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《番外編 新しい常務がやって来た!!》
1.広報室広報誌係 広岡広史の場合 ⑲
しおりを挟む「広岡君。いい社内報、出来そうだね!」
隣を歩く三井が満面の笑みで俺を見る。
「――誰かさんのおかげでな」
それを横目でちらりと見て、俺は前に視線を戻した。
「もう、最高。この写真も、これもこれも……。これ全部、アルバムにして私のコレクションにしよう!」
この日撮った写真を一枚一枚見ながらぶつぶつ言っている。
「一体、何枚撮ったんだよ」
「ん? 10枚くらい? あ――、これ、いいわ。ちょっと、女性誌に売り込もうかな」
「は?」
「私が毎月読んでいるファッション誌に、『私のイケてるボス』っていうコーナーがあるんだけど。それ、毎月一人、女性社員の推薦でいろんな企業の上司が取り上げられてるのよ。これまで見て来た誰よりも、絶対榊常務の方がカッコいい! 私、応募しちゃおうかな……」
三井が一人考え始めている。
もう終わったかと思われた三井の暴走は、まだ終わっていないらしい。
「お、おい。そんなこと勝手にするなよ?」
「もちろんだよ。当然常務サイドの許可は取るよ? でも、丸菱テクノロジーの知名度も上がるし広告効果もある。悪くないと思うけど。よし。室長に企画書あげようっと!」
何を一人納得したのか、胸を張って歩き出した。
常務、お気の毒様です。
そして、神原さん。申し訳ございません――。
* * *
広報誌、年末特大号が、発行された。
「広岡君! すごい反響だよ! これ、重版いくよ!」
「バカか。社内広報誌に重版があるかよ」
「女子社員が、閲覧用と保存用とで2部欲しいって言うんだもん!」
確かに、社内の評判はすこぶるいい。
ここ数日の社内の話題は、広報誌、つきつめれば榊常務の話題で持ちきりだ。
一般社員にとっては、ベールに包まれていた雲の上のお方。
その人の、あんなにも率直な(プライベートにまみれた)インタビューが掲載されたのだ。
誰もが興味を引くだろう。
『妻が趣味』
あの言葉のインパクトは相当だったみたいだ。
女子社員たちが、昼の食堂で、給湯室で、盛り上がっているらしい。
俺は俺なりに、達成感を得ていた。
広報誌の作成に達成感なんてものを感じたのは初めてだ。
そして、常務の人柄に触れられたのも、嬉しかったのかもしれない。
つい、この顔が緩む。
「ねぇ――。私、いいこと考えてるんだけど」
「おまえのいいことは、だいたいとんでもないことだよ」
三井が俺の耳に顔を近付けて来る。
「打ち上げ、しない? 広報誌の作成打ち上げ!」
「打ち上げ? まあ、やればいいんじゃないのか? ああ、でも。どうせそろそろ広報室の忘年会があるだろ」
「違うって。広報誌係と常務とで」
「な、なにっ!」
俺は、思い切り三井の方に振り向いてしまった。
「おまえ、そんなこと神原さんが許すはずがないだろ」
「そこは、大丈夫。もう、根回しは始めてる。私たちだけじゃ、神原さんも動かないだろうと思ったから、もう一グループ巻き込んだ」
「もう一グループ……?」
俺は怪訝な目を三井に向ける。
「そう。ほら、先月、榊常務の指示で、新しい市場を開拓して大きな契約を決めたっていうじゃない? その時のプロジェクトチームだよ。彼らにも提案してみたら、のってきたの。みんな、常務とお近づきになりたいんだよ。仕事の話じゃなくて、打ち解けた雰囲気でいろいろ話してみたいんじゃない? だから、プロジェクトチームと私とで、神原さんのところにおうかがいに行って来たわけ」
「おまえの行動力が、俺は怖いよ……」
「えへ」
三井がまた気持ち悪い笑顔を見せる。
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