雪降る夜はあなたに会いたい【本編・番外編完結】

文字の大きさ
175 / 196
《番外編 新しい常務がやって来た!!》

1.広報室広報誌係 広岡広史の場合 ⑱

しおりを挟む


「常務、本当にありがとうございました!」


三井が、さっきの号泣は嘘のようにすっかりおおはしゃぎである。


「すみません! 本当の本当に最後のお願いなのですが――」


まだあるのかよ――っ!


「えっ?」


今、同じようにぎょっとして声を漏らす神原さんを見逃さなかった。


「なんだ?」

「あ、あの……、スマホの待ち受け、奥様にしていたり、しませんか……?」

「え……?」


三井、相変わらずチャレンジャーだな!


本当に呆れるほどに感心する。

その貪欲さはどこからくる!


と思いつつ、俺も、実は、もし奥様の写真があるのなら、見てみたい……。


「待ち受け、にはしていない」


榊常務が三井に背を向けて、口籠るようにそう答えた。


「公の場で使うことも多い。さすがに、人目に触れるところにはしない」

「じゃ、じゃあ、スマホの中には保存されていたりしませんか?!」


榊常務の背中に向かって声を発する。
引き下がらない三井。
俺は、その攻防を固唾を飲んで見守る。


「それは――」

「三井さん。常務もお忙しい身ですから、いい加減にしてください。奥様なら、私、お会いしたことあります。本当に可愛らしい、素敵な方です。これでよろしいですか?」


そこに神原さんまで加わり、三井もなかなかに厳しい状況だろう。


「可愛らしい? 美人系ではなく可愛い系ということですね? 意外です! 女子社員の妄―想像では榊常務の奥様はきりりとしたクールビューティーな感じだという意見が大勢で。見てみたいです。余計に、見たくなりました!」


神原さん――。三井を余計に煽ってどうするんですか。


「み、三井さんっ!」

「――写真は、もちろん、ある」

「「えっ!」」


神原さんと三井さんがハモる。
ニュアンスの違いは明らかだが。

三井は歓喜の目。
神原さんは驚きの目。


「み、見たいです! もちろん、常務のお気持ち次第ですが……」


少し、申し訳なさそうな目をして、榊常務を覗き込むように見上げている。


「まあ、写真くらい、問題ないか……」

「はい! 問題ありませんっ!」


常務……。三井にサービスし過ぎです。でも、俺もちゃっかり三井の後ろから覗き込む。


「うわーっ! 可愛い! それに、なんというか、すごくすごくお優しそうな方ですね。はにかんだ笑顔が、胸がきゅんと締め付けられます」


三井が騒いで、興奮して、足踏みしている。


こ、これは――。


俺は、スマホ画面に映る微笑みを見て、胸を撃ち抜かれた。


超、ドストライクなんですけど――!


その写真は、おそらく。
キッチンで料理中の奥様に常務が呼びかけて、その振り向きざまを撮ったものと思われる。

振り返った、奥様の素の表情。
その素の表情が、驚きながらも本当に嬉しそうで。
弓なりになる瞳が、はにかんだようで、男の庇護欲をかき立てる儚さも漂って。

特別美人ということはない。
目を引く分かりやすい可愛さでもない。どちらかと言えば地味な顔立ち。なのに――。

でも、非常に心癒される雰囲気。


この人が、榊常務が溺愛してやまない女性なのか――。


ついつい見てしまう。


「もしかして、これ、常務の一番のお気に入りですか?」

「――もう、気が済んだな。これ以上見せたら減りそうだ」


三井の問いかけに、常務は咳ばらいをして、すぐさまスマホをポケットにしまった。


「――今回のインタビューで、常務と奥様のお話が、私たち職員が想像していたより遥かに愛にあふれたものだと知ることが出来て、本当によかったです」


急に三井がしみじみと呟く。


「もう、感動です」

「ほら、三井、もう失礼するぞ」


さすがに長居し過ぎた。
おそるおそる神原さんをちらりと見ると、呆れたのか諦めたのか、もう無言のまま立っている。


「はい。では、本日は大変お世話になりました!」


広報室の面々皆でお礼をして、常務室を後にした。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

永久就職しませんか?

氷室龍
恋愛
出会いは五年前。 オープンキャンパスに参加していた女子高生に心奪われた伊達輝臣。 二度と会う事はないだろうと思っていたその少女と半年後に偶然の再会を果たす。 更に二か月後、三度目の再会を果たし、その少女に運命を感じてしまった。 伊達は身近な存在となったその少女・結城薫に手を出すこともできず、悶々とする日々を過ごす。 月日は流れ、四年生となった彼女は就職が決まらず焦っていた。 伊達はその焦りに漬け込み提案した。 「俺のところに永久就職しないか?」 伊達のその言葉に薫の心は揺れ動く。 何故なら、薫も初めて会った時から伊達に好意を寄せていたから…。 二人の思い辿り着く先にあるのは永遠の楽園か? それとも煉獄の炎か? 一回りも年下の教え子に心奪われた准教授とその彼に心も体も奪われ快楽を植え付けられていく女子大生のお話

処理中です...