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日常
第七百三話 ズッキーニとベーコンのスパゲティ
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面白いレースを見届けた後、公園を出た。
「めっちゃ面白かったなー。はー、笑った笑った」
「腹筋が痛い」
「なー」
学校でやりたいなあ、と咲良は言う。学校であんなことやったら……そりゃあ、盛り上がるだろうなあ。体育祭でやるんなら、ちょっとは楽しめそうだ。
「さて、帰るかあ」
「だな」
帰り道、テニスコートの横を通りかかる。今日もやってるなあ。へえ、意外と老若男女、いろいろなんだ。
「そういや、山崎だっけ? ここでテニスやってんの」
「あーそうそう、いるかもな」
「探すか!」
えー、この大勢の中から? 見つかるかなあ……
じっとしてるわけでもなし、むしろあっちこっち動いてるから余計に分からなくなる。もういいんじゃかなかろうか。
「もう分かんねーよ」
「待って、もうちょっと。近くに行ってみようぜ」
「えー?」
「ほら、せっかくだし」
確かにギャラリーは多いから、紛れこむことはできるだろうが……保護者っぽい人たちもいるんだな。
「あれ、そろそろ終わりなのか」
残念そうに咲良が言う。ああ、だから保護者がいるのか。お迎え、ってやつだな。
「じゃあ、出待ちだ」
「出待ち……」
コートにいた人たちがぞろぞろと出てくる。そもそもいるかどうかも分かんねぇのに、何やってんだろうなあ、俺。
「あれぇ、なんか見覚えある人がいる~」
おや、この声は。
「山崎! 来たぞ!」
「本当に会えるとは……」
「一条と井上じゃーん。なになに、今日は終わりだよ?」
大判のタオルで汗を拭きながら、山崎はにこにこと笑ってやってくる。テニスウェア姿でラケット持って……なんか、様になるなあ。
「科学館に来ててな」
「あー、なるほど。一条ならそれっぽいわ」
「なんだよそれ」
「井上は意外~」
「んだよ~、俺は理系クラスだぜ~? 俺こそ、科学館が似合う男だろうよ」
と、咲良は目元に手をやると、くいっと上に動かす。あ、これ、眼鏡を上げる真似か? 山崎は「え、ウケる~」と言いながらスマホを取り出した。
「俺、この後塾なんだよねぇ。話したいのは山々なんだけど、シャワー浴びたいし、また明日学校でね」
「おう、大変だな。頑張れよ」
「ありがと~」
じゃーね、と山崎はひらひらと手を振って帰って行った。
それから俺たちも帰路についた。家に帰りつくと、玄関先に何やら袋が下がっていた。
「なんだこれ」
緑色のものが山ほど入っているのが見える。これは……ズッキーニ? あ、なんかメモが入ってる。
「山下さんか」
なになに……『バイト先でもらい過ぎたので、よかったらどうぞ』か。なんと贅沢な貰い物だろうか。
「ただいまー」
「おかえり……あら、なあに。買い物してきたの?」
「いや、それが……」
事情を話すと、母さんは嬉しそうに笑った。
「これはお礼をしないとねぇ」
「バイト先……いったい、どんなバイトをしているんだ?」
父さんの問いには首をかしげておく。山下さん、基本は本屋のバイトだけど、いろいろやってんだよなあ。
「ちょうど晩ごはん何にしようかって思ってたから、ちょうどよかった」
母さんはさっそく、台所に向かった。
「ベーコンもあるし、スパゲティにしようか」
「いいね」
ズッキーニとベーコンのスパゲティ。大好きだ。
白だしベースのスープに、ズッキーニとベーコンが魅力的に輝く。もう、これだけでうまいと分かる。
「早く食べたい」
「今作るから、待ってて」
別に茹でたスパゲティを皿に盛り、スープをかける。ああ、これこれ、うまそう。ああ、やっとこのスパゲティが食べられる季節になったんだなあ。
「いただきます」
最初はそうだなあ……何にしよう。ズッキーニだけ、食べてみよう。
出汁をしっかり吸ったズッキーニ。ズッキーニ本来の風味は控えめで、ジュワッと出汁があふれ出す。少し噛み応えがあるけど、とろりとしていて……そうそう、これ、うまいなあ。
ベーコンは焼いたのとまた違う食感だ。プリッと、ジュワッと。
そんじゃ、麺も一緒に食べてみようかな。
ズッキーニとベーコンを軸に、クルクルと巻くと、うまくいく。それに、いっぺんに食べられていいんだ。
ん~、このジュワッとしたうま味。たまんないなあ。ズッキーニの程よい皮部分の噛み応え、とろとろした食感、あふれ出すうま味。ほんの少し紛れる一味がピリッと辛くてうまい。ベーコンは塩気が控えめで、麺はつるっと口当たりがいい。
この三つの素材が合わさると、どうしてこう……うまいんだろう。ご飯にかけても絶対うまい。でも、やっぱスパゲティ、好きだ。
ズッキーニはいっぱいあることだし、また作ってもらおう。毎日でも食べたいくらいだ。
もちろん、スープは余すことなく飲み干す。うんうん、このうま味がギューッと凝縮したような感じ。いい。
ああ、また嬉しい季節がやって来たなあ。
