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海外で
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海外に飛んで父と初対面を果たした瑞穂は想像していた父の姿とはかけ離れており、優しさに満ち溢れていた。画家で大成したらしく母とは画廊で出会ったらしい。ここで、初めて母が絵の買い付けを仕事にしていた人だと知った。彼女は話し方も姿勢も所作もきれいであり、小学校の授業参観の時に他人の母親と雰囲気が違って目立っていたことを思い出し、その理由が分かった気がした。
瑞穂が海外に来てからほとんど絵を描くのに時間を費やす父だったが、休憩を取り瑞穂との会話にも時間をかけていた。日本語があまり得意ではないようで彼とは英語で話していた。彼の妻はすでに他界しており、もともと家に勤める家の管理者がいて色んな手続きや人が来た時の世話、料理や洗濯などの家事をしていた。そして、意外に思ったのは画家は人と会うことが多いのだと知った。美大に通う人からプロの画家、画商という人たちで年代は様々だが、絵に対する情熱が高い人ばかりだった。彼らと話すことはあっても絵については素人である瑞穂はあまり会話について行けないので早々にその場から退散した。その行動を父は咎めることはなかった。
瑞穂は留学先として選んだ大学で講義を取得し、そこで色々な人と出会った。友人が数人できてお茶をしたり食事をしたり遊びに街に行ったりと学生らしい生活を送っていた。
「父さんはどうして画家になったの?」
父と呼ぶようになったころ、瑞穂はなんとなく父に尋ねた。将来のことを考える時になり、自分の道に対して迷っていたからかもしれない。父は一枚の絵を見せてくれた。それは少し若いけれど、明らかに自分の母であることが瑞穂にはわかった。
「母さんの絵。」
「そうだ。お前の母はとても美人で熱心にモデルを頼みこんだ。そして、描いたのがこの絵だった。一度描いたらもう興味を無くすかと思ったんだが、お前の母を描いてみたら、もっとお前の母を描きたいと思った。だから、画家になったんだ。まあ、これで入賞をしたこともあったがな。画家は有名でないと食べていけない職業だから。」
「そうなんだ。母さんは父さんにとって唯一のモデルみたいな人だったんだ。母さんのことは大切だった?」
「もちろんだ。性など関係なくな。友人であり理解者であり惚れたという感覚はあの時が初めてだった。運命の番なんて見つけなかったら、彼女とずっと一緒にいたかった。」
父は母を愛していたとわかったが、運命の番だった亡き妻に対してぞんざいな言い方に瑞穂の気分はあまり晴れることはなかった。しかし、懐かしむように言う彼の言葉には慈愛が含まれており、そんな二人を結びつけるように自分が生まれたことは奇跡のように思えた。αとβであり、決して関係をΩとのように示すことができなくても、二人で在り方を決めて今の関係になったのかもしれない。母は父に対して自分の存在を伝えたいたのだから。
それを知れただけでここに来てよかったと瑞穂は思った。
それから、一か月が経ち瑞穂は体調の悪化に気づいた。食べ物を食べようと思うと吐き気がして、胸のむかむかが収まらないのだ。父に相談するとなぜか彼は慌てて瑞穂を病院に連れて行った。
「妊娠していますね。」
「はい?」
瑞穂は言われた言葉を認識できなかった。突然Ωになったと言われた時と同じぐらいの衝撃だった。
「妊娠と言いました。心当たりはありませんか?」
「でも、最後にそういうことをしたのはもう三カ月ほど前の話ですよ。」
「ちょうど10週なのでそれぐらいですよ。」
瑞穂は驚愕した。頭の中に浮かんだのは父と母のことだった。
「まさに歴史は繰り返す、だな。」
瑞穂の言葉に父は苦笑した。
妊娠したのは奇跡だろう。しかし、ちゃんと番として生活していた日々の中で授かった子供だから奇跡とは言いにくいかもしれない。番だったのだから妊娠する可能性はゼロではなかった。ただ、今まで瑞穂は自分が妊娠することなど頭にはなかった。だからこそ、奇跡だと思え、授かりものだと言われる意味がわかった。
瑞穂はお腹に手を当ててそこに宿る小さな命を自覚はできないけれど喜んでいた。今後の生活やお金のこと、問題は多いのに、そんなことが頭をよぎることがなくただその感情をかみしめていた。それと、この子のことを一生この子に伝えることはしないことも同時に心に決めていた。父親だけでなく彼の運命の番に影響を及ぼすことを考慮したから、これが最善の選択だと思い、父に彼のことを話さず、父も彼のことを尋ねることはしなかったが、父は妊娠と出産の間、彼なりに全力でサポートをしてくれて瑞穂としてはこれ以上ない心強い味方だった。彼のサポートがなければ、きっと無事に出産もできなかっただろう。
