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第2章 白き海賊船ルナティス
*13*
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ウルフの腕がカシスの身体を軽々と抱き上げた。しなやかな体躯からは思いもよらない力強さで、カシスの身体を軽い荷物のように肩へ担ぎ上げてしまう。
「降ろせよッ! 降ろせ!」
猛然とカシスは暴れだした。その下肢をウルフの手がパンとはたく。
「床に叩き落されたくなけりゃ大人しくしてろ」
「ふ……ざけるなッ」
「こいつらの目の前で犯されたいっていうなら、それでもイイぜ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら周りには届かぬようわざと小さく耳打ちされ、カシスはボッと耳までを赤く染めた。
なにか言い返したいと思うのに、言い返すことができない。
ウルフの肩に担がれふたつに折られた身体をカシスは縮めた。海賊たちの目が自分に絡み付いている気がする。こんな風に抱え上げられている格好にしても、恥ずかしくて情けなくて仕方ないのだ。
カシスはウルフの背に熱くなった頬を押し当てた。隠れたくても隠れることすらできないのだから、そうするより他にない。
カシスの羞恥を煽る術を、ウルフは知り尽くしている。海賊たちの目を集めてしまうことが嫌でろくに口を開くこともできないカシスの心情も見透かしているのだろう。
恨みがましく小さな唸りをあげるカシスに、ウルフの背から笑う振動が伝わった。
カシスを肩に乗せたままウルフは部屋を出ようと歩き出す。通り抜けざまに、コードの束を手にしながらあたふたと動いているフリッツへと目を向けた。
「フリッツ」
「は……はいッ」
「慌てる必要はない。慎重にやれ。チェックは絶対に漏らすなよ。―――次にミスったら許さねーからな」
「ア……アイアイサー、キャプテン!」
「ロイ、後は任せる」
「アイアイサー」
それぞれの応えを受け止めて、制御室を後にする。
部屋を出るなり、カシスは再びウルフの肩でもがいた。
ウルフはどうやら肩に担いだカシスを下ろすことなく船内を進もうとしているらしい。
冗談じゃないとカシスは必死に四肢をバタつかせる。こんな情けない格好を海賊たちの目に晒すなど真っ平だ。
しかしウルフはそんなカシスの抵抗を、腕の力を強めることで難なく封じた。
「大人しくしてろって言ったはずだぜ?」
「そんなこと知るもんかッ。離せってば!」
「この場で服を剥ぎ取ってやろうか?」
「な……ッ!?」
「それが嫌なら聞き分けるんだな」
ウルフの声には冗談と思えない響きがある。
本気でやりかねないのだ、この男は。
カシスはだらりと力なく四肢を投げ出すしかなかった。
* … * … * … * …* … * … *
ウルフの自室に戻るなり、カシスはベッドに投げ出された。突然の重みにベッドが大きく軋みをあげる。
「ク……ッ」
「お望みどおり降ろしてやったぜ、王子サマ」
羞恥とは別の熱に頬を紅潮させ剣呑に睨みつけるカシスへ、ウルフはしれっと言い放つ。
自室へ戻るまで船内をウルフは殊更にゆっくりと歩いた。用もなく立ち止まっては見かけたクルーたちと言葉を交わす。もちろん肩に抱えられたカシスは抗議の声ひとつあげることができなかった。
海賊たちの目に情けない姿を晒され、羞恥が次第に悔しさを伴う。腹立たしさがこみあげ怒りへと変化するまで、そう長くはかからなかった。
膨れ上がる怒り。我を忘れ喚き散らしてやりたいほどの。
内包した怒りを押し殺し、カシスは声を絞り出した。
「なに……を……考えて……」
「分かるだろ、カシス?」
ベッドの端に腰を下ろし覗き込んでくるウルフの双眸が悪戯な色に輝く。
腕輪の重みはとうになくなっていたが、呪縛が解かれたわけではない。腕輪同士が引き寄せられ不自由に合わさった腕をカシスは振り上げた。
殴りつけようと振り下ろした腕が掴まれる。ウルフの眼前でいとも容易く。
視線が間近で絡み合った。
きつく見据えるカシスの目を、ウルフはさらりと事もなげに受け止める。
「俺はそんなに気の長い方じゃない。時間をかけて躾けるなんて面倒なマネはごめんだ。手っ取り早い方法―――とくれば、これが1番だと思わねーか?」
「…………」
口を閉ざすカシスに、ウルフはニヤリと笑んでみせる。
「散々楯突いたんだ。ご褒美に選ばせてやるぜ、王子サマ。選択肢はふたつ。どちらか一方だ」
「どちらか……一方?」
「着ている服を全て脱ぎ丸裸になって自分から脚を開いてみせるか、それとも腰を振ってねだるようになるまでこの俺に嬲りつくして欲しいか」
「―――そんなこと……ッ!」
選べるわけがない。
カシスの裡でくすぶっていた怒りは、混乱へと形を変えた。
冗談とも本気ともつかぬ笑みを、ウルフは浮かべている。
逃れようともがき始めたカシスの身体は、ベッドの上に引き倒された。
「離せッ」
「選べよ。どっちがお好みだ?」
「嫌だ! そんなの……っ」
「選択肢はふたつだけだ。他はない」
「―――ッ」
首筋に押し当てられた湿り気を帯びた唇の感触に、カシスは思わず息を呑む。
