オレンジ色の春

猫山くれは

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夏色世界

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無事夏が来た。いや、無事と言っていいのだろうか。今は8月、余命宣告3ヶ月は過ぎたが、彼女はだいぶ痩せこけている。もう既に立つ力も失われてしまった。
その経験も無い僕には想像もしかねるほど辛いだろう、痛いだろう、悲しいだろう…
なつにとって最後になるかもしれない夏、医者からは残りの人生を家で過ごすといいと言われたそうだ。
今日は花火大会、去年も来た場所だ。しかし、去年より思い出に残る、なにより1番綺麗な花火があがることだろう。
前は土手で見たのだが、あそこは人が集まりすぎる、なにより今のなつは車イスだ。できるだけ負担がかからない場所で見たい。あの山の上に神社がある、そこなら少し遠いから人も少なく、平坦な道なのでゆっくりと花火を見れるだろう。
「今回は2人でゆっくりしよう」
「うん!」
気を使ってくれているのだろう、弱々しい声だがすごく笑顔で答えてくれた。
「ふゆに出会えて…本当に良かった」
言葉と同時に花火が上がり彼女の声はほとんどかき消されてしまったが、その表情は涙を浮かべながらも今までで1番の笑顔を見せた。
花火と一緒に2人で写真を撮った。

その夜は少し雨が降った。

次の日の早朝、花畑を見に行きたいと言われた。
僕は二つ返事で答え、すぐに準備をした。彼女のためなら何処へでも一緒に行ってあげたい。
バスでも良かったのだが、負担になると思い、タクシーを使った。
夏らしい水玉のワンピースに麦わら帽子、太陽の光が草木の雫に反射する。
その光景は美しく綺麗でまるで1枚の絵、
元気いっぱいに笑う彼女は無理をしているわけでもなく、健康そのもののように見えた。
「わ!ヒマワリ!綺麗だね、夏になったらこの花飾ってね!」
「縁起悪いこと言うなって、まだ行きたいところいっぱいあるんだから」
「そうだね。うん!」
「何年経っても好きだよ。」
「私も~」
僕達はいつも通りまた明日!と言い家に帰った。

また明日、これが最後に話した言葉だった。なつは最後、幸せそうな表情で亡くなった。まだ17歳だった。

4年後…
僕は高校を卒業し、芸術大学の美術学部に入り、2年目の夏になった。
今日はなつの命日、なつが好きなキンセンカとヒマワリを毎年供えに来ている。
お線香をあげ、合掌する。
「今日も暑い日だね、ここは32℃を超えたってさ、なつのために絵を書いてきたんだ。4年前のあの日を思い出しながら、花畑ではしゃぐきみ、青い空に大きな入道雲、生い茂る草木に雨露、我ながら自信作!どうかな。」
また来年も来るねと言い、帰ろうとした時、少し強い風が吹いた。僕はなつの方を見るとヒマワリが元気に笑っていた。
「おかえり」…そう言われた気がした。
「ただいま。」

キンセンカの花言葉「別れの悲しみ」
ヒマワリの花言葉「あなたを幸せにします」
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朔間えみりこ
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解除

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