百合チート持ちで異世界に転生したとか百合ハーの姫になるしかない!!

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才媛酒宴編

57.万象一切灰燼と為してやるわ

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「えー…じゃあ、私と寝る権利を賭けた飲み比べを始めまーす…って、なんで私がレフェリーやんの?」

 用意したお酒はワイン。
 最初はウイスキーでやろうとしてたので、さすがにバカかと止めた。
 【状態異常無効】を含めたスキルの使用禁止。
 じゃんけんに負けた順で、アルティ→ドロシー→シャーリー→師匠せんせい→エヴァと、リズムに乗りながら私のいいところを挙げながら一杯飲み干して、飲めなくなった人から脱落。

「いいからさっさと始めなさいよ」
「リコと寝るのは私です」

 私もチビチビやってよっと。

「はい、そんじゃ始めー。ゴク…」
「下着は白系が多い。ゴクゴク」
「ぶふぇぇ!!っあーウイスキーが器官に入ったっちぃ焼ける!おい待って私のいいところって言わなかった?!いきなりとんでもねえのぶっ込んで来た奴いるけど?!」
「次に多いのはピンク。ゴクゴク」
「待て待て待て続けんな止まれ!何これ私を辱める会?!」
「いいところ挙げてるだけなんですが」
「下着も込みで好きってことよ。邪魔しないで」
「おお…なんでそれで言いくるめられると思ったんだ…」

 まあ、好きならいいか…うん。
 …下着も込みで好きってなに?

「では改めて。ほんのりピンク色の乳首」
「私を貶める会じゃねーか!!いいところって普通優しいとか笑顔とかから入るだろ!!」
「乳首がピンクってまあまあの褒め言葉でしょ」
「そう、か…んん?」
「はい次テルナよ」
「血が美味」
「そ、れ、は…うん…?怒りづらくも喜びづらい絶妙なとこ挙げたな…」
「か、可愛い…」
「そんで唯一の良心エヴァよ…好ち」

 で、そんな感じで飲みが進んだ。
 けどこんな無茶なペースの飲みなんて長く続くわけはなくて、二、三週したあたりから失速。
 当然決着は早かった。

「ベッドの上では激しい」
「それでもって甘く丁寧」
「懐の深さ」
「情に脆く義に厚い」
「わっ私たちを大事にしてくれるとこ…ふにゅう…」

 まずエヴァが潰れた。
 妥当な結果だ。はいベッド行こうね。

「いい匂いがする」
「抱かれてると安心する」
「志の高さ」
「血がァ、美味ぃなの、じゃ…きゅー」

 次に師匠せんせいがダウン。
 普段は【状態異常無効】でガンガンに耐性付けてるだけで、容量自体はそんなになんだよね。 

「スケベなとこ…」
「エロいとこ…」
「魅力的なところ…と、ここまでにしておきましょうか」

 シャーリーはまだまだ飲めそうだったけど、残り二人の様子を見て自分から退いた。
 さすがこういうところは大人だ。頼りになる。
 んで残りの二人なんだけど。

「顔がぁ…とにかくいいんですよぉ…」
「おっぱい超やーらかいのぉ…」
「ベロッベロじゃねーか。もういいからそろそろやめとけって」
「なーにをぅ、言ってるんですかぁー…!私はまだ負け、負ーけてにゃいんですはらねー。んーリコー好きれしゅよー」
「これからぁ、これからよー…まーだまーだリコリスの好きなところいっばい…あらー?なんで分身してるのよあんたぁ…」
「してねーよ。ほら、もう休めって。私のこと好きなのはわかったから」
「やーでーすー!まだ飲め…うっ!」
「飲める…ぅぷ!」
「へ?」
「「ぉえええええええええ!!」」