耳朶に軽く歯を立て、ウルフは囁いた。
「応えないなら俺が決めてやろう」
スルリと忍ばせた手で下肢を撫でる。
「『じっくり相手してやる』とも言ったな。覚えてるか?」
布地を通して感じる熱に、カシスはギュッと瞼を閉じた。
「降ろせよッ! 降ろせ!」
猛然とカシスは暴れだした。その下肢をウルフの手がパンとはたく。
「床に叩き落されたくなけりゃ大人しくしてろ」
「ふ……ざけるなッ」
「こいつらの目の前で犯されたいっていうなら、それでもイイぜ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら周りには届かぬようわざと小さく耳打ちされ、カシスはボッと耳までを赤く染めた。
なにか言い返したいと思うのに、言い返すことができない。
ウルフの肩に担がれふたつに折られた身体をカシスは縮めた。海賊たちの目が自分に絡み付いている気がする。こんな風に抱え上げられている格好にしても、恥ずかしくて情けなくて仕方ないのだ。
カシスはウルフの背に熱くなった頬を押し当てた。隠れたくても隠れることすらできないのだから、そうするより他にない。
カシスの羞恥を煽る術を、ウルフは知り尽くしている。海賊たちの目を集めてしまうことが嫌でろくに口を開くこともできないカシスの心情も見透かしているのだろう。
恨みがましく小さな唸りをあげるカシスに、ウルフの背から笑う振動が伝わった。
カシスを肩に乗せたままウルフは部屋を出ようと歩き出す。通り抜けざまに、コードの束を手にしながらあたふたと動いているフリッツへと目を向けた。
「フリッツ」
「は……はいッ」
「慌てる必要はない。慎重にやれ。チェックは絶対に漏らすなよ。―――次にミスったら許さねーからな」
「ア……アイアイサー、キャプテン!」
「ロイ、後は任せる」
「アイアイサー」
それぞれの応えを受け止めて、制御室を後にする。
部屋を出るなり、カシスは再びウルフの肩でもがいた。
ウルフはどうやら肩に担いだカシスを下ろすことなく船内を進もうとしているらしい。
冗談じゃないとカシスは必死に四肢をバタつかせる。こんな情けない格好を海賊たちの目に晒すなど真っ平だ。
しかしウルフはそんなカシスの抵抗を、腕の力を強めることで難なく封じた。
「大人しくしてろって言ったはずだぜ?」
「そんなこと知るもんかッ。離せってば!」
「この場で服を剥ぎ取ってやろうか?」
「な……ッ!?」
「それが嫌なら聞き分けるんだな」
ウルフの声には冗談と思えない響きがある。
本気でやりかねないのだ、この男は。
カシスはだらりと力なく四肢を投げ出すしかなかった。
* … * … * … * …* … * … *
ウルフの自室に戻るなり、カシスはベッドに投げ出された。突然の重みにベッドが大きく軋みをあげる。
「ク……ッ」
「お望みどおり降ろしてやったぜ、王子サマ」
羞恥とは別の熱に頬を紅潮させ剣呑に睨みつけるカシスへ、ウルフはしれっと言い放つ。
自室へ戻るまで船内をウルフは殊更にゆっくりと歩いた。用もなく立ち止まっては見かけたクルーたちと言葉を交わす。もちろん肩に抱えられたカシスは抗議の声ひとつあげることができなかった。
海賊たちの目に情けない姿を晒され、羞恥が次第に悔しさを伴う。腹立たしさがこみあげ怒りへと変化するまで、そう長くはかからなかった。
膨れ上がる怒り。我を忘れ喚き散らしてやりたいほどの。
内包した怒りを押し殺し、カシスは声を絞り出した。
「なに……を……考えて……」
「分かるだろ、カシス?」
ベッドの端に腰を下ろし覗き込んでくるウルフの双眸が悪戯な色に輝く。
腕輪の重みはとうになくなっていたが、呪縛が解かれたわけではない。腕輪同士が引き寄せられ不自由に合わさった腕をカシスは振り上げた。
殴りつけようと振り下ろした腕が掴まれる。ウルフの眼前でいとも容易く。
視線が間近で絡み合った。
きつく見据えるカシスの目を、ウルフはさらりと事もなげに受け止める。
「俺はそんなに気の長い方じゃない。時間をかけて躾けるなんて面倒なマネはごめんだ。手っ取り早い方法―――とくれば、これが1番だと思わねーか?」
「…………」
口を閉ざすカシスに、ウルフはニヤリと笑んでみせる。
「散々楯突いたんだ。ご褒美に選ばせてやるぜ、王子サマ。選択肢はふたつ。どちらか一方だ」
「どちらか……一方?」
「着ている服を全て脱ぎ丸裸になって自分から脚を開いてみせるか、それとも腰を振ってねだるようになるまでこの俺に嬲りつくして欲しいか」
「―――そんなこと……ッ!」
選べるわけがない。
カシスの裡でくすぶっていた怒りは、混乱へと形を変えた。
冗談とも本気ともつかぬ笑みを、ウルフは浮かべている。
逃れようともがき始めたカシスの身体は、ベッドの上に引き倒された。
「離せッ」
「選べよ。どっちがお好みだ?」
「嫌だ! そんなの……っ」
「選択肢はふたつだけだ。他はない」
「―――ッ」
首筋に押し当てられた湿り気を帯びた唇の感触に、カシスは思わず息を呑む。
耳朶に軽く歯を立て、ウルフは囁いた。
「応えないなら俺が決めてやろう」
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