その傘をはずして

みたらし

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第一章

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 僕の通う高校は最近まで女子高だったが、生徒数が減少傾向にあった為、僕が中三の時男女共学になった。自宅から一駅という交通の利便性に惹かれ、何の考えもなしに同高を受験した。それが悪夢の始まりだった。

 入学してクラスに入った時、まず男女比率に驚かされた。クラス四十人に対し、男子五人。学年の男子を総計しても三十人にも満たないという状況に、いきなり暗雲が立ち込めた。男女共学になったのだから、女子目当てで入学してくる男子がかなりいるだろうという甘い目論見は打ち砕かれた。

 一度入学したからには、きちんと勉学に励まなければならない。波風を起こさずに、べた凪のような三年間を過ごすには仲間が必要だった。

 それは他の四人も同じだったようで、僕らはすぐに打ち解けた。特に僕の一つ前の出席番号の高木尊は、僕ら男子だけではなく女子とも仲が良好で、女子に用がある時はよく彼を介していた。

 月日が経つにつれ、僕らの中でも見えない上下関係のようなものが生まれ始めた。

 初めは尊の頼みで売店に飲み物を買いに行かされるくらいのことだったが、次第にエスカレートしていき、終いには尊を含んだ四人の都合のいい使いっ走りに僕は成り下がっていた。

 クラスメイトの横暴は日に日にエスカレートしていき、ついには掃除当番や特別授業で行う面倒な資料作成まで押し付けられるようになった。たちが悪い時は、尊が女子の注目を得ようとするために、僕をからかうこともあった。

 クラス替えのない学校だったのでそんな状態が続き、気づいたら三年になっていた。

 良いようにこき使われているが、買出しの際はちゃんとお金をもらっているし、たまにお菓子をくれることもある。だからこれはいじめではないと自分に言い聞かせていたが、高校最後の夏休みが迫ったこの日、事件が起こった。

 いつものように憂鬱な気持ちで教室に入ると、尊の席に男子が集まっていた。

 僕も挨拶をして自然な流れで会話に加わろうとしたが、尊の様子がおかしかった。いつもこちらが黙っていても無駄に絡んでくるくせに、今日はどこか元気がない。少し機嫌が悪いようにも見える。

 近くにいた男子にこっそり事情を聞いてみた。彼は声量を絞って、昨日尊が恋人に振られたのだと説明してくれた。

 少しでも彼の体調を案じたことを後悔していると、尊はその時になって初めて僕の存在に気づいたのか、片手をあげて疲れたように、おはようと言った。

「歩、俺昨日振られちまったよ」

「……それは、災難だったね」

「本当だよ。これから夏休みだっていうのに。まだ付き合って三ヶ月しか経ってないんだぞ」

 こういう時に何と言って慰めればよいのか分からなかった。それは他の三人も同様で、皆一様に苦笑いを浮かべている。

 その沈黙が彼の機嫌を損ねたのか、尊は何かを企んでいるような目で僕を見た。

「傷心の俺を慰めてくれよ」

「……どうやって?」

「そんなのお前が考えろよぉ」

 いつものふざけた口調でそう言って僕を小突いてきたが、瞳の奥は一切笑っていなかった。それはいつか彼が僕を生贄にして、女子の注目を得ようとした時と同じ目だった。

 尊の悪ふざけが始まる。それを素早く察知したお調子者の男子が僕と尊の間に割り込む。

「月島は今まで彼女いたことないから、慰め方が分からないんだよ。だから困らせるなよ。なあ、月島」

 他の男子もこの機を逃すまいと、剣呑な雰囲気を取り払うように尊の機嫌を取ろうとする。いつもならこの辺で尊が引き下がって他愛のない笑い話になるのだが、今日の彼はしぶとかった。
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