雪降る夜はあなたに会いたい【本編・番外編完結】

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《番外編 新しい常務がやって来た!!》

2.広報室広報係 三井えみりの場合 ②

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「そんな風に偉そうに答えられても。相手は、丸菱の御曹司で既婚者。そんな人に熱をあげるっていうのは、あまりオススメしないけど?」


倉っちが、B定食の茄子とトマトのスパゲッティーをフォークに絡ませていた。


「ばかっ! 榊常務をそんな目で見ているわけがないでしょうが! 尊敬する人であり憧れる人。たとえれば、テレビの中の好きな俳優さん、みたいなものだよ。現実で自分と結び付けたりするわけないじゃん。あ、でも、理想のタイプにはなったな。間違いなく」


うんうん。と腕を組んで一人納得する。


「それもそれで、相当に危険な思想だよ? あんな人、世の中にごろごろ転がってたら、適齢期の女子は誰も苦労しないのよ。金持ってて? 男らしくて? 仕事できて? 将来約束されていて? おまけに妻を溺愛? そんな人に出会って、それも自分を選んでくれるなんて、宝くじにあたるより難しいわ」


倉っちが鼻で笑う。


「もー。倉っちはいつも夢がないんだから。そんな現実的なことばかり言ってたら、人生楽しくないよ」

「あんたみたいに、夢みたいなことばかり考えている方が、あとで取り返しのつかないことになると思うけど? 現に――」


ちらりと横目で私を見た。


「あんたはフリーで、私は彼氏持ち。これが何よりの証拠よ!」

「むかーっ。それは言いっこなしだよ。私だって、私だって、榊常務の奥様みたいに、誰かに溺愛される予定なんだから――」

「それにしても、あのインタビューは女子社員全員の心を奪ったよね。それだけは認める。私だって、あの広報誌を読んだ後、3日くらい自分の彼が霞んで見えたもん」

「んー」


二人して、同時に溜息を吐く。


どうして、身近にはいないのに、確実に存在はするのだ?


とにかく。

私は、大学四年生の時目にした『週刊経済』に出ていた榊常務の姿を見た時から、密かに憧れていたのだ。


丸菱テクノロジーに就職することが決まっていた大学4年の12月。

同じ系列の丸菱グループの人が掲載されているとあって、興味本位で見てみたのがきっかけで。
それで目にした榊常務の写真と、インタビュー記事に、心奪われたのだ。


それから時が経ち、まさか私の勤めている会社にやって来るなんて。

心の中が狂喜乱舞だったのは、おわかりでしょう?


「榊常務、『liberty』っていうファッション誌に掲載されるかもしれないから。今、私、頑張ってるとこ! 広報マンとして、これは絶対イケるという確信があるんだもん。楽しみにしていて」

「本当に? あんたも頑張るねー。確かに、あの醸し出す雰囲気は圧倒的だし、かなりのイメージアップになるかも。頑張れー!」

「うん!」


今現在、室長はかなり乗り気だ。
それで今、秘書の神原さんにそのボールを投げている途中。

絶対いい返事をもらうべく、猛プッシュしているところだ


そして、もう一つ――。

私が精力的に動いている一件。

題して、

『榊常務と奥様を囲んで』

裏題、

”常務と奥様を呼んで飲み会しちゃおうぜ presented by 三井”

である。

先月、常務と海外出張に行っていた営業二課の人を引き込んで鋭意計画中である。

今日も、この後、密に連絡を取る予定だ。

そうそう、広岡君のことを忘れていた。彼も、最近仲間に引き入れた。
いつも覇気がない彼が、無表情な顔をしながら心の奥底で榊常務の奥様に会いたいなんてことを思っているということは、気付いている。

そこを、上手く利用させていただいた。
だって、『打ち上げ』なんて、本来なら私が音頭を取る立場にないのだから。
私はただの手伝いで潜り込んだだけだ。
あくまで、広報誌の作成は広報誌係のもの。
だから、広岡君は絶対に必要な人材だったのだ。

私、こう見えて策士でもある。
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