 ゲロイン降臨☆
 だーからやめとけって…ビッチャビチャじゃねえか…
 はいはい浄化ピュリフィケーション浄化ピュリフィケーション
 こりゃ明日は一日ベッドだな。

「やれやれ。とりあえずベッド運ぶか」
「お手伝いします」
「サンキューシャーリー」
「いえいえ」
「私らも寝るか」
「はい♡」

 ギュ…

「いや、あれ?シャーリー、さん?なんで抱きついて…」
「言いましたよね。お手伝いします、って」
「手伝いってそっちの、あ、あ、あーーーー♡」
「ウフフ♡」

 結局シャーリーが一番したたかだったのでしたとさ。
 暗殺者の手練手管しゅっごい。
 


「頭痛い…」
「うぅ…」
「そりゃそうだろ酒臭い」

 案の定アルティにドロシー、師匠せんせいにエヴァは酔い潰れてダウン。
 今日は使い物にならなそう。

「シャーリー、悪いけどギルドの方は頼むね。依頼は受けますって。日時とか報酬とか細かいことはシャーリーが決めといていいから」
「かしこまりました」
「…なんかツヤツヤしてんな?」
「それはもう」

 ハハハ。

「マリア、ジャンヌ一緒においで」
「うん!」
「トトはどうする?」
「ドロシーたちが心配だから一緒にいる!」
「そっか。じゃあ頼む」
「任せて!」

 リルムたちは相変わらず宿でゆっくりしてるとして、いざとなったら【念話】で呼ぶだろ。
 回復ヒール解毒アンチドートをかけてもいいんだけど、教訓として寝ててもらおう。

「酔い醒ましの薬置いとくから、ちゃんと飲むんだよ。じゃ行ってくるね」
「行ってきまーす!」
「行ってきます!」
「大きな声…」
「お願いやめて…」

 生ける屍と化したアルティたちを置いて、私たちはお呼ばれしているミルクちゃんの工房へと向かった。



 城壁の中の一角。
 ミルクちゃんの工房はこぢんまりと建てられていた。
 城の設備というより、ミルクちゃん専用のもののようだ。

「オーッホッホ!よくぞいらっしゃいましたわ!歓迎して差し上げましてよ!とりあえずお茶とお菓子でいいかしら?」

 そんな尊大な態度で本当に歓迎してくれるじゃん。

「お招きいただき、でいいかな。今日は私の妹を連れてきたよ」
「はじめまして、マリアです!」
「ジャンヌです!よろしくお願いしますお姫様!」
「まあまあまあまあ!なーんて可愛らしい子たちですの!あらあらあらあら!あー可愛さで目が潰れちゃいますわぁ!どうしましょうどうしましょう!と、とりあえずお小遣いを…」

 出すな出すな金貨を。

「それよりミルクちゃん、工房の中を見せてもらってもいいかな?」
「そ、そうでしたわ!フンッ、ちょっと可愛らしいからって調子に乗らないことですわ!でもせっかくなら愛らしい耳と尻尾をなでなでさせてくれてもよろしくてよ!あ、刃物や火には充分気を付けるようになさい!危ないですからね!」
「お姉ちゃん?」
「指差さないよマリア」

 変わってるだけでいい子だから。



「では、わたくしは剣を打っていますので、どうぞごゆっくり」

 轟々と燃え盛る炉。
 鎮座する鉱石の山に、そこにあるだけで威圧感を放つような剣。
 重苦しいというか息苦しいというか。
 子どもの頃、村の鍛冶師のおじさんの工房で剣を打たせてもらったことがあるけど、まるで圧迫感が違う。
 炉の前で息を整え鎚を振り下ろすミルクちゃんからもまた、同じようなプレッシャーを感じた。

「フッ!!」

 打ってるのは普通の鉄なのに、ミルクちゃんが鎚を鳴らす度に、呼吸するように光を放つ。
 鎚に魔力マナを通すことでより剣を鍛えやすくしているようだ。
 ちょっとばかりステータスを拝見…【鍛冶神の加護】…。
 ディガーディアーで崇められてる四柱の内の一柱。
 神様に認められた鍛治師ってことか。
 だけどあれは加護の力だけじゃなくて、鍛冶師としての素の能力が高いんだろう。

