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《番外編 新しい常務がやって来た!!》
2.広報室広報係 三井えみりの場合 11
しおりを挟む「あのあのあの、もし、常務が、奥様のお仕事の上司だったら、どうなっちゃうと思いますか?」
さらに私も質問を続ける。
今なら、絶対に答えてもらえる気がする!
「えぇっ! 創介さんが、私の上司――」
驚きながらも、奥様は考え込む。
酔っているからこそ、真剣に考えてくれている――!
「雪野、そんなことまともに考えなくていい――」
広岡対策で忙しいはずの常務が、すかさず奥様にも気を配る。
「創介さんが上司だったら、いくつ心臓があっても足りないです」
「それって、どういう意味ですか~!」
常務以外、大盛り上がりである。
「一緒に暮らしているだけで、ドキドキなんです。職場にまでいたら、もう、私、仕事に支障を来します」
そう言って手のひらで頬を押さえていた。
「ドキドキするんですね? 結婚しても、ドキドキしちゃうんですねーっ!」
垣間見たい。新婚生活、垣間見たい。いや、でも、あまりに甘すぎたら。甘いを通り過ぎて、激しすぎたら――きゃっ。
「おい、なんでおまえが顔赤くしてんだよ」
常務に怒られていた広岡君が八つ当たりのように私に言う。
「いやいや。ちょっと、いろいろ妄想しちゃって。ウフフ」
「絶対に、榊常務は肉食系だと思われます。今時の、草食系だなんて言ってそれがかっこいいと勘違いしているもやし男子たちに見習わせたい。男なら、覚悟決めて向かって来なさいと言いたい」
神原さんが、そう言って溜息を吐く。
そんな神原さんを見て、常務が溜息を吐く。
その後、神原さんが席を外したすきに、奥様の隣へとちゃっかり座った。
「あの、ぜひ、奥様にお渡ししたいなって思っている物があって」
「広報誌以外にもですか?」
「はい!」
私は、榊常務写真集をもう一つ作ったのだ。それは、奥様のため。
「アルバム……?」
「はい。インタビューの時に撮った写真です。全部を広報誌に使えたわけじゃないので。でも、奥様も、お仕事されている時の常務を見てみたいかなって思って」
「わぁ……ありがとうございます」
奥様が嬉しそうに笑う。
「これとか、奥様のお話をされている時ですよ? 本当に、仕事の時とは違う柔らかな表情で。我ながらいい写真かと」
「なんだか、そう言われると恥ずかしいけど、でも、凄く嬉しい。ありがとうございます。大事にします」
奥様が深々と私に頭を下げる。
「奥様、や、やめてください。私が勝手に作って来たんですから!」
「いえ。職場での創介さんを見ることは、滅多にないから。そのお心遣いが本当に嬉しくて。それもこれも、皆さんが主人のことを慕ってくださっているからですよね。それが本当に嬉しいんです。ありがとうございます」
常務に迷惑をかけてしまいそうなことは躊躇い、
自分の思いなら躊躇うことなく口にする――。
私はそんな奥様の人柄にじんとした。
本当に、素敵な人だ。
仕事には恐ろしいほどに冷静で厳しいと言われる常務が、必死になったり焦ったりしてしまうほど惚れるのも分かる気がした。
「このアルバム、一生の宝物にします」
「奥様……」
感動に浸りながらも、聞きたいことは忘れない。
「私にだけ、こっそり教えてください」
「何、ですか?」
奥様の耳元に唇を寄せる。
「常務って、やっぱり、Sですよね?」
「えっ!」
私をまじまじと見つめる。
そして、ぱっとまた赤くなる。
「――S、なのかもしれません」
小声でそっと教えてくれる。
はい、みなさん。榊常務はドSです。
完全にみんな上機嫌。
ただの酔っ払い集団になっていた。
一人を除いて(笑)
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