マルス王国物語

田中実

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エピローグ

1話 国の終わり

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 城に帝国の旗が掲げられた。2か月に渡る戦争の終了の合図は父と母が亡くなったという知らせでもあった。

 今から3ヶ月前、小国であるマルス王国に帝国から宣戦布告が告げられた。国王のルドルフは再三に渡り交渉を進めたが帝国の態度が変わる事はなかった。マルス王国は帝国とユーエン国の間にある。ユーエン国との戦争を有利する為、マルス王国は巻き込まれたのだ。

 何故、俺はここにいるのだろうか。マルス王国の首都ペルラから少し離れた村の宿屋にいる。ブルースとその部下たち、ゴアとメルに連れられたからであるがそう言う意味ではない。

 この国の終わりを一緒に迎えなかった自身に苛立ちを募らせていた。

 5日ほど前、ペルラを離れることになった。意固地になって動こうしない俺を父のルドルフは「想いを継ぐものがいなければ」と無理矢理に馬車に乗せた。兄弟のアルフとギルも違う馬車に乗ったそうだが生きているか分からない。

 窓から外を眺め考え込んでいるとルイゼは俺を抱きしめてくれた。歳が2つほど上とはいえ彼女の父も命を落としているというのに悲しみに暮れる俺を優しく包み込み、笑みを浮かべていた。

「今は泣いていいのですよ」

「……」

 俺は声が出なかった。怒り、後悔、自身の力の無さ。国民への謝罪。何か口にしなければと思っていたが今言ったところで虚しいだけだと身体が分かっていたのだろう。

 落ち着き、椅子に腰掛けるとメルがお茶を準備していた。彼女の出すお茶は俺の減った水分を補給するのと共に心を温かくしてくれた。

 少し経ってゴアが部屋に訪れる。

「この度は私どもが不甲斐ないばかりで申し訳ございません」

「ゴアはよくやってくれていた。長年の働きに報いれなくてすまない」

「いいのです。ルドルフ国王は私に良くして下さいました。必ず良き国をつくるとの約束が果たせられなくなったのが無念でありますが……」

「すまない……」

 ゴアはマルス王国の宰相を任されていた。ゴアの行った政策は派手では無かったが確実に国民の暮らしを良くしていた。

 なにより幼かった俺の遊び相手になって剣術を教えてくれた。物心がついてゴアが文官だと知ったときは驚いたが嫌な顔せずに付き合ってくれたゴアを俺はじぃじと慕っていた。流石に今はそう呼ぶことは無くなっている。

 国の終わりを見届けた。この後はどうする。

「帝国に行って見たいと思います」

 俺は唐突に口に出した。

「ルーウェン様、そればかりはお辞め下さい」

 ゴアはすかさず止めに入る。

「ラシオは失われた。俺はこの目で帝国を見て知りたい。今まで外に出たことのなかった。それでいいと思っていたが違った。帝国の強さの理由が知りたい」

「どうしても行かれるのですね」

「どうしてでもだ」

 俺は言い出したら止まらない。ゴアもそれを理解している。

「わかりました。お止めしません」

 ゴアは悲しそうだった。なにも危険と言う理由だけでない。国を奪った憎き帝国に孫の様に可愛いがっていたルーウェンが行くことは許せなかったのだろう。

「無事を祈ります」

 そう告げるとゴアは部屋から出て行った。


 翌朝、荷支度を済ませ帝国に向かうことになった。ルイゼも「私も着いていく」と懇願したようだがブルースとゴアに猛反対されたらしく今は大人しくしている。俺はブルースたちと挨拶を済ませる。

「ルーウェン様、必ず会いに行きます」

「ルイゼありがとう。また会おう」

 寂しそうに見つめるルイゼを後ろに俺はメルと帝国に出発した。
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