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才媛酒宴編

55.炎と鉄の国

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 ロストアイ皇国を出発してから約一週間。
 空は秋晴れ。道中何事も無し。
 私はというと、そろそろ夏も終わりの涼しい風を浴びながら、ほろの上に寝そべりステータスを眺めていた。

「フッフッフ…♡ついに習得したぞ【空間魔法】!」

 念願の【空間魔法】~♡
 【百合の姫】でアウラと繋がったことで使えるようになったんだけど、これで出来ることが増えるな~。
 短距離転移の超高速戦闘……は、自力フィジカルで似たようなこと出来るか。
 差し当たっては【空間魔法】のド定番、今までいったことのある場所への転移門ゲートかな。
 ニシシ、いきなり顔見せに行ったらお父さんもお母さんもびっくりするだろうな。

「サンキュー、アウラ」

 しかし、なんとまあ圧巻なスキルの量だ。
 魔法も戦闘系スキルも日用系スキルも幅広い。
 リベルタスの加護でスキルが習得しやすいのもあるけど、これだけの女たちと繋がっていると思うと身体が熱くなる。
 ほんと熱く…あつ…

っつい!!」

 なんだ?急に気温が高くなった。

「ディガーディアーの気候帯に入ったようじゃの。おお、見えたぞ。あれじゃ」
「見えたって…普通にデカい岩山が一つあるだけじゃん」

 標高千メートルとちょっとの火山…この熱気はそれか。

「あの山に街があるとか?」
「当たらずとも遠からずじゃ」

 山の麓に石で作られた巨大な砦。
 関所と防衛基地を兼ね備えているようだ。

「ディガーディアーへようこそ。失礼ですが、身分証を拝見します」

 私たちはギルドカードを提示する。
 リルムたち従魔は一人銀貨2枚を要求された。

「私従魔じゃなくて精霊なんだけどなぁ」

 と、トトはドロシーの帽子の縁に座って小さく頬を膨らませた。
 そんな中、シャーリーは穏和な笑みで衛兵に向いた。

「申し訳ありません。旅の途中で紛失してしまいまして」
「では滞在証を発行致します。手数料に大銀貨1枚が必要になりますが」
「はい。ではお願いします」

 シャーリーは身分を詐称しているため、街に入るときも税を納めている。
 難儀な立場だ。
 いつかシャーリーも堂々と名乗れるようにしてあげたいな。
 手続きを終了した私たちは、案内されるままシャッター付きの箱に乗せられた。
 滑車じゃない…魔石で動かしてるみたいだけど、もしかしてこれってエレベーター?
 どんどん下へと降りていって、眩しい光と活気づいた街が私たちを出迎えた。

「なんだあれ…!太陽?ていうか空?森も湖もある!こんな地下で?」

 ていうかさっきまでの暑さが嘘みたいに涼しい。
 空調?このエレベーターといい、これが…

「ドワーフの国…!技術国家、ディガーディアー…!」

 ヤッバ…ワクワク止まらん!



 木と鉄の匂いを漂わせ、鎚の音が陽気に響く街。
 ディガーディアーは、火山の地下を丸ごとくり抜いた国だった。
 大きさはだいたいユニバーサルなテーマーパークの約3倍。
 ロストアイ皇国並みの小国で、国としての歴史はドラグーン王国と並んでまだ浅い。
 けれどその技術は世界随一であり、建国当初から新興国に数えられていたほど。
 世界に広まる魔石ランプやお湯の出る浴槽なんかを作ったのもドワーフだって話だ。

「元々この地にはミスリルやオリハルコン、アダマンタイトといった希少金属の他、特殊な金属が採れる鉱脈があり、それを基点に拡げ街としたのがディガーディアーの起源と記憶しています」
「ドワーフとは元来火と土に生きる鉱夫の血族じゃからな。それでも急速に文明レベルを引き上げたのは、ここ数年と最近の話だったはずじゃが」
「鉱夫の血族かぁ。その辺はドワーフのイメージ通りって感じだな。そういえばここって火山の地下なんでしょ?マグマってどうなってんの?それに異様なくらい快適なのはどういうこと?」
「中央に塔があるでしょう?」