「なんかカッコいいね」
「うん、カッコいい」

 二人の褒め言葉も耳に届いていない。
 とんでもない集中力を発揮しつつ、ミルクちゃんは異様な速さで様々な工程をこなした。
 鍛錬、焼入れ、研ぎ。それら全てを約十分で。
 この辺は加護の効果もありきなのかもしれないけど、一つ一つの工程は何も疎かにしていない。

「ふう…まあまあですわね」

 妹たちの目にもミルクちゃんの仕事は高尚で高次元のものと映ったようで、額に汗する彼女を拍手で称えた。

「すごいねお姫様!」
「とてもカッコよかったです!」
「そ、そうですか?フフフ…オーホッホ!わたくしにかかればこんなものですの!」

 機嫌をよくしたミルクちゃんは、瞬く間に持ち前の仕事を終わらせた。
 
「さあさあ今日の仕事を終わらせましたわ!何をして遊びましょう!」
「あ、ミルクちゃん。もしよかったら私にも工房を貸してもらえないかな?」
「工房をですか?それはもちろん、敬愛するリコリス様の頼みですので、設備でも素材でも何でもお好きに使っていただいて構いませんけれど。何か打ちたいものでも?」
「この子に刀を一本打ってあげようかなって」

 ポン、と頭に手を置く。
 前にマリアに約束したもんでね。

「やった!ミオさんと同じやつ?わーいわーい!」
「よかったねマリア!」
「うん!」
「刀ですか…わたくしも以前何本か打ったことがありますが、あれは特別難度が高い代物ですよ」
「ニシシ。ま、なんとかなるでしょ」

 元の世界でも刀鍛冶って国家資格だったくらいだし、私も適当な気持ちでは臨まないとも。
 
「やるからには真剣だ」

 服をシャーリー特性のつなぎに着替え頭にタオルを巻く。
 何事も形から入るのが私流だ。

「きゃーきゃー!勇ましすぎますわー!」

 カメラ連写するじゃん。
 さてと、んじゃ始めますか刀造り。



 まずは金属の生成から。
 ヘルガの【鉄魔法】で鉄を生み出し、マリアの【爆炎魔法】とクルーエルの【蒼炎魔法】で加熱。そこへ炭と貝殻の粉末を混ぜながら、【風魔法】で空気を送り込む。
 魔法でだいぶ簡略化してるけど、たたら製鉄の要領だ。
 これを何度か繰り返して出来たのがこの玉鋼。刀の良し悪しはこれの質で大半が決まるらしい。

「魔法で製鉄する技術は在りますが、ここまで混じりが無く純度が高いのはリコリス様の魔法に由来しているようですの」

 専門家の目にも上質らしくてよかった。
 んじゃこれを打っていこう。
 普通の刀だとマリアには長すぎるから、それより短く作るのが良さそう。
 火の温度を調整して、ミルクちゃんがやってたみたいに鎚に魔力マナを込めて、と。

「そーりゃ!」

 【刀工】を習得しました。
 【名匠】を習得しました。
 ……魔力マナ込めすぎた。

「これは、どうなんだ?」
「どうもなにも、充分国宝に価する出来映えの刀ですの…」

 だよねぇ。
 やっぱスキルって偉大だわ。
 初めての刀鍛冶でこんな…全ての鍛治師が怒り狂うんじゃないだろうか。
 ミルクちゃんも呆れてぽかんとしてるし。

「でもこれって出来がいいだけで普通の刀なんだよね」

 これがマリアに相応しいかっていうと、うーんって感じ。
 かといって私のスキルじゃこの変が限界だし…あ、そうだ。
 【管理者権限アドミニストレートスキル】で鍛冶関連のスキル全部統合しちゃろ。
 諸々同系統のスキルも統合した結果、【鍛冶神の恩寵】と、ついでに【酒神の恩寵】が出来上がった。
 これならワンランク上の刀が打てるだろって、試してみたら案の定。

