火の国と雪の姫

さくらもっちん

文字の大きさ
上 下
22 / 26

22 懐かしい面影を持つ者

しおりを挟む

「……星芒《せいぼ》、苺。お前達が、どうして、ここに?
そうだ。白雪って娘が、山小屋に居るだろう。
保護をするから、今すぐに、案内をしなさい!」

数十名の大人達は、どこか、急《せ》かされていて、様子が変だ。単語ルビ
村人達の一人が、乱暴に、星芒の肩を、揺さぶった。

チカチカチカ。

苺が手にした杖を振ると、赤い閃光《せんこう》が、数百メートル付近にまで、広がった。単語ルビ

バタバタと、音を立てて、光りを浴びた村人達が、地面に、倒れている。
苺の特殊能力、眠り姫と言う名の術だ。敵を眠りに誘《いざな》うのは、苺のお得意分野だった。単語ルビ

「私の見立てだと、この白い煙には、白の国の術が、掛かっているわ。
私達は、身に付けた浴衣の防護力のおかげで、掛からずに、済んだわね。ついているわ。
こうなると、白雪が心配ね。急いで戻りましょう、星芒」

地面で眠りこける村人達に、頭を下げると、走り出す苺に、星芒も続いた。

白雪の安否を気遣い、唐紅山《からくれない》に登る途中で、星芒が、口を開いた。単語ルビ

「最初から、僕らを、白雪から引き離すのが、目的だったのかな?」

「……いいえ。他にも、目的は、ある筈よ。やり方は、卑劣そのものね」

「時間稼ぎをして、白雪に、何かをするつもりだろうか。
僕、嫌な考えばかり、してしまうんだ」

険しい急斜面で、木の幹に足を止めると、星芒が、不安をあらわにした。

「そこで、言ってしまうのが、星芒の悪い癖よね。
言葉には、良くも悪くも、現実になる力があるの。
けれど、白雪は、負けないわ。私を助けてくれた時の様に、勇ましさを見せるわよ。
簡単に折れる花では無いのよ。立ち向かう強さを、白雪は、備えているわ。
ま、要するに、信じてやりなさいよ。私達は、白雪の仲間なんだからさ」

少し上の段で足を置いた、苺が、確信を持ったかの様に、言い放った。
どんな状況の中でも、苺は、白雪を、信頼している。
言葉に偽りは無く、むしろ、自信満々だ。

「根拠の無い言葉だよね。僕が心配したのは、白雪の弱味だよ。
無慈悲な誰かが、白雪を攻撃するのなら、絶対に許さないよ。
……これ以上、白雪の泣き顔は、見たく無いんだ。
僕は白雪を、幸せにしたいんだ。それが、僕の願いでもあるよ」

仲間以上の気持ちを持つ、星芒は、やけに凛々《りり》しい顔をしている。単語ルビ

白雪を守りたい。

二人の想いが重なると、足取りも、更に、速さを増して行った。
白雪の元へと、急ぐ。


一方、その頃、唐紅山のてっぺんまで、白い煙は充満《じゅうまん》していた。単語ルビ
山小屋から出てきた、白雪が、結界が揺らぐのを感じた。
結界を作った、燈麗《ひれい》が、誰かと、交戦している。単語ルビ

「華貴《かき》、雲行きが怪しいわ。単語ルビ
早く、唐紅山を降りましょう……か」

山小屋へと続く山道を、誰かが、上がって来る。
ぞわりと、白雪の背に、冷たいものが、走った。

雪色の腰まで伸びた、長い髪。
ルビーの瞳をした女性が、白雪の名を、呼んだ。

これは、幻影だ。

頭では理解しても、白雪の体は動き、女性に近付いた。

「……茜さん」

茜に瓜二つの女性が、優しく、にこりと、微笑《ほほえ》んだ。単語ルビ

しおりを挟む

処理中です...