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初めてのデート
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週末の日曜日、初めてのデートの日だ。男と2人で出かけたことがないので朝から心臓がうるさい。
「うん、いつもの私ね。今日もキャリアウーマンとして頑張る!」
私は会社と同様にフォーマルな格好と薄い化粧で決めて家を出る。
煌の指定した駅はよく若者から聞く駅ではなく、私もたまに行く大きな公園の最寄り駅だ。行き慣れているのでスマホで検索する必要はない。
「都築さん!」
駅の出入り口で煌が手を振りながら駆け寄ってくる。その姿は大型犬そのものだ。
「煌君、こんにちは。」
「そんなにかしこまらないでよ。都築さんの格好は会社に行く時と同じみたいだね。もしかして、いつもそんな格好なの?」
「外に出る時はね。」
「なるほどね。」
煌は私の格好をよく見る。
「これからだね。今日のプランは喜んでもらえると思うよ。」
そうかと思えば、彼は私の手を取ってゆっくりと歩き出す。どこへ行くとも言わないので不安になるものの進んで行くうちに見たことがある景色になっていき、それは自然と消えていく。
「えっと、公園?」
「そう、公園。都築さんは公園を散歩することが好きだよね?」
「なんで知ってんの?」
「俺も好きだよ。」
私の質問はスルーして彼は同意を示す。私が公園を好きだと知っている理由は不明だけど、久しぶりに来た公園に悪い気はしない。パソコンやスマホの画面ばかり見ている生活の中で、自然の色を見るのは目と脳の癒やしだ。脳も目も休日に冷まさないといけない。
「都築さんはどうして公園が好き?」
「自然の色で溢れているからね。煌君は?」
「ここは落ち着くんだよね。人がまばらで木に囲まれている。幼い頃に育った場所に似ているんだ。」
彼は笑って見せ、その目には懐かしんでいるようだ。煌の年齢を考えれば、ホームシックになっても不思議ではない。
透も1人暮らしをしてからたまに家のことを言う。帰省ができないわけではないが、口うるさいあの家に帰ることは躊躇してしまうのだろう。
私も同じようなものなので時々彼には私にとって故郷の味の餃子を作ったりして彼に食べさせる。彼はその時が外食よりも喜んでいる。
「都築さん、クレープがあるよ。食べない?」
煌の言葉は飛んでいた意識が戻り彼の視線の先を追うと確かにクレープの出店がある。流行のキッチンカーである。
「いいわよ。煌君は何にする?」
「そうだな。都築さんは?」
「もう決まっているの。ベリーベリーアンドクリーム。」
「美味しそう。俺はチョコバナナにするよ。」
「大道ね。」
「大道が一番だよ。」
初めてとは思えないほどに煌とは会話が続いている。それに、このシチュエーションに既視感がある理由がわかる。
「湊君だ。」
私の好きな湊君がヒロインに対してクレープに乗っているアイスをすくって食べさせる前に購入するシーンだ。湊君がアイスを食べさせるシーンよりも彼がクレープを買って喜ぶヒロインを見て朗らかに笑う所が好きなんだ。
湊君を思い出していたら身が震えるほどの視線を感じて顔を煌に向けると顔は変わらないので気のせいだと思うことにする。
クレープを買って近くのベンチに並んで座って食べる。違うシーンだけどこれも食べている顔を正面から見られないのでありだと思いクレープにかぶりつく。
小さい頃に1度だけ食べたことがあるけど、食べ方がよくわからない。クリームが口の端からもれたり、最後になってくると下からたれて来たりするのは知っている。
思いっきりかぶりついたらクリームが側面の生地が破れて出てしまう。紙の上から触っても感触でわかるほどだから、一口でほとんどのクリームが生地の中から消えてしまった。
「美味しい?」
「美味しいわ。久しぶりに食べた。煌君はよく食べるの?」
煌の食べかけクレープが自分のよりも遥かにきれいで食べ慣れているようだから尋ねると微笑む。
「食べるけど、こんな手に持って食べるスタイルはあまりだね。食べるのはガレットみたいな平べったいものだよ。」
煌は手でガレットの形、四角を表す。
「そうなのね。私はあまり食べないから食べ方がわからないの。けれど、煌君はきれいに食べているからすごいなと思って感心する。」
煌は褒められて驚き私と自分のクレープを交互に見る。
「嬉しいな。さっきも言ったけど、俺はこの形のクレープを食べるのは久しぶりだよ。都築さんにこんなことに興味を引かれてくれるなんて思わなかった。でも、俺は都築さんのように美味しく食べてる人は素敵だよ。」
そんなに自然と言われると年上の私が恥ずかしくなって馬鹿みたいに思える。
「煌君はよくそんな恥ずかしいセリフを言えるね。経験が物を言う世界なのね。」
私はため息を吐きクレープから出たクリームが包紙から出ないように手の力を加減しながらもう一口食べる。
クリームの甘さとブルーベリーやラズベリーの酸味がマッチしていて、甘いクリームが苦手な私でも十分食べられる。
「経験はないよ。都築さんにしか言ったことないからね。俺は言いたいことを言っているだけだよ。経験なんか無くてもできる。」
「そう?私には無理だわ。」
湊君には『好き』『格好いい』って言えるけど、現実は絶対に言えない。そんな言葉を言ったらそれを言った自分を"気持ち悪い”と思う。
「いや、無理じゃないよ。」
なんだか煌が知った顔をするのが私の印象に残る。彼が何を思っているのかいまいちわからない。ただ、彼と並んでクレープを食べて話すことが私にとって悪いことだと思えない。
