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第5章 お猿と行く温泉旅行
トキ
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「ヤイ様、お待ちしておりました」
御殿の中に入ると、女性に出迎えられた。赤地に紫の花が描かれた着物を身に着けていて、髪は結わえられ簪をつけている。
「久しぶり。今日はよろしく頼むよ」
「もちろん。エンジ様はうちらにとっても大事なお客さんですから。もてなしますよ」
タカヒロさんとその女性が会話してる中、俺はまだ地面が揺れてる感覚にめまいを起こしそうになる。女性は俺の方に気づくと、にこりと笑った。
「貴方がタカヒロさんですね。あやかしが見えるっていう。私も見えますか?」
「はい、見えます……じゃあ貴方も……」
「妖怪ですよ、トキって言います。よろしくお願いします」
「そうなんですね。よろしくお願いしま……」
トキさんの手が、顎に触れる。その手つきはどこか妖艶だ。
「ふふ、可愛い。美味しそうね」
「へ……っ!?」
「トキ。からかうのはやめてあげてくれ」
「あら、ごめんなさい。つぶらな瞳でまっすぐ見てくれるもんだから、つい」
トキさんはまったく詫びれない様子で、手を離しふわりと笑う。
「八矢から連絡があった。エンジ様は予定通り、十二時には来る予定だ」
「わかりました。お昼の準備はできてますよ。先にお二人を部屋にご案内しますね。靴を脱いでお上がりください」
言われ、屋敷に上がる。茶色い床はツルツルしていて、走ったら転んでしまいそうだ。長い廊下の両側に、色とりどりの花が描かれたドアがある。
「こちら、牡丹の間です」
通された部屋は、とても大きな部屋だった。レストランと同じくらいの広さはあるように見える。障子が開けられていて、縁側の緑が朝日に照らされ輝いている。俺が驚いている間に、トキさんは下がっていた。
何やら準備を始めているヤイさんに話しかける。
「あの、ここは……普通の宿なんですか?」
「そう思うかい」
「いえ……妖怪専用の宿ですかね?」
「ああ。あやかしが営んでいる宿で、普通の人間には見えないよ」
言われ、辺りを見回す。どこを見ても、しっかりとした造りの建物だ。
「この宿も、ですか」
「ああ。ここはまだ妖怪がこの地に多く住んでた時に出来たものだからね。妖力が込められてるんだ」
そんな物が……。俺がそう思ってる中も、ヤイさんの準備は進んでいく。今はお盆の上に、お菓子をのせていっている。
「それはなんですか」
「エンジ様の部屋に用意する物だよ、どれが欠けていても駄目なんだ」
用意されていってるのは、甘いお菓子だ。九州で有名な丸いお菓子のほか、各地で有名なお土産が並べられている。
「……甘党なんですね」
「すぐに全部食べられる訳ではないんだけどね。人間界に来る時は、必ず召し上がる」
「へー……今日の方って、有名な方なんですか」
「妖怪で知らない者はいないよ。妖が住む世界を作った一人だからね」
ヤイさんの言葉に、俺はただ頷く。だがすぐに、驚き叫ぶ。
「そ、それってすごい大御所なんじゃ……!」
「心配ない。重鎮四名の中では一番温和な方だ。今日はお子さんを連れて来る」
「しかもご家族!? む、無理です、俺えらい人と話した事なんか……ましてや絵を描くなんて」
「無理と言われてもな。ここまで来て断る術はないだろう」
ヤイさんは淡々と事実を告げる。
「誰だって最初は未経験だ。大丈夫、失礼をしても死ぬ事はない。エンジ様は人間は召し上がらないから」
「もっと怖い事を言う!!」
「それより、君には重要な任務があるんだ」
「へ? な、なんでしょう?」
ヤイさんは立ち上がると、一枚の紙を取り出した。そこには菱形の紫の花たちが包まれていた。
「エンジ様からのご要望で、絵にはこの葉の色を使ってほしいらしい」
「なんて花ですか?」
