「いえ、だからこそ狙ったのかしら…‥‥」

 管理神は、自身の世界を好きなように動かせる。

 だからこそ、本来魔獣はこの世界に出てくることはなかったのだが…‥‥何故か気が付いた時には出ていたのだ。

 神として滞在していた時に、その魔獣に対抗する手段として魔剣を彼女は生み出した。

 魔獣の構成する因子は普通のものでは断ち切れず、特殊な魔剣を生み出して理とした。


 でも、どうして生まれたのかということは把握しておらず‥‥‥‥気が付いた時にはもう、遅かったのだ。



「…‥‥そう、気が付いた時には遅かったのよ。魔獣の群れが次々に襲い掛かり、無力な私たちはなすが儘にされるしかなかった。村ごとに魔剣士が滞在して防衛していたりするのだけれども、アレ・・はその理にも干渉して、身を守るすべを奪った」

「口に出せないのがもどかしい、その正体が言えないのが苦しい!!大切にしていた日々を奪ったあのものがどれだけ憎くても、出せないようにされたのよ!!」

 ぼうっと一気に燃え上がるような光を放ち、青薔薇姫は叫ぶ。

 神とは言え、できないこともあり、それがましてや無力と化したただの人間にはどうしようもなかったことには非常に腹が立つのだ。



「でも、もう遅かったわ。あの人はあっけなく命を落として、守られた私たちももう間もなく餌食になることは目に見えていた‥‥‥‥だからこそ、最後の手段を取ったのよ」
「最後の手段?神としての力も失い、人の身となったものがどの様な手を」
「悪魔を呼んだのよ。何かと代償にして、願いを叶えてくれる彼等ならば、神だろうと人だろうとも関係ない。代償があるならば契約を交わしてくれる存在…‥‥まぁ、危険すぎるのもいるから、信頼できる悪魔を呼んだのよねぇ」

 都合が良いと言うと、あの村の人達には申し訳はない。

 けれども、多くの血が流れ、怒りと憎しみが支配していた状況はまさに呼ぶのにはうってつけだった。

「そしてさらに言えば、私はその悪魔の弱みを色々と握っていたのよねぇ…‥‥手放すことになったのは痛かったけれども、その代わりに3つも願いを叶えてもらったわ」

 流石に命の蘇生や魔獣からの防衛に関しては、悪魔の管轄外な部分もあるせいでどうにもできない。

 ならばどうするのかと言えば、迷うことなく彼女は自身の子供の無事を願ったのだ。


「一つ目に、魔獣たちが村から駆逐されるまで、被害に及ぶことが無いようにしてもらう事。この願いによって、この子は生き延びた」

「二つ目に、私達がいなくなったあと、何らかの拍子で押さえていた力が暴走しないように人間としての因子を強めてもらう呪いを元から持っていた呪具に重ね掛けしてもらう事。‥‥‥ああ、でもそれはこの間壊れたから、もう意味もないのかしら」

「三つ目は…‥‥せめて、この子の中で見守れるように、私達の魂を楔としてこの子の中に穿ってもらう事。けれども中にいる事も知られずに、ただ見守るだけでよかったから、存在がほぼ感じ取れないほどにしてもらったわ」


「‥‥‥そうですカ。なるほど、色々納得がいきまシタ」

 青薔薇姫の説明を聞き、ゼナは納得がいった。

 生きとしいけるものを狙う魔獣が、何故村で赤子だったフィーを狙えなかったのか。

 それは、女神像に守られていたというよりも、悪魔によって見つからないようにされていたから。

 ドラゴンの因子があっても、これまで強く出てくることはなかったのはなぜか。

 それは、力を押さえつける呪具に、分からないほど重ねられていた人間の因子を濃くする呪いがかかっていたのだから。

 そして今、目の前に青薔薇姫がいるのは‥‥‥その楔によるものなのだろう。

「アレ?でもそれだと力を失っているはずなのに、なぜ先ほどの戦闘も含めてほぼ戻っているのですカ?」
「…‥‥そこは流石に私も予想外だったのよねぇ。どうもこの子、天性の才能と言うべきか、自身の力を増幅しやすいようで、溢れまくっていた力をちょっと受け続けていたせいで復活しちゃったのよ。ああ、夫の方はまだ寝ているけれども…‥‥もしかすると将来、出てくるかもしれないわね」

 ふふっと笑い、そう答える青薔薇姫。

 けれどもまだ、問題は残っている。

「‥‥‥でも、もしかするとその時は、私達から幸せを奪ったアレが出るかもしれないわ」
「正体は明かせないのですネ?」
「ええ、そうなのよねぇ。何しろそのアレの正体に関しての情報なども悪魔との契約で強力なものを使う代わりに、出せないようになったのよ。死体とかもしっかり回収されたようで、何かとうまいことやったわね。銀の悪魔ならもうちょっとできたかもしれないけど、手早さで別の悪魔を呼んだのは間違っていたかしら」

 とは言え、悔いても意味はない。今はもう、ただ見守るだけの存在なのだから。


「っと‥‥‥そろそろ時間ね。楔が戻って、私はまたこの子の中で眠ることにするわ」

 ぶぅんっと体が揺れ動き、その姿が徐々に消え失せ始め、フィーの体が戻って来る。

「そうですか‥‥‥まぁ、また消えるという事は確立としては低いですガ、その時に情報が引き出せそうなら、引き出してもらいますネ」
「無理じゃないかしらと言いたいけれども‥‥‥うん、できるかもしれないわね。契約にはちょっと穴もあったし、それを利用すればできるわね‥‥‥そろそろこの子の身体を頼むわ」

 倒れ込み、フィーの体がでてきたところでゼナは受け止める。

 青薔薇姫の気配はもうほとんど消えかけており、また感じ取れない状態になるのだろう。

「ああ、それと一つ頼めるかしら。可愛い息子のメイド魔剣さん」
「何でしょうカ」
「この子の溢れている力、その内抑えきれなくなるわ。でも、ようやく器も安定してなじんできているから、あなたの力を使わずとも、自由にドラゴンの姿になれたり、神の私の力も扱えるかもしれない」


「けれどね…‥‥だからこそ、その子の天秤は危うくなることがあるの。だかね、本当にずっと仕えてくれるのであれば、この可愛い息子の支えになってね」
「当り前デス。私はメイドにして魔剣、ご主人様の側に居ますからネ。支えるのは当然のことなのデス」
「あ、お嫁さんになっても良いわよ?私としては、可愛い娘も欲しかったからね」
「…‥‥よ、嫁?え、ちょっと待ってください、私はご主人様の嫁に…‥‥嫁、デスカ…‥‥」


 しばし考え、ボンッと真っ赤になって音を立てたゼナ。

 それを見てくすりと青薔薇姫は笑い、そして消え失せた。


 あとに残るのは、ずっと使われていた状態にありながらも寝息を立てはじめたフィーと、少しばかり煙を立てたゼナだけであった…‥‥‥



――――


「‥‥‥いや、本当に何を言うのでしょうカ、あの管理神。私はご主人様の魔剣にしてメイドで、そんな伴侶になるような者では…‥‥無いと言い切れない、この気持ちは何でしょうカ」







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