あやかし観光専属絵師

紺青くじら

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第2章 おばあちゃんと化け猫

どうですかね?

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 目を覚ますと、時刻は昼の十二時にさしかかっていた。今日バイトは夕方からだから問題ないが、こんな遅く起きていいもんか自問自答する。まぁ寒くなってきたし、仕方ないだろう。そう結論づけて起き上がる。
 家は大学時代から同じで、1DKの少し年期の入ったマンションだ。部屋に家具はマットの上にベッドと丸テーブル、それと本棚ぐらいしかないが、所々に読みかけの本が散乱している。
 テーブルでパンを食べながら、ちらと部屋の隅にある植木鉢に目をやる。最近買ったそこには、烏杜さんからもらった苗が植えられている。一応一日一回水をやっているが、まだ芽は出ていない。

「春になったら咲くのかねぇ」

 そう言って考える。来年自分は、何をしているんだろうか。

 この前ギリギリだった事もあり、今日は余裕を持ってバイトに行く事にした。

「お疲れ様でーす」

 店内にはお客さんがいなかったので、気楽な挨拶で入っていく。

「お疲れさま」
「あっタカヒロさん、お疲れ様です!」

 そこに居たのは、恵理さんと勇也ゆうやだ。勇也は大学二年生で、明るく人懐っこい奴だ。今日はもう上がりのはずだが、恵理さんに何やら相談していて、手にはシフト表を持っている。

「どうかしましたか?」

 俺が聞くと、恵理さんが「24日出れなくなったんだって」と苦い顔で言った。24日と言えばクリスマスイブ、ものすごい忙しい日だ。

「彼女が旅行行きたいって言ってて……」
「あれ、別れたんじゃなかったんだっけ?」

 勇也は人懐っこい上、自分の身の上話をこちらが聞かなくてもマシンガンで話してくれる。つい先月振られたと言って、わんわん泣いていた。

「それが、彼女から連絡来まして! やっぱ俺が好きだって言ってくれたんすよ!」
「へぇ、それは良かったな」

 話を聞く限りかなり振り回されてるイメージだが、本人が幸せそうだからいいだろう。でも、シフトに穴を開けるとなると問題だ。恵理さんは頭を抱えている。俺のシフトを見返すと、24日は昼勤。勇也が夜勤だったから、入れる時間帯だ。

「俺、通しで出ますよ」

 恵理さんに言うと、彼女は申し訳なさそうな顔をした。

「いや、それは悪いわ。タカヒロ23日も一日入ってるし」
「特に予定ないですから」
「まじっすかぁ! タカヒロさん、神……! 本当に有難うございます。休みたいとこないっすか? 俺変わります」

 勇也が熱心に礼を述べてくれるが、本当に用がないし、クリスマスに一人でいるならバイトしてた方が意義がある気もする。恵理さんも悩みつつ、その提案を受け入れた。

「ごめんタカヒロ、お願いしてもいい?」
「はい。了解です」

 決まったところで、休憩室兼更衣室に入っていく。

「タカヒロさんは彼女いないんすか?」
「お前その質問何回目だよ。いないよ」
「もったいなー。タカヒロさんいい人なのに」

 その言葉に苦笑する。

「勇也がそう言ってくれるだけで、俺頑張れるわ」
「ツバキちゃんとか、どうですか?」

 突然出てきた人物の名に、思わずエプロンを着けていた手が止まる。

「新しく入ってきた子。タカヒロさん、会ったんですよね?」
「会ったけど……」
「俺ツバキちゃんと初めて会った日、彼女とヨリ戻りたてで、テンション高く話しちゃったんですけど」
「お前のコミュニケーション能力尊敬するわ」

 場面を想像する。陽気に話す勇也と、にこにこ困り顔のツバキさんの顔が浮かぶ。

「で、その時ツバキちゃんが聞いたんすよ。タカヒロさんは彼女いるんですかねって。いないんじゃないかなって答えたんですけど。なんか嬉しそうで」
「お前さ、そういう事言うなよ。今度会う時変なかんじになるだろ」

 勝手に意識してドン引かれる未来を想像する。「そうかなー」と勇也は言うが、現実そうだろう。

「本当に24日有難うございました! お土産買ってきます!」
「おぅ、やった。おつかれー」
「お疲れ様っす!」

 そう言って元気に去っていく。なんだかんだ言ってかわいい後輩だ。
 あいつ、もうツバキさんの事ちゃん付けなんだな。ホールは皆名前で呼び合うから自分も下の名前で呼んでるが、ちゃんで呼んでいいものか悩む。恵理さんのように、呼び捨てが自然か。

 考えながら、この前凝視してしまった時の彼女の顔を思い出す。耳まで真っ赤にしてたな。

「……勇也のやつ。自分が彼女いるからって」

 恨みのこもった声は、誰にも聞かれる事なく消えていった。
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