初デートはただ公園を散歩してクレープを食べて終わった。和やかな雰囲気は最初の彼の提案とはかけ離れており、これならしばらく付き合うことができると手応えを感じる。
「うん、いつもの私ね。今日もキャリアウーマンとして頑張る!」
私は会社と同様にフォーマルな格好と薄い化粧で決めて家を出る。
煌の指定した駅はよく若者から聞く駅ではなく、私もたまに行く大きな公園の最寄り駅だ。行き慣れているのでスマホで検索する必要はない。
「都築さん!」
駅の出入り口で煌が手を振りながら駆け寄ってくる。その姿は大型犬そのものだ。
「煌君、こんにちは。」
「そんなにかしこまらないでよ。都築さんの格好は会社に行く時と同じみたいだね。もしかして、いつもそんな格好なの?」
「外に出る時はね。」
「なるほどね。」
煌は私の格好をよく見る。
「これからだね。今日のプランは喜んでもらえると思うよ。」
そうかと思えば、彼は私の手を取ってゆっくりと歩き出す。どこへ行くとも言わないので不安になるものの進んで行くうちに見たことがある景色になっていき、それは自然と消えていく。
「えっと、公園?」
「そう、公園。都築さんは公園を散歩することが好きだよね?」
「なんで知ってんの?」
「俺も好きだよ。」
私の質問はスルーして彼は同意を示す。私が公園を好きだと知っている理由は不明だけど、久しぶりに来た公園に悪い気はしない。パソコンやスマホの画面ばかり見ている生活の中で、自然の色を見るのは目と脳の癒やしだ。脳も目も休日に冷まさないといけない。
「都築さんはどうして公園が好き?」
「自然の色で溢れているからね。煌君は?」
「ここは落ち着くんだよね。人がまばらで木に囲まれている。幼い頃に育った場所に似ているんだ。」
彼は笑って見せ、その目には懐かしんでいるようだ。煌の年齢を考えれば、ホームシックになっても不思議ではない。
透も1人暮らしをしてからたまに家のことを言う。帰省ができないわけではないが、口うるさいあの家に帰ることは躊躇してしまうのだろう。
私も同じようなものなので時々彼には私にとって故郷の味の餃子を作ったりして彼に食べさせる。彼はその時が外食よりも喜んでいる。
「都築さん、クレープがあるよ。食べない?」
煌の言葉は飛んでいた意識が戻り彼の視線の先を追うと確かにクレープの出店がある。流行のキッチンカーである。
「いいわよ。煌君は何にする?」
「そうだな。都築さんは?」
「もう決まっているの。ベリーベリーアンドクリーム。」
「美味しそう。俺はチョコバナナにするよ。」
「大道ね。」
「大道が一番だよ。」
初めてとは思えないほどに煌とは会話が続いている。それに、このシチュエーションに既視感がある理由がわかる。
「湊君だ。」
私の好きな湊君がヒロインに対してクレープに乗っているアイスをすくって食べさせる前に購入するシーンだ。湊君がアイスを食べさせるシーンよりも彼がクレープを買って喜ぶヒロインを見て朗らかに笑う所が好きなんだ。
湊君を思い出していたら身が震えるほどの視線を感じて顔を煌に向けると顔は変わらないので気のせいだと思うことにする。
クレープを買って近くのベンチに並んで座って食べる。違うシーンだけどこれも食べている顔を正面から見られないのでありだと思いクレープにかぶりつく。
小さい頃に1度だけ食べたことがあるけど、食べ方がよくわからない。クリームが口の端からもれたり、最後になってくると下からたれて来たりするのは知っている。
思いっきりかぶりついたらクリームが側面の生地が破れて出てしまう。紙の上から触っても感触でわかるほどだから、一口でほとんどのクリームが生地の中から消えてしまった。
「美味しい?」
「美味しいわ。久しぶりに食べた。煌君はよく食べるの?」
煌の食べかけクレープが自分のよりも遥かにきれいで食べ慣れているようだから尋ねると微笑む。
「食べるけど、こんな手に持って食べるスタイルはあまりだね。食べるのはガレットみたいな平べったいものだよ。」
煌は手でガレットの形、四角を表す。
「そうなのね。私はあまり食べないから食べ方がわからないの。けれど、煌君はきれいに食べているからすごいなと思って感心する。」
煌は褒められて驚き私と自分のクレープを交互に見る。
「嬉しいな。さっきも言ったけど、俺はこの形のクレープを食べるのは久しぶりだよ。都築さんにこんなことに興味を引かれてくれるなんて思わなかった。でも、俺は都築さんのように美味しく食べてる人は素敵だよ。」
そんなに自然と言われると年上の私が恥ずかしくなって馬鹿みたいに思える。
「煌君はよくそんな恥ずかしいセリフを言えるね。経験が物を言う世界なのね。」
私はため息を吐きクレープから出たクリームが包紙から出ないように手の力を加減しながらもう一口食べる。
クリームの甘さとブルーベリーやラズベリーの酸味がマッチしていて、甘いクリームが苦手な私でも十分食べられる。
「経験はないよ。都築さんにしか言ったことないからね。俺は言いたいことを言っているだけだよ。経験なんか無くてもできる。」
「そう?私には無理だわ。」
湊君には『好き』『格好いい』って言えるけど、現実は絶対に言えない。そんな言葉を言ったらそれを言った自分を"気持ち悪い”と思う。
「いや、無理じゃないよ。」
なんだか煌が知った顔をするのが私の印象に残る。彼が何を思っているのかいまいちわからない。ただ、彼と並んでクレープを食べて話すことが私にとって悪いことだと思えない。
初デートはただ公園を散歩してクレープを食べて終わった。和やかな雰囲気は最初の彼の提案とはかけ離れており、これならしばらく付き合うことができると手応えを感じる。
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