「おーいい感じ。んでもって【付与魔術】でめちゃくちゃバフかけたろ。目指せ流刃○火。万象一切灰燼と為してやるわ」

 まずシンプルに強度増加の術式。
 そこにエヴァの【重力魔法】を組み込んで、振るときは軽く、斬るときは重く叩き割る性能をプラスする。
 欠けても折れても再生する自動修復機能に、マリア用に耐火と耐熱性も必要だろ。
 あと炎をチャージする機能とかロマンだよねえ。
 最後に【爆炎魔法】をこれでもかと付与する。
 鍔と柄、鞘と飾り紐をいい感じに拵えて…

「よっし出来たぞ!私渾身の力作!」

 ほんのり桜色に光る刀身には、炎が揺らめいているような刃紋を浮かび上がっている。
 我ながらうっとりするなぁ。
 まさに息を呑む美しさ。
 
「どうマリア?」
「うん!なんかね、手にギュッてくる!これが私の刀かぁ…ありがとうお姉ちゃん!大好き!」
「オホホホ♡ご褒美ハグきもちきもち♡ってどうしたミルクちゃん。あんぐりしてるけど」
「あんぐり」

 それ口に出すやつなの?

「ありえませんありえませんわ!こんな精巧な刀に精密な付与を何重も…こんなの万剣ばんけん王級鍛治師ブラックスミスであるわたくしでさえ…い、いえいえ剣は壁に飾るだけでは意味が無いのですわ!振るわれてこそ武器としての機能美が浮かび上がるのです!」

 それはそう。
 なので、練兵場を借りて試してみることにしたよ。



 剣の相手は腕に自信があるってことでミルクちゃんが買って出たけど、さすがにお姫様相手にそんなことさせられない。
 ってことで私がマリアの相手をする。

「マリア、もし刀に違和感があったらすぐに手を離すんだよ」
「大丈夫!なんか行ける気がする!」

 フンスフンスと鼻を鳴らしてウズウズしてる。
 真剣の立ち合いだから私も気を抜かない。
 抜きたくはないんだけど。

「あの、陛下?」
「なんだ?」 
「なんだ?じゃなくて、何をしてるんですかこんなところで」

 どこから嗅ぎつけてきたのか、ガリアス王とシルヴィア王妃が揃って観覧している。

「何やらおもしろいことが始まりそうな予感がしてな。案の定よ。かの百合の楽園リリーレガリアの手合わせなど、金を取られても惜しくはない」
「見世物じゃないんですけど…ジャンヌ、何かあると危ないから防御しといて」
「はーい」
「よーっし、行っくよーお姉ちゃん!爆炎加速フレアアクセル!【電光石火】!【神速】!」

 マリアの足元が爆発したのと、全自動展開の防御結界【星天の盾イージス】にマリアが衝突したのがほとんど同時のこと。
 嘘だろ…ただ直線に駆けただけなのに、私の【神眼】を余裕でぶち破ったんだが。

「速すぎ…思いっきりぶつかったけど大丈夫?」
「平気!」
「みたいだね…。元気なのはいいけど、刀で攻撃してこなきゃ意味ないでしょ」
「あ、そっか!」

 失敗失敗とマリアは元の場所まで跳んだ。
 可愛いけど、今の【星天の盾イージス】が無かったらどうなってた?

「次、行くよ!」

 二回目は僅かに目が慣れる。
 速いのはあくまで直線の動きで、剣速は私の方が速い。
 見てから後出しで捌けると剣を差し出すと、刀が剣をすり抜けた。

「っぶねぇ!!」

 上半身反らしてリンボーダンスみたいになっちゃった。

「うおお…剣が真っ二つ…。これは焼き切れてるな。切り口が発火してるし」

 付与がしっかり働いてるようで何より。
 てか【直感】と【危機感知】が働かなかったら首チョンパされてたんじゃない?

