EGOIST

崎矢梨斗

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 車から引き摺り降ろされ部屋に連れ込まれる。
 どこをどう走ってここまで来たのか、譲にはまるで分からない。
 ナビシートに深く沈みこんでいて、外はよく見えなかった。身を起こそうとすれば男は容赦なく殴りつけてきて、譲は小さく身を固めているしかなかったのだ。
 連れ込まれた部屋に人の気配はなかった。空きビルの一室らしい。廃屋と呼ぶのがピタリとはまるほど、部屋の中は殺風景だ。
 薄汚れた剥き出しのコンクリート壁。棚は横倒しになり、隅には脚の折れたテーブルが転がっている。
 部屋に入るなり男は掴んでいた手を乱暴に突き放した。譲の身体を部屋の奥へ押しやる。
 足下をふらつかせよろめいた譲は、誇りっぽい床の上に倒れこんでしまった。すかさず男が伸し掛かってくる。
「泣いても叫んでも構わんぞ。どうせ誰も来やしない」
 男はニタニタとイヤラシイ笑いを見せた。
 男の身体が密着する。
「ヒ……ッ」
 あまりの不気味さに譲は顔を背けた。掠れる悲鳴はうまく声にならない。
 男はじわじわと顔を近づけてくる。
「どうした? 声を出さないのか?」
 男の舌が譲の頬を舐めた。
 ナメクジが這い回るようなおぞましさに、譲の身体が竦みあがる。
「イ……、あ…………」
 ガタガタと震え強張る譲の身体を、男の手が撫で始めた。
「ほら、この間の続きだ。今度は邪魔も入らないからな」
 ボタンを引きちぎり、シャツの前を強引に開く。露わになった白い胸元に、男はむしゃぶりついた。
「こうされたかったんだろ? ククッ、エロいガキだ」
「違う……ッ、……あ……っ……イヤだ……!」
 小さな突起に男の舌が絡む。
 譲は必死に身を捩った。体格差のためか男の身体はビクともしない。
 押さえつけられろくに動くこともできない譲の身体を、男の舌が嬲り始める。
「ヤダ……ッ、……あう……ッ」
 突起を唇に挟み込まれ、譲の背が跳ねあがる。
 男は満足そうに眸を細めた。
「なんだ、もう気持ちよくなってきたのか。清純なふりをして本当は淫乱なんだろう? んん?」
「違……ッ」
「咥えこむのも好きか? ガキのくせにとんでもない淫売だ」
「違う! 俺はそんなこと……ッ」
「悦んでるんだろう? ここも触られたくてウズウズしてる」
 男の手がデニムパンツのジッパーを下げ、中に潜りこんできた。
「クッ……、イヤ……!」
 身をくねらせ逃れようとしても、伸し掛かる男の下からは抜け出せない。
「ヒィ……ッ」
 萎えたままの半身を強く掴まれ、譲は痛みに悲鳴をあげた。
「痛い……痛いよ……、……離して……」
 堪えていた涙が零れ落ちる。
 半身を荒っぽく揉みこまれ、痛みしか感じることができない。
 男の興奮が荒い息遣いから伝わってくる。気持ち悪さに吐き気がした。
 譲が抵抗できないのをいいことに、男は行為に拍車をかける。
 舌がぬるりと肌の上を這い回った。無骨な指は譲の半身を擦りたて、無理矢理に快感を引き出そうとする。
「助……けて……」
 我慢の限界を超え譲は泣きじゃくった。
「ヤダ……ッ、……イヤ……ッ」
 動かない身体を懸命に捩る。
 弱々しい抵抗は男をさらに煽り立てるだけだった。
「どうした? もっと叫んでいいんだぞ」
 男は薄笑いを浮かべる。
「どんなに泣き叫んだって、誰も来ないさ」
「あう……ッ」
 男が譲の首筋に歯をたてた。
 食べられる。
 肉も骨も残さず、しゃぶり尽くされてしまう。
 そんなはずはないのだと分かっていながら、けれど譲は喰らい尽くされる恐怖に怯えた。

 俊ニイ……。
 助けて、俊ニイ。

 決して口には出せない名を胸の裡で叫ぶ。
 呼んではいけなくても、求めてはいけなくても、今脳裏に浮かぶのは兄の姿しかなかった。

 俊二イ…………俊ニイ……!

 無駄だと知っていても、どうしようもなく彼の姿を求めてしまう。
 助けになど来るはずがない。
 誰も譲を救ってくれない。
 譲の身になにが起こっているかなど、俊は知るよしもないのだ。
 男が僅かに身を起こす。
「こっちにもそろそろ咥えこみたくなってきたか?」
 男の指が1本、後ろの窄まりを擽り挿し入れられる。
 譲は背を大きく撓らせた。
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