マルス王国物語

田中実

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第1章 士官学校編

3話 入学試験

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 ルーウェンは入学試験を受けるため帝都ベルツブルクに来ていた。士官学校の校門には1000人以上の人が集まり試験開始を今かと待っている。

「すごい人ですね。年もばらばらであちらの方なんて50越えてるんじゃない?」

「誰でも受けれるのか」

「こうして私たちでも受けれるからいいことだわ」

  士官学校の入学は一般の兵士募集とわけが違う。卒業出来れば尉官になり出世は約束される。貰える給料が高いことよりも平民からの一発逆転や貴族のステータス、また使い捨てにされることが少ないので希望者が多い。

 今年は帝国の王子の入学もあり貴族は王子とのパイプ役を期待して子どもを送り込んでいる。

 入学試験は全生徒が必須となっており王子でも試験を受けずに入学出来ない。といっても幼い頃から教育を受けているはずなので落ちる訳がない。ルーウェンとメルも流石に上位とはいかないが同じである。

 時間になり門が開いた。早い順で試験が締め切られはずはないが競って進んでいる。人生が掛かっているので焦る気持ちも分からなくない。

「あ、すみません」

 ルーウェンが落ち着くのを待っていると1人の少女とぶつかった。後方に押されルーウェンにぶつかってしまったようだ。

「こちらこそすみません。お怪我は……」

 ルーウェンはそう言って少女に手を差し出す。少女は照れながら手を取り立ち上がった。

「大丈夫です。イリアです」

「ルーウェンです。合格出来るといいですね」

 小柄な少女だった。真珠のような白髪で年は12くらい。身なりがしっかりしているので貴族の娘さんだろか。このくらいの子でも……大変だな。

「ふーん、ルー様も隅におけないわね」

 心配そうにじぃっと見つめていたルーウェンをメルはからかった。

「別に見惚れていた訳じゃないよ」

 慌てて弁明した。

「ありがとうございます。またお会い出来るといいですね」

 イリアはぺこっとお辞儀して校内に向かって行った。

 試験は予想していた通り難しくなかった。幼い頃からメルと勉強してきたものばかりなので2人とも大丈夫だろう。あとは実技だけ。

 実技会場に着くとルーウェンはすぐに呼ばれた。相手はどこかの貴族のようで数名に囲まれ応援されていた。

「ハール様頑張って下さい」

「心配ないさ。軽く相手をしてくる」

 どうやら軽く相手をしてくれるらしい。勝ったら合格という訳ではないのでお手柔らかに頼むとルーウェンは思っていた。

「始めっ!」

 試験官が開始を合図するとハールはルーウェンに向かって剣を振り下ろした。ルーウェンも負けまいと剣で受け止める。剣を押し出しルーウェンは切りかかろうとしたがハールはそこには居なかった。流石はハールサマ、動きが俊敏であらせられる。

 ルーウェンは剣術に自信がない。稽古で1度も勝った試しがなく、5年前家にきた商家の娘にもあっさり負けた。それでも稽古は怠らなかったが16になった今でもメルに一太刀も入れられていない。

「そこまで!」

 試合は終わっていた。ハールは押された勢いで頭を打ち倒れていた。

「あれっ?」

 勝ってしまった。今日はルーウェンにとって記念すべきになった。

「ハールサマありがとう」

 小声でルーウェンは呟いた。心配そうに見守っていたメルに笑みを向けるとぎゅっと抱きつかれた。

 今度はメルの番。相手は……帝国の王子だ。

「頑張れ」

「ルー様、見てて下さいね」

 待っている間に他の試合を見てルーウェンの認識が間違いることに気付く。

 ルーウェンが弱いのではなくメルが強過ぎた。あの細い腕と淡麗な顔に騙されていたのだ。きっと商家の娘と言うのは聞き間違い。戻ってきたら問いただそうとルーウェンは決意した。

 王子との試合は激しい応酬の末にメルが勝った。自分が物語の主人公ならメルみたいに帝国の王子に勝って無双する展開になるのにと考えていた。

「どうでした?」

「相変わらず強いな。商家の娘って聞いていたけど本当は違うんじゃないか?」

「失礼ですね。商家の娘ですよ。ただ剣術ばかり上達する私に両親が先を嘆いて送り出されたのよ。ルー様の護衛役にぴったりでしょ」

 なるほど、メルが常に側にいたのはそういう理由があったのか。ルーウェンは少しガッカリしていた。

「そんな顔しないで下さい。こうなった今でも一緒にいるのだからそれだけの関係じゃないってわかるでしょ」

 後日、一部の生徒がメルをプリンスキラー(王子殺し)と呼んでいるのを耳にした。元とはいえ王子だったルーウェンは物騒な異名だなと苦笑いした。
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