それから、瑞穂は父と住んで三年ほどが経っていた。月日が過ぎるのはあっという間であり、瑞穂は両親と父の友人、留学先で出会った人たちのサポートのおかげで仕事も育児も何とかこなしていた。仕事はIT企業なのでリモートワークがほとんどであり、子育て中の番持ちΩだったためにフェロモンがないためにβとして見てくれた為に企業側は採用しやすかったらしい。
子供を日本で産むことを母は最後まで提案していたけれど、瑞穂はそれを断り続け母とこの子、浅野翔は会ったことがなかった。日本に帰国する選択肢を瑞穂が選んだことがなく、大学卒業も就職も結局はこの国で完結してしまった。
「ママ、あそぼー。」
翔は活発な男の子だ。瑞穂は大人しかったのでおそらく父親似だろうと思った。彼に言われて休日ということもあり公園に来た。まだ、子供たちは来ていないので一番乗りであることを伝えると大げさにはしゃいでいた。
「翔、迷路する?」
「する!迷路大好き!」
ニカッと笑った彼はタタタッと走って迷路の方に向かった。一応、瑞穂もついて行くが三歳になる翔は頭が良いのか、すでに迷路も自分でスタートからゴールまで行くことができるので、いざというときのサポート役しかない。好き嫌いをはっきり言う彼は素直に元気に育っており、その姿を見るだけで瑞穂は仕事を頑張れた。
「ショウだ!何しているの?」
「本当だ!迷路したの?」
近所の子供たちがやって来て翔の元に駆けていった。保育園でもいつも周囲に子供たちがいると保育園の先生から聞かされていたが、こういう場所に来るとそうなのだと思った。大げさに先生が言っているわけではないので瑞穂はあの社交性はまさしく父親かもしれないと思いつつ、人が寄るのは自分の父もそうであり、母はどちらかというと寄って行って話す世話焼きタイプなので彼女は違うなと考えを巡らせた。どちらにしても、瑞穂はそんな社交性もあれほどの活動的でもなかったので瑞穂に似ていないことは確かだった。似ている部分を探す方が難しく、翔の顔は瑞穂でも父親でもなく、自分の父だった。だから、保育園で色んな人種がいるこの国の子供たちといても見劣りしなかった。父の金髪と青い目と白い肌を間違いなく受け継いでいた。
「こんな遺伝があるのかな。」
彼を見ながらも遺伝の不思議を目の当たりにしている気分だった。
瑞穂が海外に来てからほとんど絵を描くのに時間を費やす父だったが、休憩を取り瑞穂との会話にも時間をかけていた。日本語があまり得意ではないようで彼とは英語で話していた。彼の妻はすでに他界しており、もともと家に勤める家の管理者がいて色んな手続きや人が来た時の世話、料理や洗濯などの家事をしていた。そして、意外に思ったのは画家は人と会うことが多いのだと知った。美大に通う人からプロの画家、画商という人たちで年代は様々だが、絵に対する情熱が高い人ばかりだった。彼らと話すことはあっても絵については素人である瑞穂はあまり会話について行けないので早々にその場から退散した。その行動を父は咎めることはなかった。
瑞穂は留学先として選んだ大学で講義を取得し、そこで色々な人と出会った。友人が数人できてお茶をしたり食事をしたり遊びに街に行ったりと学生らしい生活を送っていた。
「父さんはどうして画家になったの?」
父と呼ぶようになったころ、瑞穂はなんとなく父に尋ねた。将来のことを考える時になり、自分の道に対して迷っていたからかもしれない。父は一枚の絵を見せてくれた。それは少し若いけれど、明らかに自分の母であることが瑞穂にはわかった。
「母さんの絵。」
「そうだ。お前の母はとても美人で熱心にモデルを頼みこんだ。そして、描いたのがこの絵だった。一度描いたらもう興味を無くすかと思ったんだが、お前の母を描いてみたら、もっとお前の母を描きたいと思った。だから、画家になったんだ。まあ、これで入賞をしたこともあったがな。画家は有名でないと食べていけない職業だから。」
「そうなんだ。母さんは父さんにとって唯一のモデルみたいな人だったんだ。母さんのことは大切だった?」
「もちろんだ。性など関係なくな。友人であり理解者であり惚れたという感覚はあの時が初めてだった。運命の番なんて見つけなかったら、彼女とずっと一緒にいたかった。」
