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記憶を求めて Part1
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記憶は住んでた場所や行った場所を訪れたり、同じ体験をすることで勝手に思い出すことがあるらしい。これは本で読んだことがあるので、とりあえず私は甥の透を誘って実家がある地域を散策することにした。透は不満を隠さなかったが、交通費とご飯で簡単に乗ってきた。
「それで、どのへんを回るんだ?」
「校区とよく行っていたスーパーとかショッピングモールとか。」
「結構回るんだな。俺はいっちゃんについて行くから。」
彼はあくびをしながら言う。始発で来たので時間は多くあるのだけど、やっぱり、彼にとっては早い時間だったようだ。それでも、文句一つ言わずついてきてくれる彼は優しい。
まず、通学路から歩いてみる。子どもの頃は遠いと思っていた学校も大人の足ではそれほど距離を感じない。そして、歩いてみたけど、何の記憶もないため次に向かう。
次はよく来たスーパーに入ってみる。地域密着型スーパーであり、働いているパートは地元の人ばかりで母はよく声をかけられていた。母は社交的だったからであり、その性格は姉が受け継いでいる。残念ながら、私には1ミリもないため声をかけられることもなく、何の成果もないまま終わる。
最後に少し離れたショッピングモールに向かう。
「お昼はどこで食べる?」
ショッピングモールに向かう途中に透に尋ねると彼は一も二もなく答える。
「あまや」
彼が言ったのはちょうど行く途中にある退職した老夫婦が営むレトロ喫茶店だ。しかし、食事メニューは少しボリュームがあり、無限な彼の胃袋を満たす。それに、値段もそこまで高いわけじゃないので賛成してお店に向かう。
喫茶店はまだ11時なのに席が結構うまっている。窓側の席は全てうまってしまっていたので、廊下側の席に着く。
メニューは以前来た時とそれほどの変化はなく、デザートや食事メニューに季節限定が増えているくらいだ。前は限定メニューがなく、通年を通して同じメニューだったのだが、客層が若い人も来ているところを見るとその変化は成功だったようだ。
しかし、私は久しぶりに訪れたので通年メニューのナポリタンプレートを食べる。そして、同類らしい透も同じく通年メニューであるミックスサンドプレートを食べている。彼とはやっぱり同じ血が流れていると実感しつつ、懐かしいケチャップ味と分厚いベーコンとピーマンは食べごたえがある。
「いっちゃんはナポリタンが好きだな。」
「そういう透はサンドイッチが好きだね。私が昼食分まで考えて作った卵サンドを朝食で食べ切られた時は困ったもん。」
「卵サンドが一番好きだからな。」
あの時は昼食が無くなって慌てたな、と思い出話をしたつもりが、透はちょっと罰が悪そうな顔をしてしまっている。私は彼の頭を乱暴になでる。
「別に怒ってないよ。透はまだまだ成長期。まぁ、今後は将来のことも考えて太らないように偏った食事はしないようにね。」
「分かったよ。俺よりいっちゃんの方が心配だけどね。」
「何が?」
彼に心配されてるとは思わず、私は首を傾げる。
「痩せたよな。例の男が関係してるのか?」
「痩せたかどうかわからないけど、あの人はご飯を食べさせてくれるから、太ることはあってもその逆はないと思う。」
「そっか。じゃあ、太らせた後で食う気かな。いや、もう食べられてる、とか。」
「そういう契約だからね。」
そういうことを血縁者に知られると恥ずかしい。しかし、透はあまりに平然とそんな話に首を突っ込むのでそちらに話を持っていく。
「透は恋人いる?」
「恋人がいたら、週末にいっちゃんとこんなところまで来てご飯食べてない。」
「それはそうかもしれないけど。透って、恋人とか謎なんだよ。」
「別に隠してるわけじゃない。恋人はいる。今度紹介しようか?いっちゃんなら問題ないと思うからな。」
「やっぱりいるんじゃん!」
透の言葉が支離滅裂になっていておかしい。
「透、最初と言っていることが違うよ。」
「俺が今回はついて行きたかったんだ。これがいっちゃんじゃなくて、他の身内だったら絶対に来てない。」
「嬉しいことを言ってくれるね。ありがとう、透。」
私は彼の頭を思いっきり撫でる。彼が小さい時から誰よりも一緒にいたので、彼なりに親密に思ってくれてると思っていたが、たまには言葉で伝えてくれるとこちらも悪い気はしない。
気分よく食事を終えて、最後の目的であるショッピングモールに向かう。
この辺りで遊ぶならここぐらいしかない映画とブランドショップ、雑貨屋に電気屋、ゲームセンターとボウリングなどが揃っている巨大商業施設である。この日は土曜日であり、家族連れや学生が多く訪れている。
「久しぶりに来たな。」
「私も高校以来かも。」
「ところで、俺らはなんでこんなに歩いているんだ?」
透には目的を言わずに来ている。それなのに、彼は理由もなく歩いていたのだから優しいと思う反面、付き合っている相手に尻に敷かれてないか心配になる。
理由を言えば、透の反応からなにか分かるかもしれないけど、彼よりも母や兄や姉に聞いた方が私が楽だ。
それでも、透が聞いてきた時は素直に話す決心はしていたので、彼の質問は予想通りである。
「透、私は何か大事なことを忘れていたらしい。」
「何を言って。」
冗談のように受け取り軽く返そうとした透は途中で言葉を止めている。それだけで彼は何かを知っていることは明らかだけど、私は彼を問い詰めたりしない。
