あやかし観光専属絵師

紺青くじら

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序章 妖怪に出会いました

その表情で

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「これは……」

 ペンの筆先は七色に光っていて、角度によって違う色に見える。触ると、整われた毛先が心地よい。

「馬嵐の毛で作られたものだ。絵の具は、これを使ってくれ」

 うまあらし? 妖怪の類だろうか。
 ヤイはそう言って、茶色い木箱を差し出した。開けると12こほどの仕切りがついていて、それぞれ赤や青などの絵の具が入っている。

「ありがとうございます」

 俺はそう答えつつ、緊張していた。最近はもっぱら鉛筆や色鉛筆ばかりで、筆で絵はほとんど描いていなかった。

「あの、これって、画材や紙は他の人には見えるんですか?」
「いや、妖界の物だからね」
「俺不審者に見えませんか?」

 まだ駅には人がちらほらいる。俺の問いに、ヤイさんはとてもいい笑顔で返した。

「気にするな」
「気にしますよ!!」
「旦那、良い品がありやすよ」

 八矢はそう言うと、黒い筒を出してきた。からんからんと音が鳴る。

「この飴は妖界の物でして。食べてる間は、妖力が増します。普通の人間には見えなくなりますよ」
「そうなんだ……ん? 妖力が増す?」
「旦那は妖力が少しありますからね」

 その言葉に少し驚く。でも考えてみたらそうだ。俺が妖怪が見えるのは、特殊な力があるからか。

「飴をなめたらすぐ準備してくれ。烏杜さんが待っている」

 ヤイさんの言葉に、大事な事に気づき慌てて準備する。

「お待たせしました、烏杜さん! お好きな所に行って頂けたらと思います」
「ありがとうございます。では、ツリーの前に……良ければ人力車に乗ってる姿がいいんですが」
「へい、呼びやしたか!」

 待機していた六矢が呼ばれて喜んで飛んできた。かくして、人力車とツリーという少し不思議な組み合わせが出来上がる。

 真っ白なキャンパスを見て、深呼吸をする。最初の色は、黄色。全体に軽くその色をつける。
 そうして、ツリーの色をつけていく。緑を基調としつつも黄緑、黄色、赤、さまざまな色で彩っていく。烏杜さんと人力車は、ツリーがある程度描けた段階で描き始めた。
 烏杜さんの毛は、黒に青を混ぜて描いていく。瞳も黒の中に、光を散りばめた。
 始めて使った画材ははじめは抵抗があったが、徐々に手になじんでいく。

「できました!」

 そう言ったあと、これで良いのか急に不安になった。時間は三十分ほどかかった。その間、ただキャンパスと対象を見つめた続け、手を走らせた。

「ど、どうでしょう……」

 駆け寄って来てくれた烏杜さんに、用紙を差し出す。それを受け取った彼の顔が、明るく晴れ渡ってく。

 その表情で、バイトと絵を描いて疲れたはずの体が、一気に幸福感で満ちた。
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