野獣に餌付けしてしまったらしい

ハル

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Who are you? Part1

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 事故現場を見た日の翌日は休日で頭がぼうっとしていて家事に身が入らずにごはんも冷蔵庫にある作り置きと炊いたご飯のみだ。掃除も全くできず、ただルーティンとなっているキャリアウーマンとしての自分磨きであるストレッチや顔の手入れ、あとは会社用の服のしわ伸ばしやほこりを取ることだけは忘れない。疲労があっても体が覚えているから時間がくれば勝手に動く。

「なんか、全然動けない。」

 ベッドの上で横になりぼうっと天井を見る。それで何も変わらないけれど、一瞬だけど映った自分の中にある光景が思い浮かぶ。ちらつく光景が自分が作り出した幻想という可能性も高いので無視をする。それでも、その無視を許さないと言わんばかりにあれから何度も光景が浮かんでくる。自分が持っている影のようについて回っている。それでこの日は寝不足だ。時間が経てば問題ないと思っているけれど、これ以上酷くなると私にはどうしようもない。

「寝不足だと外面が整わないんだけどね。」

 私はため息が出る。

 先ほどまで朝かと思っていた外はあっという間に真っ暗になっていて、買い物に行っていないのでおかずを作る食材を買い足しが必要になっていることに気づく。それで重い体を上げて外に出る用のジャージを着て外に出る。

 安く24時間営業していると全国的に評価が高いスーパーで1週間分の買い物を買う。家の近くまで帰ると、自分の部屋の前に立っている人影が見え、一瞬帰宅を躊躇したものの重い買い物袋をいつまでも持っているのはさすがに指が限界なのでカバンの中に入れてある防犯グッズを確認してから家に向かう。

 近づいていくとそこには年齢が近い透が立っている。彼は手を挙げて軽く挨拶をしてくる。

「いっちゃん、こんな時間にごめん。」
「どうしたの?」
「ちょっと話があるから中で話さん?」
「外じゃダメなの?というか、いつものところでよかったのに。」
「うん。ちょっと大事な話があるんだよ。」
「わかった。」

 初めて他人じゃないけれど第三者を部屋に入れるので少し抵抗感があるけれど、透のことを知っているので彼を部屋に入れることにする。しかし、彼がいるので夕食の準備ができないことを残念に思う半面、お腹が少しも減っていない。

「思ったよりも普通に生活をしてんのか。」
「その言い方は失礼だよ。彼女にそれは言わない方がいいよ。」
「そんなことは言わん。俺は彼女を大事にするからな。」
「それって、私のことは別にいいって思っているってこと?」
「いや、そうでもないけど。」

 私は彼にお茶を出す。透は冷たいお茶はあまり好きではないので常温保存のお茶を出す。

「それで透はどうしたの?何かあった?」
「うん、なんかあったというか、いっちゃんの様子を見に来ただけだ。」
「別に普通だけど。」

 寝不足なんて言うと彼から彼の母親である姉に伝わる。彼がそう簡単に母親に言うとは思えないので別に見栄を張る必要はないのだけど単純に目の前の弟のような甥に弱い部分を見せたくなかっただけかもしれない。私は根っからの見栄っ張りだから。

「そうか。それならいい。」

 ふーんという顔をする彼。こんな風に様子を見に来ることは今まで一度もなかったのだけど、それ以上に明確には言えないけど違和感を感じる。彼のしぐさがどれも彼とはいつもと全く違うように感じて仕方がない。

「ところで、なんで様子を見に来たの?透に心配かけるようなことはなかったと思うけど。」
「なんでって。この間の向こうが飽きるまで付き合う一件があってから報告がないからだろう。」
「報告って。まるで、会社のような言い草だね。その一件はちょっと保留かな。相手と会っていないし。きっと向こうが飽きたんだよ。」

 透に言われて煌に付き合うことになったことを思い出す。そうしたら、デートからハジメテまで経験したから私としてはもう何も必要ないのだけど、一応はまだ付き合っている状態だけどあの事故現場を目撃する前に一瞬見た男性、煌の顔は嵐の前の静けさのような波が引いてしまったような感情を押し殺した表情をしていた。彼はいつも会うときのスラックスと襟付きTシャツのラフな格好ではなく、見たことがない今からパーティーでも行くような服を着ていた。その時の彼はまるで別人であり、彼の周囲には黒服の男性が数人立っており、高級な黒塗りの車に乗るところだった。そんな彼を見れば、彼があの高級ホテルをマンションのように借りているのも頷けた。私がすぐに彼から視線を外したのは別にそんな彼を今更確認したからではなく、彼の視線に私が囚われそうだったからだ。
 煌のただの火遊び。それが常識的に正しい流れであり、このまま彼と関わらないことが自分も楽だと思う。私はそんな意思も込めて透に発言する。

「もう関係ないよ。相手と連絡していないしね。透、これで満足?」
「いっちゃんがそれでいいならいいけどさ。顔色は少し悪いけど元気そうでよかった。」

 透は立ち上がる。彼を見送るのに玄関まで行くと彼は振り返り笑顔を向ける。

「あんまり根を詰めるなよ。いっちゃんは真面目だから心配だよ。いっちゃんにはいっちゃんの理想があるから何も言わないけど、何かあったら言って。俺はまだ大学生であまりできることは少ないけど、救急車を呼んだり話を聞くぐらいはできるんだから。」
「ありがとう、透。気を付けて帰ってね。外は暗いんだから。」
「俺は男だし、暗いって言ってもこの街では遅い時間じゃないから大丈夫だよ。バイバイ。」
「バイバイ。」