「今は何も言わずについてきてほしい。それだけで十分だから。」
「分かった。でも、記憶は時に自分を守るためにあることを覚えておいて。」
彼からの忠告を心に留めて、彼とショッピングモールの中を歩く。
「それで、どのへんを回るんだ?」
「校区とよく行っていたスーパーとかショッピングモールとか。」
「結構回るんだな。俺はいっちゃんについて行くから。」
彼はあくびをしながら言う。始発で来たので時間は多くあるのだけど、やっぱり、彼にとっては早い時間だったようだ。それでも、文句一つ言わずついてきてくれる彼は優しい。
まず、通学路から歩いてみる。子どもの頃は遠いと思っていた学校も大人の足ではそれほど距離を感じない。そして、歩いてみたけど、何の記憶もないため次に向かう。
次はよく来たスーパーに入ってみる。地域密着型スーパーであり、働いているパートは地元の人ばかりで母はよく声をかけられていた。母は社交的だったからであり、その性格は姉が受け継いでいる。残念ながら、私には1ミリもないため声をかけられることもなく、何の成果もないまま終わる。
最後に少し離れたショッピングモールに向かう。
「お昼はどこで食べる?」
ショッピングモールに向かう途中に透に尋ねると彼は一も二もなく答える。
「あまや」
彼が言ったのはちょうど行く途中にある退職した老夫婦が営むレトロ喫茶店だ。しかし、食事メニューは少しボリュームがあり、無限な彼の胃袋を満たす。それに、値段もそこまで高いわけじゃないので賛成してお店に向かう。
喫茶店はまだ11時なのに席が結構うまっている。窓側の席は全てうまってしまっていたので、廊下側の席に着く。
メニューは以前来た時とそれほどの変化はなく、デザートや食事メニューに季節限定が増えているくらいだ。前は限定メニューがなく、通年を通して同じメニューだったのだが、客層が若い人も来ているところを見るとその変化は成功だったようだ。
しかし、私は久しぶりに訪れたので通年メニューのナポリタンプレートを食べる。そして、同類らしい透も同じく通年メニューであるミックスサンドプレートを食べている。彼とはやっぱり同じ血が流れていると実感しつつ、懐かしいケチャップ味と分厚いベーコンとピーマンは食べごたえがある。
「いっちゃんはナポリタンが好きだな。」
「そういう透はサンドイッチが好きだね。私が昼食分まで考えて作った卵サンドを朝食で食べ切られた時は困ったもん。」
「卵サンドが一番好きだからな。」
あの時は昼食が無くなって慌てたな、と思い出話をしたつもりが、透はちょっと罰が悪そうな顔をしてしまっている。私は彼の頭を乱暴になでる。
「別に怒ってないよ。透はまだまだ成長期。まぁ、今後は将来のことも考えて太らないように偏った食事はしないようにね。」
「分かったよ。俺よりいっちゃんの方が心配だけどね。」
「何が?」
彼に心配されてるとは思わず、私は首を傾げる。
「痩せたよな。例の男が関係してるのか?」
「痩せたかどうかわからないけど、あの人はご飯を食べさせてくれるから、太ることはあってもその逆はないと思う。」
「そっか。じゃあ、太らせた後で食う気かな。いや、もう食べられてる、とか。」
「そういう契約だからね。」
そういうことを血縁者に知られると恥ずかしい。しかし、透はあまりに平然とそんな話に首を突っ込むのでそちらに話を持っていく。
「透は恋人いる?」
「恋人がいたら、週末にいっちゃんとこんなところまで来てご飯食べてない。」
「それはそうかもしれないけど。透って、恋人とか謎なんだよ。」
「別に隠してるわけじゃない。恋人はいる。今度紹介しようか?いっちゃんなら問題ないと思うからな。」
「やっぱりいるんじゃん!」
透の言葉が支離滅裂になっていておかしい。
「透、最初と言っていることが違うよ。」
「俺が今回はついて行きたかったんだ。これがいっちゃんじゃなくて、他の身内だったら絶対に来てない。」
「嬉しいことを言ってくれるね。ありがとう、透。」
私は彼の頭を思いっきり撫でる。彼が小さい時から誰よりも一緒にいたので、彼なりに親密に思ってくれてると思っていたが、たまには言葉で伝えてくれるとこちらも悪い気はしない。
気分よく食事を終えて、最後の目的であるショッピングモールに向かう。
この辺りで遊ぶならここぐらいしかない映画とブランドショップ、雑貨屋に電気屋、ゲームセンターとボウリングなどが揃っている巨大商業施設である。この日は土曜日であり、家族連れや学生が多く訪れている。
「久しぶりに来たな。」
「私も高校以来かも。」
「ところで、俺らはなんでこんなに歩いているんだ?」
透には目的を言わずに来ている。それなのに、彼は理由もなく歩いていたのだから優しいと思う反面、付き合っている相手に尻に敷かれてないか心配になる。
理由を言えば、透の反応からなにか分かるかもしれないけど、彼よりも母や兄や姉に聞いた方が私が楽だ。
それでも、透が聞いてきた時は素直に話す決心はしていたので、彼の質問は予想通りである。
「透、私は何か大事なことを忘れていたらしい。」
「何を言って。」
冗談のように受け取り軽く返そうとした透は途中で言葉を止めている。それだけで彼は何かを知っていることは明らかだけど、私は彼を問い詰めたりしない。
「今は何も言わずについてきてほしい。それだけで十分だから。」
「分かった。でも、記憶は時に自分を守るためにあることを覚えておいて。」
彼からの忠告を心に留めて、彼とショッピングモールの中を歩く。
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