のんびりしたい魔人と氷姫 

志位斗 茂家波

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月夜の夜に

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SIDEゼロ



‥‥‥市場での騒ぎから3日後、今宵は満月の夜であった。


「綺麗な月夜だなぁ…‥」

 
 深夜、ゼロはそうつぶやき、湖のほとりで作った切り株に腰を掛け、持ってきたお茶を飲んで満月を眺めた。

 異世界に来てたまになんとなくであるが、こうやって一人感慨にふけりたくなる時もある。

 中二病とかではなく、純粋な気持ちである。





 この世界でも月夜は綺麗であり、湖に移るもう一つの鏡花水月とでもいうべき姿もなかなか風情がある物で、こういった絶景はなかなかお目にかかれないであろう。


 それに、今日はいつも以上に空が澄んでいるのか、夜空に浮かぶ星々もいつも以上にその存在感をはっきりとさせていた。



 地球とは星の並びも違うので星座とかはわからないが、こうやって一人でいるとホッとする。

 でも‥‥‥物足りなさも浮かんでくる。


 今の時間、フリージアは自室の方で寝ているはずである。



 そんな彼女と、この世界でのんびりしたいと言う目的のために共同生活をしていたのだが、いつしかその存在はゼロにとって大事なものになっていた。


 毎日共に起床し、それぞれの時間を過ごしつつも笑いあうこの毎日が限りない大切な時間だと思えるのだ。



 でも、フリージアは人間であり、そして今のゼロは魔人。

 寿命とかも違う可能性があり、そしていつかはこの関係が終わってしまう可能性がある。

 そう考えると、どこか悲しいようにも寂しいようにもゼロは思えるのだ。





 どこかで距離を保って、そしていつか来るであろう別れも大丈夫なようにしたかったのだが‥‥‥



「‥‥‥結局、距離を保てそうにないなぁ」




 あの市場での馬鹿奴隷での時に、思わず体の方が先に動き、そして自分からフリージアを守るような行動を彼はとったのである。

 そして、あの馬鹿の言い分を聞くとむかむかして、今すぐにでもぷちっとしたくなるような怒りを自然と覚えていた。





 ‥‥‥こうやって思うと、其の時の感情の正体は何だったのかゼロにはわかった。



 距離をとろうとしても、もっと近づきたいと思ったり、とっさに身を挺して守ろうとしたり、愛しく思えるその気持ち。


「‥‥‥もしかして、俺ってフリージアの事がいつの間にか好きになっていたのかもなぁ」


 思わず口から出るつぶやきは、外に染みわたるかのように‥‥‥‥


「…‥え?」
「ん?」


‥‥‥そして、声が聞こえたので振り向けば、そこには驚いた顔のフリージアが立っていたことに、ゼロは今さらながらに気が付いた。


 どうやら今のつぶやきは、ばっちり聞こえたようである。



 互いに顔を赤くし、動けなくなったのであった。



――――――――――――――――――――――――――――
SIDEフリージア


…‥‥時は少し遡る。



「‥‥‥ちょっと寝にくいわね」


 あの市場でのゼロの助け依頼、フリージアは少し寝つきが悪かった。


 ふと、月明りが綺麗だったので窓から外を見ると、ゼロが家から出ていくのを見かけた。


「?」


 不思議に思ったので、ばれないように彼女はこっそりついて行った。



 




 たどり着いたのは、湖のほとりに一つある切り株。

 そこの上にゼロは腰かけ、何処からかお茶を取り出し、月夜を眺めて飲んでいた。



(‥‥‥この雰囲気だと、ワインの方が似合いそうよね)

 内心そう思ったが、まぁゼロだからと言う便利な言い方でフリージアは気にしないことにした。







 様子を見ると、どうやら単純にこの月夜の風景を見て感慨にふけっているようである。


 特に何もするわけではなさそうなので、家に戻って寝ようかと考えたが、ここでフリージアは少しいたずら心が出た。


 こっそり後ろから近づいて、目を隠して驚かしてみようと思ったのである。

 こういう大胆な行動に出ようと思いついたのは、この綺麗な夜空のなせる業であろうか?





 とにもかくにも、フリージアは足音をできるだけ立てずに、気配を薄くして忍び寄った。


(さて、ゼロさんはどんな反応をするかしら)

 ちょっと楽しみになって、近づいたその時である。


「‥‥‥結局、距離を保てそうにないなぁ」
(ん?)


 ゼロが何かをつぶやき、その声がフリージアの耳に入った。


 独り言だろうけど、何なのか気になったので近寄って…‥‥


「‥‥‥もしかして、俺ってフリージアの事がいつの間にか好きになっていたのかもなぁ」
「…‥え?」


‥‥‥そして、いきなりのゼロの言葉にフリージアは思わず声を出した。


 はっとゼロが気が付いて振り返った時には、あと一歩のところの距離だった。




 思いもよらない突然の言葉に、彼女は顔を赤くさせ、そしてゼロも顔が赤くなった。



「えっと、そのフリージア、今のは、その」

 少し動けなかったが、先に動いたのはゼロであった。

 いつもの彼とはまた違い、物凄く動揺しているその姿。

 今まで見たことのないような姿とはいえ、先ほどの言葉は嘘偽りがないようにフリージアは思え、そして嬉しくも思えた。


「‥‥‥大丈夫ですよゼロさん」
「え?」

 フリージアの言葉に、ゼロがぴたりと止まる。


「だって私も…‥‥ゼロさんの事が、好きですから」



 そうにこやかに、ちょっとと恥ずかしい気持ちになりつつもはっきりと言ったフリージア。





 告白するのなら男性の方が先だと考えてはいたが、こうやって女性である自分から告白するのも悪くないと、フリージアは思う。

 そして、抱いた恋心をはっきりと気持ちに表すのは、今、この場でしかないと決意したのである。



 そっとゼロのすぐ前に近づくフリージア。


 そして、手を伸ばして抱き付いた。



「ゼロさんの、いえ、ゼロのその言葉に嘘はありません。そう感じ取れましたし、私も‥‥‥いつしかあなたの事が好きになっていました」


 そう言いながら、フリージアはゼロに抱きしめる。

 顔が赤くなっているのを見られたくないという想いと、はっきりと伝えたい思いが出たのだ。

 「さん」づけを止め、はっきりと言葉にして伝えるフリージア。


 そして、ゼロの方は…‥‥




「‥‥‥ああ、俺の方こそフリージアのことが、いつしか好きになっていた。一緒に過ごし」
「ともに笑い」
「そしてこの生活を、毎日を楽しく過ごしてきた」


 ゼロの言葉にフリージアが重ね、互いの思いを伝えあう。



「「‥‥‥だから、いつしかあなたのことが好きになりました」」

 ほぼ同じタイミングで、二人の声が重なり合った。





 相思相愛、そう呼ぶのが正しいのだろう。

 ゼロが抱きしめ返し、フリージアに顔を近づけていく。

 何をしようとしているのかわかり、フリージアはそっと目を閉じて、其の時を待った。


 そして、互いに口が重なり合い、その両者の愛が確かめられた。








‥‥‥綺麗な夜空に浮かぶ月明りの下、湖のほとりで今宵、二人は想いを確かめ合い、そして受け止め合った。


 家に戻り、その愛しい衝動のまま契りを彼らは交わすのであった‥‥‥


 


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