 私は彼に手を振り返してドアが閉まるまで見送る。ドアが閉まった瞬間、すぐに二重ロックをしてから部屋に戻る。

「透、何か知っていると言わんばかりだよ。そんな風にしていると。」

 私は彼の言葉でやっと気づいた。彼が何を知っているのかはわからないけれど、彼が気にしているのは煌のことではなく、あの事故のことだろう。あの事故はかなり大きなものであり、テレビ放送されておりその映像に私の姿と思われるものがわずかに残っていた。ニュースで流れた時は驚いたものの、全体的にモザイクがかかっているので知っている人でないとわからないはずだ。スーツ姿を彼が知っているから気づくのであれば、家族であっても彼ぐらいだと思っていた。

「あの事故と私に何の関係があるの?」

 私は首を傾げ一瞬だけ映像がフラッシュバックしたけれどすぐに治まる。最終的には透に聞くしかないかもしれない。あまり彼との関係に亀裂を入れたくないけれど、彼は話さないといけないと判断できれば話す人なのでそれを待つことにする。

ブブブッ
ブブブッ

 そう決めた時に、スマホがバイブする。

「今から湊君を見ようと思ったのに今度は何?」

 ため息を吐いてスマホを見ると先ほど話題に上がった煌からであり、出ないでおこうかと画面を下向きに置こうと思ったのだが、やっぱり出ることに決める。

「もしもし。」
「伊月さん、元気?」

 いつもと変わらない声が逆に不安にさせる。

「伊月さん、契約を果たしてよ。」
「え?」
「契約したよね。”俺が飽きるまでは週末に一緒に過ごす”と。伊月さんは簡単に契約を破るような人なの?」
「そんなことはしないわ。わかった、今から行くけどどこに行けばいいの?」
「伊月さんの家の前。」

 彼の返答を受けてすぐに通話を切り、ジャージのままではさすがに誰かと会うことはできないので、とりあえず会社と同じ格好で出る。
 外には高級車が止まっており一目でそれだとわかるほどだ。ただ、あの日見た黒塗りの車ではなく高級車だけど乗用車だ。運転手側のドアが開き煌が降りてくる。彼の格好もまたいつもと同じようなラフな格好をしている。
 煌は車から出て私を両手で抱きしめてくる。

「伊月さん、痩せたね。」

 彼の第一声に私は体を離そうとする。力を入れたところで彼にかなうはずがないのだけど、久しぶりに会って体型の話を女性に対して言うのは怒っても良いと思う。それから、私は彼の胸を叩いて怒りを表現する。

「そんなことを言うならもう行かない!」
「ごめんごめん。でも、伊月さんがそんなに弱っているから心配して出た言葉なのにな。」
「早く家に帰っておいしいごはんを食べさせてあげるよ。さあさあ、車に乗って。」

 煌は私を助手席に案内して彼も運転席に座って出発させる。

 ホテルに着いて部屋に行くとそこには温かい食事が用意されている。それを見てお腹が鳴る。先ほどまで空腹を感じなかったのに、ここに来てなぜかそれが回復する。

「お腹が空いているだろうと思った。さあ、食べよう。温かい料理を食べるのは一番の贅沢だよね。」
「そうだね。煌君は良いこと言うわね。あなたが準備してくれるからありがたくいただくわ。」

 私は彼と向き合って準備してくれたごはんを食べる。高級ホテルだからどんな高級料理が出てくるかと思っていたが、その料理は素朴なものであり和食の膳だ。ごはんと味噌汁、茶碗蒸しと野菜とお肉が載った皿と火と上に焼く用の小さなフライパン。見た目からおいしそうであり焼く楽しみだ。
 初めて食べるホテルの味。野菜とお肉を焼きだすとすぐに薄いお肉に火が通る。

「もういいよ。伊月さん、そんなによく焼かなくても、いいや、焼かない方がおいしいよ。」
「わかった。」

 彼の助言通りに肉をすぐに取り上げて口に入れた瞬間に肉が無くなる。

「これが溶ける?」
「美味しいだろう。」
「美味しい。」

 2人で笑い合う。おいしい食べ物を前に喧嘩などできるはずもない。

「ありがとう。」
「良いんだよ、伊月さん。」

 私は彼の言葉の暖かさを感じた気がした。

 そんな温かな空気はすぐに熱湯のように熱さに変わり、煌に手を引かれてベッドの上に倒される。すでに、キスをし続けていてお互いに息を乱している。

 最初は息苦しさしか感じなかったのに、今では自分から相手に求めるように彼の後頭部を押さえて舌を伸ばす。寝不足もあるためか熱がなかなか冷めない。

「本当にきれいだよ。伊月さん。」
「ん、、うん」

 彼は褒め言葉も忘れず、私の体に触れることもキスをしながら必ずこなす。彼の器用さに驚きながらもそれを全て受け入れる。そして、最後に私の最奥に己の所有物だと言うような証を残そうと彼の欲を放つ。

「気持ちいいよ。今日は特に。」

 少し乱れた息遣いで動く彼の心臓が心地良い。それは人が本来集団で生活する生き物だからかもしれない。遺伝子に組み込まれた、つまり、本能である。
 そんなことを考えていると中で彼が大きくなっているのが分かる。

「まだ、続けるの?」
「うん、もちろん。」

 彼は正面から背面に切り替え、背中から上に覆いかぶさるように、思いっきり体重をかけて来てさっきのが最奥ではなかったように思わせる。
 何度も何度も突かれて私の中は入り切らないほどに彼から放出された白濁で埋め尽くされる。

「伊月さん、いや、伊月。君は俺のものだよ。君が最初に俺に餌をくれたんだからね。ペットは最後まで面倒をみないとダメだよ。」

 かすれる意識の中で煌が私の頬をなでてささやきキスを落とす。
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