家から追い出されました!?

ハル

文字の大きさ
7 / 36

バイトとの別れ、金髪碧眼美男子外人との待ち合わせ

しおりを挟む
 悪魔ことジークとの夕食を約束させられ、連絡先まで交換したのだが、それを後悔するのに彼と別れて1分もかからなかった。不幸の手紙なみにメッセージが通知されるのだ。数秒おきに携帯がピコンピコンと音を立てればうっとおしくなるのも当然とだと思う。
 そして、その内容が今日の夕食の約束場所かと思いきや全く別のことだった。

「会える時間連絡して。」
「昨日は家に帰れた?」
「お名前は郁美っていうんだね。何歳?高校生?」
「学校は休み?」
「趣味は何?好きな花は?」
「好きな色は?」
「花嫁衣裳はドレス?」

 などなど、よく分からない連絡が来る。
 しかも、支離滅裂の上に最後の方は意味が分からない。花嫁衣裳って何の話?
 うっかり答えでもしたら、夕食の時に突っ込まれそうだったので、どのメッセージにも返信せずに漫画の行方が分かったのでバイト先に向かった。元々、彼にはバイトに行くことは伝えてあったので、それなら許されるだろう。

 バイト先の高層ビルの隣にある小さな清掃会社がバイトとして雇われている場所だった。ここで着替えてから隣の高層ビルを清掃しに行くのだ。ここの所長は定年退職後に清掃が好きで小さな範囲で初めたらしいのだが、5年で結構なビルの清掃に派遣するまでになった。神田かんだ所長は人柄が優しいし、色々と世話焼きタイプで鼠摂りなども依頼があれば率先してする人だった。こういう仕事が天職のような人だ。彼も他のここに籍をおくおばちゃん同様心配してくれる人の1人だった。
 事務所の方に素知らぬふりで挨拶をすると、ざわっと全員に振り向かれた。その勢いに思わず、おおっと声が出てしまった。

「相原さん、ちょっといい?」

 神田所長が難しい顔をして、でも、何とか笑みを作っているようで手招きされた。
 彼と共に入ったのは彼がバイトや正社員を雇う時やお客様が来た時に使用する部屋だった。そこで、彼の奥さんにお茶を出されてお礼を言い、その冷たい麦茶を飲んだ。
 そういえば、昼から何も飲んでいなかったので結構喉が渇いていたことに気付かなかった。それほど無我夢中であの本を探し回っていたのだろうか。そう考えるとちょっと気恥ずかしくなってきた。

「何?どうかした?」
「あ、いいえ。それで、どんな話でしょうか?」

 百面相を見て彼は不思議がったのだろう。彼に問いかけられたので慌てて否定し、本題に入ろうとした。
 しかし、今度は所長がどこか言いにくそうに、うーん、とか、あー、とか唸ってしまった。小さな体が余計に小さく見えてしまう。そんなに気遣わなくてもいいのに、この人は人が良すぎではないだろうか。いつか騙されそうで心配になる。高校生に心配されても嬉しくはないだろうけど。

「もしかして、あの、連絡がありました?」

 何の、とも、誰から、とも言わなくてもこれだけで、彼に通じたようで神妙な顔つきで頷いた。それに愕然としながらも心の中では、あーやっぱり、と納得してしまった。

「あ、でも、僕の方では引き続き君を雇いたい気持ちはあるんだ。でも、未成年だから保証人が必要でね。僕がなってもいいんだけど。」
「いいえ、そこまでご迷惑はかけられませんから。あの、申し訳ありません。ご迷惑をおかけしてしまって。」
「いや、君が謝ることじゃないよ!君のその親も酷いし無責任だと思うよ。」
「まあ(それ、同意見です。)」

 彼の言葉には否定も出ない。あの人達のフォローなどできるはずもなかった。
 彼らはきっとモデルにもなれず、勉強も運動も平均の私に不満があったのだろう。そこへ、自分たちの本当の娘が現れて、彼女は容姿と頭脳両方を兼ね備えていたからそっちに乗り換えたのではないだろうか。
 私もそうなる前に何か才能を発揮していたら、きっと家に残すぐらいはさせてもらえていたのだろう。まあ、全ては仮定で起こり得ないことなのだから考えても仕方ないことだけど。
 これで私が生活費を稼ぐ手段が消え、今後どこも雇ってもらえない。しかも、保証人がいないから衣食住の住は完全にないだろう。未成年は何かと不便だ。せめて高校卒業までぐらいは居させてほしかった。

「これからどうするんだい?ここに住んでもらってもいいんだよ。給与としては払えないけど、ほら、養子にはできるはずだから。」
「いえ、そんなご迷惑はかけられません。今まで貯めたお金もありますからしばらくはどうにかなります。そのあたりで考えますよ。すみません、所長、今まで良くしてもらっていたのに最後に恩を仇で返すような真似をしてしまって。」
「そんな言い方は止めて。それにそんな風に私も家内も、もちろんここで働いている皆、そんな風に思っていないからね。」
「ありがとうございます。えっと、じゃあ、何か書類書かないといけませんよね。一応、解約書類。」
「ああ、そうだね。昨日までの給与も渡すね。あと、通帳は自分名義?」
「はい、そうです。アルバイトを始める際、自分で作りましたから。」
「あ、そうなんだ。偉いね。」
「いえ、普通です。」