「どうマリア?使ってみた感じ」
「うん!いつも使ってた剣より調子いい!まだまだ激しく行けるよ!」
「あんまり激しく来られるとお姉ちゃんさよならバイバイしちゃう――――」
「今度は思いっきり行くからね!」
「あ、聴いてねえなこの妹」

 楽しそうに刀に炎を纏わせやがって。
 かと思ったら、燃え盛る炎がフッと消えた。
 刀に付与したチャージ機構だ。
 ……ロマンだけであれこれ付与したけど、いざ目の当たりにするとそのヤバさが肌でわかる。
 あれだけの炎を刀身に凝縮して、火力と熱量を斬撃に変換しているとしたら。

救世一刀流ぐぜいっとうりゅう!」
「マリア、待って!!」
剡天下えんてんか!!」

 そりゃ分厚い鋼鉄の城壁も消し飛ぶわ。



「大変申し訳ありませんでした!!」

 その後、私は魔法で城壁及び抉れた地面の舗装などに奔走した。
 マジで人的被害無くてよかったけど、腰が折れそうになるくらい頭を下げた。

「城壁と諸々の被害のみで済んだのだ。そう悲観するな。おもしろいものを見せてもらった」
「ゴメンなさい…」

 ああマリア…私が調子に乗ったばっかりにそんなしょんぼり…

「気にするでない。じつに見事な剣だった。将来は立派な戦士になるだろう。いい姉を持ったな」
「……はい!」

 ガリアス王の多大な恩情に感謝だ。

「それにしても理外の剣を打ったものだな」
「本当ですわ。こんなに簡単に名刀を造られては、わたくしの名が霞んでしまいますの」
「名刀というより、これは妖刀の類だな。力が強すぎて人造の宝具アーティファクトと化している」
「妖刀て。いや、私のは結構…ていうかめちゃくちゃズルしてるから。技術も才能もミルクちゃんには敵わないよ」
「そ、そうですか?それほどでも…ありますわぁ!オーホッホ!オーッホッホー!」

 とにかく大事無くてホッとした。
 
「ゴメンなマリア。私が調子に乗ったばっかりに」
「お姉ちゃんは悪くないよ!私がこの刀を使いこなせてないから…」

 私の腕とマリアのポテンシャルが、刀の性能を大きく引き上げたってことにしておくか。

「そういえば、ものにしてるじゃん。救世一刀流ぐぜいっとうりゅう。刀抜きにしてもすごい剣だったよ。毎日ミオさんに言われた訓練やってるんだ」
「うん!まだまだミオせんせーみたいにはいかないけど」
「ニシシ。次会ったときには、ミオさんをびっくりさせてやろうな」
「うんっ!」
 
 そのうち私も敵わない剣士になっちゃうかもな。
 
「そうだ、せっかくなら刀に名前を付けてあげようよ」
「あ、それいい!」

 ジャンヌの提案に、マリアは刀に目を落として考えに耽った。

「どうしようかなぁ。うーんと、うーんと…うう思いつかないよぉ。ジャンヌ、何かいい名前考えて~」
「私でいいの?じゃあね……ほむらっていうのはどう?炎って意味だし、可愛くてマリアに似合ってると思うんだけど」
ほむらかぁ…うん!いい!ありがとう、さすがジャンヌ!エヘヘ、これからよろしくねほむら

 銘が決まると一層愛着が湧いたようで、マリアは人形でも抱くようにほむらを腕の中に収めた。
 後で少し能力を調整しようと思ってたけど…本人はえらく気に入ってるようだし、いっか。

「それよりゴメンねミルクちゃん。せっかく招待してくれたのにバタバタしちゃって」
「とんでもありませんわ。わたくしとしては百合の楽園リリーレガリアの手合わせが見れただけでもう滾って滾って、新しい剣のインスピレーションがガン湧きですわ。ルウリにも見せたかったのですけど、どこに行ったのかしらあの人」
「ルウリ?」
「ええ。昨日紹介しようとした発明家ですわ」

 たしかドロシーの話に出てきた女の子ってのもルウリって…同じ人か?

