家から追い出されました!?

ハル

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バイトとの別れ、金髪碧眼美男子外人との待ち合わせ

 悪魔ことジークとの夕食を約束させられ、連絡先まで交換したのだが、それを後悔するのに彼と別れて1分もかからなかった。不幸の手紙なみにメッセージが通知されるのだ。数秒おきに携帯がピコンピコンと音を立てればうっとおしくなるのも当然とだと思う。
 そして、その内容が今日の夕食の約束場所かと思いきや全く別のことだった。

「会える時間連絡して。」
「昨日は家に帰れた?」
「お名前は郁美っていうんだね。何歳?高校生?」
「学校は休み?」
「趣味は何?好きな花は?」
「好きな色は?」
「花嫁衣裳はドレス?」

 などなど、よく分からない連絡が来る。
 しかも、支離滅裂の上に最後の方は意味が分からない。花嫁衣裳って何の話?
 うっかり答えでもしたら、夕食の時に突っ込まれそうだったので、どのメッセージにも返信せずに漫画の行方が分かったのでバイト先に向かった。元々、彼にはバイトに行くことは伝えてあったので、それなら許されるだろう。

 バイト先の高層ビルの隣にある小さな清掃会社がバイトとして雇われている場所だった。ここで着替えてから隣の高層ビルを清掃しに行くのだ。ここの所長は定年退職後に清掃が好きで小さな範囲で初めたらしいのだが、5年で結構なビルの清掃に派遣するまでになった。神田かんだ所長は人柄が優しいし、色々と世話焼きタイプで鼠摂りなども依頼があれば率先してする人だった。こういう仕事が天職のような人だ。彼も他のここに籍をおくおばちゃん同様心配してくれる人の1人だった。
 事務所の方に素知らぬふりで挨拶をすると、ざわっと全員に振り向かれた。その勢いに思わず、おおっと声が出てしまった。

「相原さん、ちょっといい?」

 神田所長が難しい顔をして、でも、何とか笑みを作っているようで手招きされた。
 彼と共に入ったのは彼がバイトや正社員を雇う時やお客様が来た時に使用する部屋だった。そこで、彼の奥さんにお茶を出されてお礼を言い、その冷たい麦茶を飲んだ。
 そういえば、昼から何も飲んでいなかったので結構喉が渇いていたことに気付かなかった。それほど無我夢中であの本を探し回っていたのだろうか。そう考えるとちょっと気恥ずかしくなってきた。

「何?どうかした?」
「あ、いいえ。それで、どんな話でしょうか?」

 百面相を見て彼は不思議がったのだろう。彼に問いかけられたので慌てて否定し、本題に入ろうとした。
 しかし、今度は所長がどこか言いにくそうに、うーん、とか、あー、とか唸ってしまった。小さな体が余計に小さく見えてしまう。そんなに気遣わなくてもいいのに、この人は人が良すぎではないだろうか。いつか騙されそうで心配になる。高校生に心配されても嬉しくはないだろうけど。

「もしかして、あの、連絡がありました?」

 何の、とも、誰から、とも言わなくてもこれだけで、彼に通じたようで神妙な顔つきで頷いた。それに愕然としながらも心の中では、あーやっぱり、と納得してしまった。

「あ、でも、僕の方では引き続き君を雇いたい気持ちはあるんだ。でも、未成年だから保証人が必要でね。僕がなってもいいんだけど。」
「いいえ、そこまでご迷惑はかけられませんから。あの、申し訳ありません。ご迷惑をおかけしてしまって。」
「いや、君が謝ることじゃないよ!君のその親も酷いし無責任だと思うよ。」
「まあ(それ、同意見です。)」

 彼の言葉には否定も出ない。あの人達のフォローなどできるはずもなかった。
 彼らはきっとモデルにもなれず、勉強も運動も平均の私に不満があったのだろう。そこへ、自分たちの本当の娘が現れて、彼女は容姿と頭脳両方を兼ね備えていたからそっちに乗り換えたのではないだろうか。
 私もそうなる前に何か才能を発揮していたら、きっと家に残すぐらいはさせてもらえていたのだろう。まあ、全ては仮定で起こり得ないことなのだから考えても仕方ないことだけど。
 これで私が生活費を稼ぐ手段が消え、今後どこも雇ってもらえない。しかも、保証人がいないから衣食住の住は完全にないだろう。未成年は何かと不便だ。せめて高校卒業までぐらいは居させてほしかった。

「これからどうするんだい?ここに住んでもらってもいいんだよ。給与としては払えないけど、ほら、養子にはできるはずだから。」
「いえ、そんなご迷惑はかけられません。今まで貯めたお金もありますからしばらくはどうにかなります。そのあたりで考えますよ。すみません、所長、今まで良くしてもらっていたのに最後に恩を仇で返すような真似をしてしまって。」
「そんな言い方は止めて。それにそんな風に私も家内も、もちろんここで働いている皆、そんな風に思っていないからね。」
「ありがとうございます。えっと、じゃあ、何か書類書かないといけませんよね。一応、解約書類。」
「ああ、そうだね。昨日までの給与も渡すね。あと、通帳は自分名義?」
「はい、そうです。アルバイトを始める際、自分で作りましたから。」
「あ、そうなんだ。偉いね。」
「いえ、普通です。」

