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第一部
最悪の出会い 2
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「戸川さん、お願いがあるの!」
同じクラスというだけで、顔以外のことはよくわからない。 見上げて来るその女の子の綺麗な栗色の巻き髪が、くるんと揺れる。
「これから他大の人とのパーティーがあるんだけど、一人来られなくなった子がいて。それで、どうしても誰かもう一人誘ってほしいって頼まれたの。戸川さん、一緒に行ってくれない?」
日常で関わることのない単語に頭がついて行かない。 そもそも、彼女とは友人ですらない。
「ちょっと待って。なんで、私? そういうの、行ったこともないし、それに私これから予定あるから」
そんなものに関わりたくなくて、咄嗟に嘘をついた。 本当は、この日アルバイトはない。
「そこをなんとか、お願い! ソウスケさんの手前、絶対に誰かを連れて来いって言われてて。お願い、私を助けると思って」
自分とは別世界に生きている女の子が頭まで下げている。 その『ソウスケさん』とやらは、一体何者なのだろう。黙っていると、彼女は顔を上げて私の手を握りしめて来た。
「ほんの一時間、いや、三十分でもいい。嫌になったらすぐに帰っても大丈夫だし。誰も連れて行けなかったら、私、怒られちゃう……」
彼女の目が潤みだしたのに気付いて驚く。本当はアルバイトはないのだから、時間を作れないわけでもない。目の前の彼女を見ながら、大きく息を吐いた。
「あの……。それって、お金かかる?」
「お金? ああ、そんなこと? それなら心配しないで!」
いきなりお金の話なんかを持ち出されて面喰っているのが、ありありと分かる。彼女たちにとっては"そんなこと"でも、こっちにとっては大問題だ。
「それに私、こんな格好だけどいいの?」
上から下まで、どれをとっても三千円以上する服はない。下はジーンズ、上は白いカットソーにグレーのカーディガンを羽織った、普段着以外のなにものでもない服装だ。
「平気だよ。パーティーって言ってもカジュアルなものだから」
「……本当に、顔を出すだけでいいなら――」
「ありがとう! この恩は絶対に忘れないから!」
濡れていた目はあっという間に乾いたみたいで、心の底から嬉しそうに微笑んでいた。
そして――。
自分のお人好しぶりに後悔するのは、パーティー会場に行ってからすぐのことだった。
同じクラスというだけで、顔以外のことはよくわからない。 見上げて来るその女の子の綺麗な栗色の巻き髪が、くるんと揺れる。
「これから他大の人とのパーティーがあるんだけど、一人来られなくなった子がいて。それで、どうしても誰かもう一人誘ってほしいって頼まれたの。戸川さん、一緒に行ってくれない?」
日常で関わることのない単語に頭がついて行かない。 そもそも、彼女とは友人ですらない。
「ちょっと待って。なんで、私? そういうの、行ったこともないし、それに私これから予定あるから」
そんなものに関わりたくなくて、咄嗟に嘘をついた。 本当は、この日アルバイトはない。
「そこをなんとか、お願い! ソウスケさんの手前、絶対に誰かを連れて来いって言われてて。お願い、私を助けると思って」
自分とは別世界に生きている女の子が頭まで下げている。 その『ソウスケさん』とやらは、一体何者なのだろう。黙っていると、彼女は顔を上げて私の手を握りしめて来た。
「ほんの一時間、いや、三十分でもいい。嫌になったらすぐに帰っても大丈夫だし。誰も連れて行けなかったら、私、怒られちゃう……」
彼女の目が潤みだしたのに気付いて驚く。本当はアルバイトはないのだから、時間を作れないわけでもない。目の前の彼女を見ながら、大きく息を吐いた。
「あの……。それって、お金かかる?」
「お金? ああ、そんなこと? それなら心配しないで!」
いきなりお金の話なんかを持ち出されて面喰っているのが、ありありと分かる。彼女たちにとっては"そんなこと"でも、こっちにとっては大問題だ。
「それに私、こんな格好だけどいいの?」
上から下まで、どれをとっても三千円以上する服はない。下はジーンズ、上は白いカットソーにグレーのカーディガンを羽織った、普段着以外のなにものでもない服装だ。
「平気だよ。パーティーって言ってもカジュアルなものだから」
「……本当に、顔を出すだけでいいなら――」
「ありがとう! この恩は絶対に忘れないから!」
濡れていた目はあっという間に乾いたみたいで、心の底から嬉しそうに微笑んでいた。
そして――。
自分のお人好しぶりに後悔するのは、パーティー会場に行ってからすぐのことだった。
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