「どうせその辺をフラフラとしているのですわ。もう、困った人。自分の立場がわかっていないですの」
「そう言うなミルクよ。奔放はお前が幼少の頃からそうであったろう。あれは誰にも何処にも縛れぬ。生来そういうものだ」

 人物像が測れなさすぎる。
 会って確かめろってことか。
 話に聞いた感じだと、魔物の討伐に参加するらしいし。
 一旦宿に帰って、シャーリーからの報告待ちだな。



「っあ~…お粥うまいのじゃ…」

 みんな少しは回復したらしい。
 よかったよかった。

「沁みますね…」
「それ食べて早めに休みなね。それでシャーリー、どうだった?」
「はい。リコリスさんに言われたとおり、依頼クエストの取り決めを行ってまいりました。攻略はなるべく早い方が好ましいということでしたので、時刻は明日の朝方を呈示しました。達成に当たっての報酬は大金貨2枚。及びストーンイーターの素材、魔石を買い取り、その分を更に上乗せするとのことです」
「随分吹っ掛けられたな」

 ギルドが直接依頼したにしては、報酬としては安い気がする。

「こちらもそれでは条件を呑めないと返しましたが、達成の報酬として、ミスリル鉱脈における採掘権を認可すると付け加えられたので、それを以て是とした次第です」
「ミスリルの採掘権か…」

 ディガーディアーの四方の鉱脈は国の管理下にあり、そこで勝手に採掘をすると罰せられる。
 採掘権っていうのは、下手をすれば金貨何千枚という価値がある代物なんだとか。

「石に興味は無いけど、あって困るものじゃないからいいか。ありがとうシャーリー。ご苦労さま」
「もったいないお言葉です。それと、依頼クエストには一人同行者をつけてほしいとのことです」
「ルウリちゃんって子?」
「はい。彼女自身悪魔デーモン級の冒険者のようで、足手まといにはならないからとギルドマスターの言葉です」
「そりゃまあ、本人がいいなら」

 興味本位か好奇心か、はたまた道楽か。
 ま、なんでもいいんだけど。

「じゃあ明日のメンツを決めるぞ。まず私と、マリアとジャンヌ」
「やった!お姉ちゃんと一緒!」
「いっぱい頑張ります!」
「ギルドの依頼ってことで、シャーリーはお留守番になっちゃうけど」
「はい、甘んじて。お帰りをお待ちしております」
「サンキュー。んで、酔っぱらい組」
「不甲斐ないです…」
「今回はパス…」
「うっぷ…」
「酒って悪じゃよな…」
「それが飲んだくれの言葉か」

 はい、みんな揃ってお留守番。
 
「んじゃーリルムを連れて行くか。シロンはどうせ行かないだろうし、ルドナとウル、ゲイルは坑道じゃ自由に動けないから待機と。トト、一緒に来る?」
「うーんドロシーが心配だから」
「行っておいでトト…ずっと一緒も退屈でしょ…。アタシなら大丈夫だから」
「うーん…じゃあ行く!」

 トトも内心は暇を持て余していたらしい。
 私の頭に乗って足と羽をパタパタさせた。

「じゃ、そゆことで」

 明日に備えて今日は早めに寝ちゃうか。
 いよいよ例の発明家とご対面かぁ。
 楽しみ楽しみ。



 翌日。
 イーストマイン坑道前。
 時刻、昼。

「来ねえ!!」

 ルウリちゃん。絶賛遅刻。



 ――――――――



「すや…………むにゃ……ふがっ!」

 ムクリ…

「…………はっ!寝坊した!!」
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