ま、俺にとっちゃ、毎日が何かの旬だからな。毎日楽しい、嬉しい。
なんて幸せなんだろう。
「ごちそうさまでした」
「めっちゃ面白かったなー。はー、笑った笑った」
「腹筋が痛い」
「なー」
学校でやりたいなあ、と咲良は言う。学校であんなことやったら……そりゃあ、盛り上がるだろうなあ。体育祭でやるんなら、ちょっとは楽しめそうだ。
「さて、帰るかあ」
「だな」
帰り道、テニスコートの横を通りかかる。今日もやってるなあ。へえ、意外と老若男女、いろいろなんだ。
「そういや、山崎だっけ? ここでテニスやってんの」
「あーそうそう、いるかもな」
「探すか!」
えー、この大勢の中から? 見つかるかなあ……
じっとしてるわけでもなし、むしろあっちこっち動いてるから余計に分からなくなる。もういいんじゃかなかろうか。
「もう分かんねーよ」
「待って、もうちょっと。近くに行ってみようぜ」
「えー?」
「ほら、せっかくだし」
確かにギャラリーは多いから、紛れこむことはできるだろうが……保護者っぽい人たちもいるんだな。
「あれ、そろそろ終わりなのか」
残念そうに咲良が言う。ああ、だから保護者がいるのか。お迎え、ってやつだな。
「じゃあ、出待ちだ」
「出待ち……」
コートにいた人たちがぞろぞろと出てくる。そもそもいるかどうかも分かんねぇのに、何やってんだろうなあ、俺。
「あれぇ、なんか見覚えある人がいる~」
おや、この声は。
「山崎! 来たぞ!」
「本当に会えるとは……」
「一条と井上じゃーん。なになに、今日は終わりだよ?」
大判のタオルで汗を拭きながら、山崎はにこにこと笑ってやってくる。テニスウェア姿でラケット持って……なんか、様になるなあ。
「科学館に来ててな」
「あー、なるほど。一条ならそれっぽいわ」
「なんだよそれ」
「井上は意外~」
「んだよ~、俺は理系クラスだぜ~? 俺こそ、科学館が似合う男だろうよ」
と、咲良は目元に手をやると、くいっと上に動かす。あ、これ、眼鏡を上げる真似か? 山崎は「え、ウケる~」と言いながらスマホを取り出した。
「俺、この後塾なんだよねぇ。話したいのは山々なんだけど、シャワー浴びたいし、また明日学校でね」
「おう、大変だな。頑張れよ」
「ありがと~」
じゃーね、と山崎はひらひらと手を振って帰って行った。
それから俺たちも帰路についた。家に帰りつくと、玄関先に何やら袋が下がっていた。
「なんだこれ」
緑色のものが山ほど入っているのが見える。これは……ズッキーニ? あ、なんかメモが入ってる。
「山下さんか」
なになに……『バイト先でもらい過ぎたので、よかったらどうぞ』か。なんと贅沢な貰い物だろうか。
「ただいまー」
「おかえり……あら、なあに。買い物してきたの?」
「いや、それが……」
事情を話すと、母さんは嬉しそうに笑った。
「これはお礼をしないとねぇ」
「バイト先……いったい、どんなバイトをしているんだ?」
父さんの問いには首をかしげておく。山下さん、基本は本屋のバイトだけど、いろいろやってんだよなあ。
「ちょうど晩ごはん何にしようかって思ってたから、ちょうどよかった」
母さんはさっそく、台所に向かった。
「ベーコンもあるし、スパゲティにしようか」
「いいね」
ズッキーニとベーコンのスパゲティ。大好きだ。
白だしベースのスープに、ズッキーニとベーコンが魅力的に輝く。もう、これだけでうまいと分かる。
「早く食べたい」
「今作るから、待ってて」
別に茹でたスパゲティを皿に盛り、スープをかける。ああ、これこれ、うまそう。ああ、やっとこのスパゲティが食べられる季節になったんだなあ。
「いただきます」
最初はそうだなあ……何にしよう。ズッキーニだけ、食べてみよう。
出汁をしっかり吸ったズッキーニ。ズッキーニ本来の風味は控えめで、ジュワッと出汁があふれ出す。少し噛み応えがあるけど、とろりとしていて……そうそう、これ、うまいなあ。
ベーコンは焼いたのとまた違う食感だ。プリッと、ジュワッと。
そんじゃ、麺も一緒に食べてみようかな。
ズッキーニとベーコンを軸に、クルクルと巻くと、うまくいく。それに、いっぺんに食べられていいんだ。
ん~、このジュワッとしたうま味。たまんないなあ。ズッキーニの程よい皮部分の噛み応え、とろとろした食感、あふれ出すうま味。ほんの少し紛れる一味がピリッと辛くてうまい。ベーコンは塩気が控えめで、麺はつるっと口当たりがいい。
この三つの素材が合わさると、どうしてこう……うまいんだろう。ご飯にかけても絶対うまい。でも、やっぱスパゲティ、好きだ。
ズッキーニはいっぱいあることだし、また作ってもらおう。毎日でも食べたいくらいだ。
もちろん、スープは余すことなく飲み干す。うんうん、このうま味がギューッと凝縮したような感じ。いい。
ああ、また嬉しい季節がやって来たなあ。
ま、俺にとっちゃ、毎日が何かの旬だからな。毎日楽しい、嬉しい。
なんて幸せなんだろう。
「ごちそうさまでした」
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