父は母を愛していたとわかったが、運命の番だった亡き妻に対してぞんざいな言い方に瑞穂の気分はあまり晴れることはなかった。しかし、懐かしむように言う彼の言葉には慈愛が含まれており、そんな二人を結びつけるように自分が生まれたことは奇跡のように思えた。αとβであり、決して関係をΩとのように示すことができなくても、二人で在り方を決めて今の関係になったのかもしれない。母は父に対して自分の存在を伝えたいたのだから。
それを知れただけでここに来てよかったと瑞穂は思った。
それから、一か月が経ち瑞穂は体調の悪化に気づいた。食べ物を食べようと思うと吐き気がして、胸のむかむかが収まらないのだ。父に相談するとなぜか彼は慌てて瑞穂を病院に連れて行った。
「妊娠していますね。」
「はい?」
瑞穂は言われた言葉を認識できなかった。突然Ωになったと言われた時と同じぐらいの衝撃だった。
「妊娠と言いました。心当たりはありませんか?」
「でも、最後にそういうことをしたのはもう三カ月ほど前の話ですよ。」
「ちょうど10週なのでそれぐらいですよ。」
瑞穂は驚愕した。頭の中に浮かんだのは父と母のことだった。
「まさに歴史は繰り返す、だな。」
瑞穂の言葉に父は苦笑した。
妊娠したのは奇跡だろう。しかし、ちゃんと番として生活していた日々の中で授かった子供だから奇跡とは言いにくいかもしれない。番だったのだから妊娠する可能性はゼロではなかった。ただ、今まで瑞穂は自分が妊娠することなど頭にはなかった。だからこそ、奇跡だと思え、授かりものだと言われる意味がわかった。
瑞穂はお腹に手を当ててそこに宿る小さな命を自覚はできないけれど喜んでいた。今後の生活やお金のこと、問題は多いのに、そんなことが頭をよぎることがなくただその感情をかみしめていた。それと、この子のことを一生この子に伝えることはしないことも同時に心に決めていた。父親だけでなく彼の運命の番に影響を及ぼすことを考慮したから、これが最善の選択だと思い、父に彼のことを話さず、父も彼のことを尋ねることはしなかったが、父は妊娠と出産の間、彼なりに全力でサポートをしてくれて瑞穂としてはこれ以上ない心強い味方だった。彼のサポートがなければ、きっと無事に出産もできなかっただろう。
それから、瑞穂は父と住んで三年ほどが経っていた。月日が過ぎるのはあっという間であり、瑞穂は両親と父の友人、留学先で出会った人たちのサポートのおかげで仕事も育児も何とかこなしていた。仕事はIT企業なのでリモートワークがほとんどであり、子育て中の番持ちΩだったためにフェロモンがないためにβとして見てくれた為に企業側は採用しやすかったらしい。
子供を日本で産むことを母は最後まで提案していたけれど、瑞穂はそれを断り続け母とこの子、浅野翔は会ったことがなかった。日本に帰国する選択肢を瑞穂が選んだことがなく、大学卒業も就職も結局はこの国で完結してしまった。
「ママ、あそぼー。」
翔は活発な男の子だ。瑞穂は大人しかったのでおそらく父親似だろうと思った。彼に言われて休日ということもあり公園に来た。まだ、子供たちは来ていないので一番乗りであることを伝えると大げさにはしゃいでいた。
「翔、迷路する?」
「する!迷路大好き!」
ニカッと笑った彼はタタタッと走って迷路の方に向かった。一応、瑞穂もついて行くが三歳になる翔は頭が良いのか、すでに迷路も自分でスタートからゴールまで行くことができるので、いざというときのサポート役しかない。好き嫌いをはっきり言う彼は素直に元気に育っており、その姿を見るだけで瑞穂は仕事を頑張れた。
「ショウだ!何しているの?」
「本当だ!迷路したの?」
近所の子供たちがやって来て翔の元に駆けていった。保育園でもいつも周囲に子供たちがいると保育園の先生から聞かされていたが、こういう場所に来るとそうなのだと思った。大げさに先生が言っているわけではないので瑞穂はあの社交性はまさしく父親かもしれないと思いつつ、人が寄るのは自分の父もそうであり、母はどちらかというと寄って行って話す世話焼きタイプなので彼女は違うなと考えを巡らせた。どちらにしても、瑞穂はそんな社交性もあれほどの活動的でもなかったので瑞穂に似ていないことは確かだった。似ている部分を探す方が難しく、翔の顔は瑞穂でも父親でもなく、自分の父だった。だから、保育園で色んな人種がいるこの国の子供たちといても見劣りしなかった。父の金髪と青い目と白い肌を間違いなく受け継いでいた。
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