火の国と雪の姫

さくらもっちん

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26 彼らの思惑

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暁十《あきと》村の神社近くの宿で、風見鶏《かざみどり》   三日月が、左手に、包帯を巻いた。
これは、唐紅山《からくれない》で、燈麗《ひれい》と、一戦交《まじ》えた時に、受けた傷だ。
香炉も燈麗の手で、壊された。

外は既に暗い。街灯に灯りが、ついている。

二階の宿の一室で、大人しくしていた三日月が、物音に、眉をひそめた。

バタバタ。ガチャン。

賑やかに、部屋に入ってきたのは、卯見《うさみ》 輝一《しょういち》だ。

「……華貴《かき》は、ほむらさんから、身柄を引き取りました。
彼との契約は、一旦、解消ですね」

華貴を、別の部屋に監禁し、輝一が、書類の山に、うんざりしている。
全て、始末書だ。

輝一の給料は、半年間、減棒となった。
奴隷の華貴を、一度、取り逃がした為だ。

「輝一は、白雪に会ったにだろう?
どんな感じだ?  やはり格別だろう」

任務を終え、華貴から興味が失せると、三日月が気になったのは、白雪の存在だった。

「どうもなにも、俺、完膚なきまで……打ちのめされてるし、体も、凍りましたよ。
何とか命拾いしました。幸い氷は、一日でとけたので」

白雪は、輝一に、手加減していた。
心臓までは凍らせず、ギリギリ生かしたのだ。

その後、輝一は、盛大に風邪を引いた。

白雪に対して、負い目がある為、輝一は、恨む気になれなかった。

「……正直、殺されても、仕方無かった。
俺は、茜の命を、奪っていますから。
俺を生かすのだから、白雪は、お人好し過ぎる」

白雪の悲しげな眼差しに、ゾクゾクした、輝一は、歪んだ感情を抱いていた。
もう一度、泣かせたい。
熱っぽい眼をした、輝一は、狂っている。

「輝一が、虜になるとは、ね。最愛の者を奪えたのだから、満足だろ?  鬼畜だな。
しかし、氷の術か。雪人《ゆきと》が、本当に、存在するとはね。
やはり一度、会って見る必要があるな」

重要な書類に眼を通すと、三日月が、携帯電話で、燈麗と、連絡を取っている。
心なしか、浮足立つ三日月を、輝一が、物珍しく見た。
三日月は、大概、電話の時は、不機嫌だ。
ご機嫌な時は、ごく稀《まれ》である。

「俺は、病院に行ってくるよ。
くれぐれも、華貴から、眼を離すなよ」

宿の一室を出る、三日月に、輝一が、形式的に、頭を下げた。

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