 シャーリーが指の先には、空に向かって巨大な柱が伸びていた。

「あれは炎の塔。中は空洞ですが造りは堅牢強固で、マグマを汲み上げ、その熱を様々なエネルギーへと変換するのと同時に、余分な熱を外に放出する役割を持っているんです。生み出されたエネルギーは街の各所に流れ、様々な用途に利用されています」
「熱をエネルギーに…高温発電とか熱電発電みたいな仕組みってことか。進んでんなぁ。にしてもシャーリー詳しいね。もしかして来たことある?」
「ええと、まあ。その…」

 眼鏡の奥で目が泳いでいる。
 関係か…深くは言及しまい。
 文明の発展を担っている種族なだけあり、街には自信と誇りを顔に表したドワーフたちが多く往来している。
 彼らの特徴として、男性はアニメや小説で見るような、ひげを生やした小さくもがっしりとした体型なのに対し、女性は筋肉質ながらスレンダーということが挙げられる。

「なんかみんな強そうだね」
「ドワーフといえば力自慢、美しい肉体、そして自身の持つ技術の高さで性としての魅力が高いと言われているくらいですから」

 ほうほう。
 私は気付いた。

「じゃあ私めっちゃモテるんじゃね?」

 強いし美しいし才能の塊だし。
 その辺歩いてるドワーフの女の子たちにニッコリと手を振ってみる。

「なんて美しい人…」
「スタイル抜群…」
「羨ましいわ…」

 これもう勝ち確ムーブ決まってるわ。

「国を魅了する美しさって罪すぎる。逮捕されたらどうしよ」
「さすがですリコリスさん」
「過度な自信で身を滅ぼせばいいのに」
「悲しき怪物め」
「一度逮捕されたらどうですか?」

 黙ってろべた惚れ勢。

「そっそれで、どこに向かってるんです…か?」
「ヴィルからこの国の王様宛に紹介状を預かってるからお城には行かないといけないのと、あとは冒険者ギルドで素材と魔石の売却、商業ギルドでパステリッツ商会に肉を卸して、教会にも行っておきたいな。でも、その前に何か食べよう」
「さんせー!」
「でーす!」

 てなわけで、とりあえずご飯にするよ。



「おおふ…」

 白ひげ亭って名前の適当な食堂を選んで入ってみたけど…

「味濃い…っていうか…」
「しょっぱいですね…」
「油も多くてこってりしてるわね…」
「胸焼けしそう…」

 けっしてまずいわけじゃない。
 ただ肉も魚もシチューも、サラダまで全部塩気がキツい。
 一日の塩分摂取量なんて知るかバカヤローって料理だ。

「ん?リコ、この芋にかかってるのってマヨネーズですよね?」
「おーそうだな」
「なんだ、知ってるのか?そうかお前さんたちドラグーン王国から来たんだな」
「ええ、まあ」
「こいつはドラグーン王国のパステリッツ商会が大々的に売り出してるもんなんだが、料理に幅が出るからおれも重宝してるんだ」

 私の作った調味料は他国にまで侵攻してるのか。
 よきよき。定期収入潤うわ。

「にしても味がキツすぎるけど…幅っていうか溝…」
「なに?おっと、いけねえ!!すまねえ!ついいつもの癖で作っちまった!」

 店の親父さん曰く、暑い地と火の熱で育ったドワーフは、大量の汗をかくため食事の塩分を強める風習があるらしい。
 濃い味付けなのはそのためだ。

「塩は酒と同じくらいドワーフの必需品だからな。待ってろ、今他種族用の味付けのものを出すからな」
「お気遣いありがとうございます。異文化の洗礼だな」
「いい経験をしましたね」
『おいしーよー?』

 唯一リルムだけはモリモリ食べてた。
 何食べてもおいしいんだよね君は。
 その後、親父さんは優しい味付けの料理を提供してくれた。
 これがまたおいしい。
 塩気に隠れていた素材の味が、これでもかと味蕾を刺激する。
 料理の腕はワーグナーさんにも負けてないんじゃないかな。
 
「ごちそうさまでした!」
「おいしかったです!」
「いやいや、よかったよ。すまなかったな。変なもん食わせちまって」
「いえいえ。勉強になりました」
「塩辛い飯の詫びに料金はまけておくよ。食後に何か一杯やるか?」