「願い草だよ」
俺は、その言葉に目をみはる。これが、願い草。思ったより、小さな葉だった。
御殿の中に入ると、女性に出迎えられた。赤地に紫の花が描かれた着物を身に着けていて、髪は結わえられ簪をつけている。
「久しぶり。今日はよろしく頼むよ」
「もちろん。エンジ様はうちらにとっても大事なお客さんですから。もてなしますよ」
タカヒロさんとその女性が会話してる中、俺はまだ地面が揺れてる感覚にめまいを起こしそうになる。女性は俺の方に気づくと、にこりと笑った。
「貴方がタカヒロさんですね。あやかしが見えるっていう。私も見えますか?」
「はい、見えます……じゃあ貴方も……」
「妖怪ですよ、トキって言います。よろしくお願いします」
「そうなんですね。よろしくお願いしま……」
トキさんの手が、顎に触れる。その手つきはどこか妖艶だ。
「ふふ、可愛い。美味しそうね」
「へ……っ!?」
「トキ。からかうのはやめてあげてくれ」
「あら、ごめんなさい。つぶらな瞳でまっすぐ見てくれるもんだから、つい」
トキさんはまったく詫びれない様子で、手を離しふわりと笑う。
「八矢から連絡があった。エンジ様は予定通り、十二時には来る予定だ」
「わかりました。お昼の準備はできてますよ。先にお二人を部屋にご案内しますね。靴を脱いでお上がりください」
言われ、屋敷に上がる。茶色い床はツルツルしていて、走ったら転んでしまいそうだ。長い廊下の両側に、色とりどりの花が描かれたドアがある。
「こちら、牡丹の間です」
通された部屋は、とても大きな部屋だった。レストランと同じくらいの広さはあるように見える。障子が開けられていて、縁側の緑が朝日に照らされ輝いている。俺が驚いている間に、トキさんは下がっていた。
何やら準備を始めているヤイさんに話しかける。
「あの、ここは……普通の宿なんですか?」
「そう思うかい」
「いえ……妖怪専用の宿ですかね?」
「ああ。あやかしが営んでいる宿で、普通の人間には見えないよ」
言われ、辺りを見回す。どこを見ても、しっかりとした造りの建物だ。
「この宿も、ですか」
「ああ。ここはまだ妖怪がこの地に多く住んでた時に出来たものだからね。妖力が込められてるんだ」
そんな物が……。俺がそう思ってる中も、ヤイさんの準備は進んでいく。今はお盆の上に、お菓子をのせていっている。
「それはなんですか」
「エンジ様の部屋に用意する物だよ、どれが欠けていても駄目なんだ」
用意されていってるのは、甘いお菓子だ。九州で有名な丸いお菓子のほか、各地で有名なお土産が並べられている。
「……甘党なんですね」
「すぐに全部食べられる訳ではないんだけどね。人間界に来る時は、必ず召し上がる」
「へー……今日の方って、有名な方なんですか」
「妖怪で知らない者はいないよ。妖が住む世界を作った一人だからね」
ヤイさんの言葉に、俺はただ頷く。だがすぐに、驚き叫ぶ。
「そ、それってすごい大御所なんじゃ……!」
「心配ない。重鎮四名の中では一番温和な方だ。今日はお子さんを連れて来る」
「しかもご家族!? む、無理です、俺えらい人と話した事なんか……ましてや絵を描くなんて」
「無理と言われてもな。ここまで来て断る術はないだろう」
ヤイさんは淡々と事実を告げる。
「誰だって最初は未経験だ。大丈夫、失礼をしても死ぬ事はない。エンジ様は人間は召し上がらないから」
「もっと怖い事を言う!!」
「それより、君には重要な任務があるんだ」
「へ? な、なんでしょう?」
ヤイさんは立ち上がると、一枚の紙を取り出した。そこには菱形の紫の花たちが包まれていた。
「エンジ様からのご要望で、絵にはこの葉の色を使ってほしいらしい」
「なんて花ですか?」
「願い草だよ」
俺は、その言葉に目をみはる。これが、願い草。思ったより、小さな葉だった。
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