 私が何か言うたび、彼はどこか辛そうな顔をしていた。
 それから、奥さんが持ってきた書類に全てサインして給与をもらい、これでここに来る予定は今後無くなってしまった。スケジュールが空っぽになると人間何をしていいのか分からなくなるものだ。

「そうだ。お客さんからもらったクッキーとかりんとう饅頭があるんだ。それ、持って行って。あと、ジュースもあったからそれもどうぞ。オレンジジュース好きだったよね?」
「はい、いただきます。本当にいつもすみません。」
「いいんだよ。」

 彼と奥さんの優しさには感謝している。いつも優しく声をかけてくれて、奥さんの方は足が悪いから長い距離は歩けないけど、事務所に報告して帰る際には必ず夫婦で見送ってくれていた。その優しさだけで私の胸は温かかったのだ。私の知る祖父母は確かにきれいだし良い所に住んでいるけれど、こんな風に優しい言葉や態度を示してくれたことなど一度もなかったから。
 本当にありがとうございました、と最後に所長夫婦と今まで一緒に働いてきたおばちゃん軍団に行ってから事務所を出た。

 さて、これで予定が無くなってしまった。事務所の時計で出る時に確認した時計ではまだ17時前だったから、ジークに連絡するのは止めよう。その前にネットカフェか満喫か、安く泊まれる今日の宿探しでもして、1時間ほど時間を潰してから彼に連絡を入れよう。

 携帯の電源は先ほどのメッセージの嵐でオフにしたまま駅周辺を歩いて色々と見て回った。ちなみに、漫画が入った袋は駅のコインロッカーに入れておいたし、昨日着ていた下着はコインランドリーですでに清潔にしておいたから準備はオッケーだった。今の時代、お金さえあれば未成年も家がなくても案外生きているものだと実感してしまった
 未成年だと、バイトすらできない状態ではあるんだけど。何とか、保証人がいなくても生活資金を蓄える方法がないか探さないとまずい。
 危機感はあるし不安はそれは言い表せないほどだけど、まあ、後ずさることもできないし、そもそも帰る場所がないので、そんなこと許されないのだ。一歩下がれば崖から落ちるのみなので私にはまだ見えない道を進んでいくしかない。そう奮い立たせていた。

 そうして、本日の宿の目ぼしを付けたところで、携帯の電源を入れて時間を確認すると、18時少し前だったが、相変わらずメッセージがバンバンと、だが、この30分の間は5分おきになっていたので、少し安堵した。彼に注意をしてくれる常識のある人もいるんだ。もしかして、リオウという男性かと思い浮かんだ。彼の周囲で知っている人は彼しか知らないのだけど。。。

「今、先ほど会った場所の最寄り駅の周辺にいます。バイト終わりました。」

 メッセージを送った数秒で、「迎え行く。」と連絡が来た。
 返信早いし、日本語うますぎない?昨日から思っていたけど、話すだけじゃなくて書くのも漢字変換まで完璧に使いこなしているんだけど。私なんて学校で英語教育数年受けてきたけど、未だに道案内もできないのに。
 まあ、あの性格をカバーするにはそれなりの才能がないと無理かも、なんて失礼極まりないことも思っていた。

 彼、ジークが来たのは10分かかっていないぐらいだった。駅周辺としか言っていないのに、すぐに現れた時は驚いた。昼に会った時と同じ格好だし、その容姿で帰宅中の中高生から老人までもが振り返っていて目立っていたからすぐに分かった。
 その光景には驚いたし、ひえっとか思って一瞬逃げ出そうとか思ったが、彼に人質にされている漫画のことを思うとそうもできなかった。

「や、バイトお疲れ様。意外と早かったね。」
「まあ、そうですね。えっと、夕飯なんですけど時間的に30分から1時間ぐらいでいいですか?」
「え?夜何かあるの?あ。門限?」
「いえ、そうでは・・・・いや、はい、そうです。20時なんです。」
 
 門限なんて元から存在すらしてなかったけど、門限があると言った方が相手が納得しそうだったので、肯定した。
 
 ジークさん、ナイス!!

 心の中では親指を立てていた。

「そうなんだ、やっぱり。1時間か。一応、お店は予約したからね。すぐに入れるよ。1時間でも一緒できるなら嬉しいよ。」
「はあ。時間譲歩していただいてありがとうございます。店まで決めてくれたんですね。手持ちはそんなにないですから高いところでないといいんですけど。」
「君に払わせるわけないでしょ。僕が誘ったんだから。」
「いえ、自分の分は自分で払いますよ。」
「嫌だけど。」
「嫌って子供みたいに言わないでください。こういう時、払うって言ったら、男性は喜ぶんじゃないんですか?」
「え?喜ばせたかったの?じゃあ、僕は払った方が喜ぶから君は払わないってことでOK?」
「いや、別に喜ばせたかったわけじゃないんですけど。」
「じゃあ、行くよ。」

 私の反論も聞かず、彼は私の手を掴んだまま引っ張って歩き出した。
 彼と話していると苛ついて見せているが、先のことを考えて憂鬱になっている自分を忘れてしまうから不思議だった。
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