 親父さんは親指を立てると背後の棚を差した。
 エールにワイン、ミードにシードル、ウイスキー。
 所狭しと酒樽が置かれてる。
 食前食後だけでなく、食事にもガンガン酒を合わせるのがドワーフにとっては当たり前で、特に度数の高いものを好むらしい。
 さすがイメージを裏切らない。

「やめときます。子どもが一緒なので」
「ハハハそりゃそうだ。よし、ジュースでも作ろう」

 そう言うのをわかってたみたいに、親父さんは果物を持ってきた。

「ジュース?」
「丸かじりですか?」
「まあ見てな。この魔導具にカットした果物、氷を入れてスイッチを押す」
「中身が回転することによって、底の刃で粉々にするのと同時に撹拌を…」
「見たことない魔導具ですね」
「そら出来たぞ」

 グラスに注がれる、キンと冷えたジュース。
 ミキサー…だよね?

「わぁ、おいしい!」
「ほんとうね。それにしても魔法も使わないでこんなことができるなんて驚きだわ」
「ふ、普通に氷も出してきましたね…」
「そういえばさっきの料理、生の魚が出てきていましたね。海から遠いこの国で、いったいどうやって」
「これがドワーフの技術ってやつさ。魔法も腕力も使わずにジュースを作れる魔導具に、温度を調整し食材を新鮮に保つ魔導具、氷を作れる魔導具」
「魔石工学じゃな。昔から世界の発展に役立ってきた技術じゃが、よもやこれほどまでに発達していようとは」

 魔物の魔石は文字通り魔力マナの塊で、それを内蔵することで生活に役立つ器具を稼働させることが出来る。
 ようは電池で動く家電だ。
 ミキサーに冷蔵庫に冷凍庫、製氷機、よく見れば店の中の気温は天井に取り付けられたエアコンみたいな魔導具で調整されている。
 
「まさかこの魚も、その技術の産物ですか?」
「学が無ぇもんでおれも詳しいことはわかってねえが、稚魚を育てて卵を産ませてって風に、自分の手で育てて増やすって方法を執ってるらしい」
「養殖?!」

 マジで驚いた。
 元の世界でさえ、養殖業に日の目が浴びたのは1900年代後半頃なのに。

「ドワーフってすごいんだな…まさに技術者」
「そりゃドワーフはみんな、何かしら自分の技術に自信と誇りを持ってるさ。工学の分野に限定するなら、本物の技術者ってのはあの方一人のためにある言葉だろうが。料理の腕はなんてったっておれがピカ一さ」
「あの方?」
「ところで、お前さんたち宿は決まってるのか?まだならうちに泊まるといい。一部屋ベッド二つで銀貨5枚、食事は別だが部屋には風呂も付いてるぞ。従魔は裏の納屋が空いてるな」
「お風呂付き!しかも安い!お願いします!」

 思いがけず宿も決まったってことで。
 さあ、いざお城へ。



 炎の塔の麓に建てられた城の周囲には鋼鉄の城壁が聳え、ほぼ要塞の様相を呈していた。
 難攻不落の文字がいやに似合うって感じだ。
 城に訪れたのは私とアルティ、エヴァ、それに師匠せんせい
 後のメンバーは街でお買い物がてら散策に向かった。

「すみません。国王陛下にお会いしたいんですけど」

 なんて言ったら当然怪しまれたけど、そこはさすが女王直筆の紹介状。
 門番の兵士は目の色を変えて慌てふためき、すぐに王様への謁見が叶った。
 王国から事前に連絡が来ていたようで、それもあって事はスムーズに進んだ。
 あくまで私的な訪問ということなので、玉座の間での謁見ではなく来客用の部屋に通された。
 緊張しながら待つこと十分。
 
