その傘をはずして

みたらし

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第一章

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 適当に話して、告白したふりをするか。それで、尊にはこっぴどく振られたと言ってごまかすか――。

 そう思っていた時、突如彼女の背後で慎重にドアが開き、そこから尊とその取り巻きたちがこちらを伺っている光景が見えた。僕が寸前で怖気づいて告白しないかどうか見張っているらしい。

「おーい、月島くーん」

 尊たちに気を取られていると、彼女が僕の眼前で手を振っていた。さっきよりも距離が近づいているような気がする。

 背は僕の方が大きいはずだが、こうして近づかれると彼女の方が高いようにも見える。彼女の場合、足が長いのだ。
「何か用事があるんでしょう?」

「うん、まあ、そうなんだけど……」

「ていうか、すごい汗! 大丈夫?」

 彼女はポケットの中からネズミのキャラクターのプリントされたハンカチを取り出し、僕の額に当てた。その行為は逆効果で、拭った汗はすぐにぶり返してきた。

「これ、貸してあげるからあとは自分で拭いて」

 彼女からハンカチを受け取り、緊張で止まらない汗を控えめに拭った。ハンカチからは香水とは違う何か異世界のおいしい果物のような香りがした。

「とりあえず、用があるなら図書室にでも行こうか」

 そう言って彼女は、ドアの方向へと踵を返そうとした。

 その時いち早く危険を察知した僕は、彼女を呼び止めた。ドアの向こうには尊たちがこれから行われる僕の愚行を見守っている。今振り返られるのは非常にまずい。

「ん? どうしたの?」

 一度大きく深呼吸をし、それらしい言葉を頭の中で組み合わせる。

「好きです。僕と付き合ってください」

 その言葉を口にした瞬間、体内で別の生き物が息づいているように激しく胸が高鳴った。そしてその鼓動の大きさと比例して、すぐに後悔の波が打ち寄せてきた。

 たった一行足らずのその言葉は僕の脳裏に刻み込まれ、本気で自分が嫌になった。

 尊。これが君の求めていた恋愛の痛みというものか? これで君は満足か? 君はこれで、僕を仲間にしてくれるのか?

 空が青い。さっきはなかった飛行機雲が、空を割るように延びている。このまま、この青の中に溶け消えてしまいたい――。

「……はい」

「…………はい?」

 辛辣な言葉を浴びせられると覚悟していた僕の耳に、まるで予想していなかった反応が返ってきた。

 その瞳に光るものがあり、彼女は頬を赤らめながら泣き笑いの表情でこちらを見ていた。

「実は私も、月島くんのことが好きだったの」

 彼女は人差し指で涙の滴を拭うと、口を半開きにして放心している僕に、その日一番の笑顔を振りまきながら言った。

「嬉しい。こちらこそ、よろしくお願いします」
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