 私が何か言うたび、彼はどこか辛そうな顔をしていた。
 それから、奥さんが持ってきた書類に全てサインして給与をもらい、これでここに来る予定は今後無くなってしまった。スケジュールが空っぽになると人間何をしていいのか分からなくなるものだ。

「そうだ。お客さんからもらったクッキーとかりんとう饅頭があるんだ。それ、持って行って。あと、ジュースもあったからそれもどうぞ。オレンジジュース好きだったよね?」
「はい、いただきます。本当にいつもすみません。」
「いいんだよ。」

 彼と奥さんの優しさには感謝している。いつも優しく声をかけてくれて、奥さんの方は足が悪いから長い距離は歩けないけど、事務所に報告して帰る際には必ず夫婦で見送ってくれていた。その優しさだけで私の胸は温かかったのだ。私の知る祖父母は確かにきれいだし良い所に住んでいるけれど、こんな風に優しい言葉や態度を示してくれたことなど一度もなかったから。
 本当にありがとうございました、と最後に所長夫婦と今まで一緒に働いてきたおばちゃん軍団に行ってから事務所を出た。

 さて、これで予定が無くなってしまった。事務所の時計で出る時に確認した時計ではまだ17時前だったから、ジークに連絡するのは止めよう。その前にネットカフェか満喫か、安く泊まれる今日の宿探しでもして、1時間ほど時間を潰してから彼に連絡を入れよう。

 携帯の電源は先ほどのメッセージの嵐でオフにしたまま駅周辺を歩いて色々と見て回った。ちなみに、漫画が入った袋は駅のコインロッカーに入れておいたし、昨日着ていた下着はコインランドリーですでに清潔にしておいたから準備はオッケーだった。今の時代、お金さえあれば未成年も家がなくても案外生きているものだと実感してしまった
 未成年だと、バイトすらできない状態ではあるんだけど。何とか、保証人がいなくても生活資金を蓄える方法がないか探さないとまずい。
 危機感はあるし不安はそれは言い表せないほどだけど、まあ、後ずさることもできないし、そもそも帰る場所がないので、そんなこと許されないのだ。一歩下がれば崖から落ちるのみなので私にはまだ見えない道を進んでいくしかない。そう奮い立たせていた。

 そうして、本日の宿の目ぼしを付けたところで、携帯の電源を入れて時間を確認すると、18時少し前だったが、相変わらずメッセージがバンバンと、だが、この30分の間は5分おきになっていたので、少し安堵した。彼に注意をしてくれる常識のある人もいるんだ。もしかして、リオウという男性かと思い浮かんだ。彼の周囲で知っている人は彼しか知らないのだけど。。。

「今、先ほど会った場所の最寄り駅の周辺にいます。バイト終わりました。」

 メッセージを送った数秒で、「迎え行く。」と連絡が来た。
 返信早いし、日本語うますぎない?昨日から思っていたけど、話すだけじゃなくて書くのも漢字変換まで完璧に使いこなしているんだけど。私なんて学校で英語教育数年受けてきたけど、未だに道案内もできないのに。
 まあ、あの性格をカバーするにはそれなりの才能がないと無理かも、なんて失礼極まりないことも思っていた。

 彼、ジークが来たのは10分かかっていないぐらいだった。駅周辺としか言っていないのに、すぐに現れた時は驚いた。昼に会った時と同じ格好だし、その容姿で帰宅中の中高生から老人までもが振り返っていて目立っていたからすぐに分かった。
 その光景には驚いたし、ひえっとか思って一瞬逃げ出そうとか思ったが、彼に人質にされている漫画のことを思うとそうもできなかった。

「や、バイトお疲れ様。意外と早かったね。」
「まあ、そうですね。えっと、夕飯なんですけど時間的に30分から1時間ぐらいでいいですか?」
「え?夜何かあるの?あ。門限?」
「いえ、そうでは・・・・いや、はい、そうです。20時なんです。」
 
 門限なんて元から存在すらしてなかったけど、門限があると言った方が相手が納得しそうだったので、肯定した。
 
 ジークさん、ナイス!!

 心の中では親指を立てていた。

「そうなんだ、やっぱり。1時間か。一応、お店は予約したからね。すぐに入れるよ。1時間でも一緒できるなら嬉しいよ。」
「はあ。時間譲歩していただいてありがとうございます。店まで決めてくれたんですね。手持ちはそんなにないですから高いところでないといいんですけど。」
「君に払わせるわけないでしょ。僕が誘ったんだから。」
「いえ、自分の分は自分で払いますよ。」
「嫌だけど。」
「嫌って子供みたいに言わないでください。こういう時、払うって言ったら、男性は喜ぶんじゃないんですか?」
「え?喜ばせたかったの?じゃあ、僕は払った方が喜ぶから君は払わないってことでOK?」
「いや、別に喜ばせたかったわけじゃないんですけど。」
「じゃあ、行くよ。」

 私の反論も聞かず、彼は私の手を掴んだまま引っ張って歩き出した。
 彼と話していると苛ついて見せているが、先のことを考えて憂鬱になっている自分を忘れてしまうから不思議だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...