「おうおう、待たせたな!」

 筋肉ダルマってイメージの強い王様と、え?マネキンってくらいグラマラスな王妃様がやって来た。

「お前たちがヴィルストロメリアの紹介を受けたという冒険者だな!」
「はい。百合の楽園リリーレガリアと申します。私はリーダーのリコリス=ラプラスハート。位は伯爵です。それから仲間の」
「お初にお目にかかります陛下。しろがねの大賢者、アルティ=クローバーと申します」
「なっ奈落ならくの大賢者…エヴァ=ベリーディース…です」
「テルナ=ローグ=ブラッドメアリーじゃ。よしなに頼むぞドワーフの王よ」
「うむ!我はドワーフが王!ガリアス=ソーディアス=ディガーディアー3世である!これは我が妃、シルヴィア=ソーディアス=ディガーディアー!」
「はじめまして、百合の楽園リリーレガリアの皆様。どうぞよろしく」

 立ち話もなんだと着席を勧められ、給仕のお姉さんがお茶の用意……じゃないな、お酒だこれ。
 グラスに丸い氷を一つ。
 ガリアス王は並々と注がれたウイスキーを一気に流し込むと、酒気を帯びた息を吐いて唸った。

「遠慮は要らぬ。好きにやるといい」

 豪快というか、これがドワーフ流か?
 初対面の前でいきなり酒盛りて。
 しかも兵士も臣下も傍に付けず、給仕すら部屋の外に下がらせるとか。
 
「どうした?酒は苦手か?」
「あ、いえ。私たちが賊だったらとか考えないのかなぁ、って思ってました」
「それを堂々と言うのも大概不敬だと思いますよ」
「あ」

 ヴィルと話す感覚でやっちまった…って口を押さえたら、ガリアス王はガハハと膝を叩いた。

「そいつの人となりくらい見抜けずして何が王か。お前がその気ならば、とうに我の首は刎ねられているだろうに」
「達観…いや、そなたのそれは諦観のように見えるが?」
「英雄の子にドラグーン王国が誇る大賢者が二人、それに加えて世界最強に数えられる一柱が同席しているともなれば、ある程度の覚悟はするとも。無論、我以外に危害を及ぼすつもりならば、相討ち覚悟で一人は道連れにしてみせるがな」
「物騒な話ですね」

 ほんとにね。
 腹を割ってじゃないけど、一人だけ飲ませるなんてお酒の席にはあるまじきだ。
 せっかく機会を設けてもらったんだから友好的に行こうと、私もガリアス王に倣ってウイスキーを波々と注ぎ一気に煽った。

「ほう」
「うっえ…」
「ガハハハ!うむ、気に入ったぞリコリスとやら!いける口だな!よしもう一杯いけ!」
「どもども。んじゃご返杯で」

 私の飲みっぷりが大層お気に召したようで、ガリアス王は上機嫌にグラスを打ち付けた。
 それを諫めるのはシルヴィア妃だ。

「あなた、あまり無理をさせては可哀想ですよ。人族はドワーフほどお酒が強くはないのですから」
「お気遣い痛み入ります。自分の容量はわかってるつもりなので」

 【状態異常無効】があるから泥酔することはないんだけどね。
 飲めるのは飲めるんだけど、ウイスキーの味って全然わかんないんだよね…
 甘いシロップに樽の木の香りが混ざった匂いはすごく好きなのに。
 レモンを絞れば少しは…うん、飲めなくはない。

「そなたばかりズルいではないか。わらわにも飲ませよ」
「では私がお作りしますね。アルティさんとエヴァさんは、ワインにしますか?それともジュースの方がよろしいでしょうか」
「恐れ入ります」

 お酒を作る王妃様…ロイヤルすぎる。
 にしてもボンッキュッボンだな…目のやり場に困っちゃう。
 あ、嘘ウソ。普通におっぱいガン見してるよ☆

「いい女だろう」
「はい、めちゃくちゃ。場所が場所なら押し倒してましたよ」
「素直なところも美徳だな。ヴィルストロメリアが好むのも頷ける」
「ヴィルとはどういう関係なんですか?」
「我とシルヴィア、それにヴィルストロメリアとはナインブレイド学園の同級生でな。同じ王族ということで馬が合った。よく剣の腕を競ったものだ。あいつの剣才は英雄ユージーン、お前の父親と比肩するとまで謳われ、剣の鬼と書いて剣鬼と呼ばれて恐れられていたんだ」
「陛下も父と知り合いなんですか?」
「我は高等部からの編入であったし、クラスは別だったから直接関わった機会は数える程度だ。そもそもあいつは二年の夏に学園を中退したしな」

 不肖の父でほんと…

「しかしあの破天荒な英雄が子を設けていたとはな。当時から学園のマドンナだったソフィアと恋仲だったのは知っていたが」
「学園のマドンナ?母が?」
「ああ。男子生徒の憧れの的だったんだぞ。本人から聞いていないのか」

 私が学園に通わないって言ったからか、たしかにそういう話はした覚えがない。
 しかしお母さんがマドンナか…

『次悪さしたら羊と一緒に丸刈りにするわよ』

 魔貪女マドンナの間違いじゃなくて?

「何をするにも注目の的でな。教師の中には求婚して玉砕した者もいたとかいう話だ。肢体という意味では唆られぬが、あの美しさには舌を巻いたものだ」
「あら、まさか今でもお慕いしているなんてことは」
「そっそんなことあるわけあるまい!!我はお前ひとすじよ!!」
「ならいいんです」

 尻に敷かれてんなぁガリアス王。
 親近感湧くわ。
 うちも女性陣の強いこと強いこと。
 私も女だけど。



「ゴホン!して、お前たちは何の目的があってディガーディアーを来訪した?」
「特にこれといって。気まぐれな旅路の途中というか。強いて言うなら可愛い女の子を探しに」
「なんだ嫁探しか?」
「まあそんなところです」
「ガハハハ、それだけの美女を侍らせておきながら贅沢だな」
「本当に」

 アルティがすました顔で腿をつねる。
 ゴメンて欲張りで。

「そういうことなら、眼鏡にかなった女を連れて行くといい。国の迷惑にならんのなら、我が口を出すこともない。ただしシルヴィアはいかん。手でも出されれば我はお前を処刑せねばならんからな。ガハハハ!」
「ハハハ…肝に銘じます」
「ん、女といえば…何か忘れているような」

 グラスを口に運ぶ手を止めて小首を傾げるガリアス王。
 すると、扉の外からドドドドと勢いのある足音が聞こえてきた。

「お、父、様ぁぁぁぁぁ!!」

 扉が吹っ飛んだ。
 なんだなんだと視線をやると、あら見目麗しいかわい子ちゃん。
 ゴージャスなミルキーブロンドの髪を見事なドリルツインに仕上げた美少女は、ガリアス王の襟首を掴んで頭を揺らしだした。

「なんでわたくしを仲間はずれにするんですの?!王国のお客様が見えたら呼んでくださいとあれほど口を酸っぱくして申しましたのに!」
「おおお落ち、落ち着けええええミルクぅぅぅ!!今っ、今呼びに行こうとだな!!」
「もうしこたま飲んでるじゃありませんの!わたくし百合の楽園リリーレガリアの皆様に会うのを楽しみにしていましたのに!わたくしがどれだけ!どれだけ!もうっ、もうもうもう!許し難きことこの上なしですわぁ!!……はっ!」

 ひとしきり暴れて、少女は私たちがぽかんとしているのに気付いて咳払いをした。

「コホン…あなたたちが百合の楽園リリーレガリアですわね!オーホッホッ、わたくしはディガーディアー王が嫡女!ミルクティナ=ソーディアス=ディガーディアー!人呼んで万剣ばんけん王級鍛治師ブラックスミス!あいにくと冒険者に名乗る名など持ち合わせてはおりませんわ!」

 ……チラッ。
 ガリアス王は困り顔。シルヴィア王妃は苦笑い。
 なんていうか…濃いお姫様だな。



 ――――――――



「くあ、ぁぁ…。なんか騒がし…なに?てかめっちゃ寝すぎた…身体ガチガチじゃんしんどウザ…」

 城の一室。
 少女は筒に入った冷たい飲み物を口にすると、一度起き上がったベッドにまた倒れた。

「ぷは…エナドリ飲みたすぎヤバ。今何時…?」

 枕元のぬいぐるみを抱き、寝起きの気怠さに息をつく。

「もースマホ無いのマジ無理~。退屈すぎて死ぬ~。はぁ…なんかおもしろいことないかな…」
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