5 / 38
第一章
(5)
しおりを挟む
ここに至るまでの経緯を話し終えると同時に、彼女が頼んだクリームソーダとブルーマウンテンが運ばれてきた。
「そんなことだろうと思ったわ」
ふてくされたように言うと、彼女はクリームソーダの方に手を伸ばした。僕は自然な流れでブルーマウンテンを手に取ろうとした。するといきなり手の甲を叩かれた。
「それも私のよ」
「じゃあ僕のは?」
「水があるでしょう」
彼女はブルーマウンテンを自分の領域に移動し、おいしそうにクリームソーダのバニラをつまみ始めた。
それにしても、今更ながら彼女の二面性には驚かされた。
屋上で会ってから下校する途中までは、イメージ通り可憐でおしとやかな佇まいだったのに、学校から離れるにつれて化けの皮が剝がれてきた。
これが彼女の本性。彼女は猫をかぶっていたのだ。
彼女が半分くらいクリームソーダを食べ終えるのを蛇の生殺しのように見せつけられながら、僕はきっとこれから本格的に振られるのだろうと思っていた。悪ふざけで告白したことがばれてしまったのだから、これ以上彼女が僕と関わる理由はない。
「君を傷つけたことは本当に申し訳なく思っているから、もう勘弁してくれないかな」
彼女は口元にバニラをべったりとつけながら、僕を訝しそうに見つめていた。
その怪訝そうな顔もそれはそれで魅力的だったが、今の僕には山で鉢合わせたヒグマのようにしか見えず、最初に出会った時とは違い恐怖で胸が高鳴っていた。
「何を言っているの? 私はあなたの告白を了承したのよ。だから私とあなたはもう恋人関係なの」
おかしなことを言いながら、クリームソーダをかきこみ、彼女は次にブルーマウンテンに砂糖とミルクを入れた。
「君は僕のこと好きじゃないでしょう?」
「ええ。赤血球の厚さほども好きじゃないわ」
赤血球の厚さはおよそ2マイクロメートル。1マイクロメートルは100分の1ミリメートルだから、赤血球の大きさは0.002ミリメートル。
要するに、彼女が僕のことを好きだという要素はほぼ皆無なので、ここまでくるともはや嫌いだと言われているのと同じだ。かなり遠回しな表現だが、正直かなり堪える。これが尊の言っていた恋愛の痛みというものなのだろうか。ちょっと違う気がする。
しかし好きでもないのに付き合うなんて、彼女は一体何を考えているのだろう。
「告白を受けたのにはちゃんと理由があるの」
ティースプーンを三周ほどさせて受け皿に置き、そっと一口だけ口に含むと、ため息とともに彼女は嘘の告白を了承した理由を話し始めた。
「私ね、事情があって今おばあちゃんと二人で暮らしているの。でもおばあちゃん、最近体調が悪くて元気がないのよ。それで私も家事とか炊事とかできることは全部自分でやって、おばあちゃんに楽をしてもらおうと思って頑張っているんだけど、全然だめで……」
家での彼女は信じられないくらい不器用で、料理などもできず掃除もやる前より汚くなってしまうので、家事に関してはほぼすべてそのおばあちゃんに任せていたらしい。
「自分がこんなに不器用だなんて思いもしなくて、ある時それで落ち込んでいた私を見かねておばあちゃんが言ったの。伊織ちゃんにもいい人がいたら安心なんだけどねって」
それから彼女が汚名返上とばかりに家事を手伝っても逆に仕事を増やすだけで、その度におばあちゃんは孫娘の未来への不安をしげしげとこぼすらしい。
「だからそんなダメな私でもしっかりしたパートナーがいて、尚且つそのパートナーは、私の悪いところをちゃんと理解してくれているってところをアピールしたいのよ。そしたらおばあちゃんも安心すると思うの」
彼女は湯気の乏しくなったブルーマウンテンを一口飲んだ。辺りを見回すと、いつの間にか店内の客は僕ら二人だけになっていた。
「……その役を僕がしないといけないってこと?」
彼女はいじらしい笑みを浮かべながら、そうよと言った。
「そんなことだろうと思ったわ」
ふてくされたように言うと、彼女はクリームソーダの方に手を伸ばした。僕は自然な流れでブルーマウンテンを手に取ろうとした。するといきなり手の甲を叩かれた。
「それも私のよ」
「じゃあ僕のは?」
「水があるでしょう」
彼女はブルーマウンテンを自分の領域に移動し、おいしそうにクリームソーダのバニラをつまみ始めた。
それにしても、今更ながら彼女の二面性には驚かされた。
屋上で会ってから下校する途中までは、イメージ通り可憐でおしとやかな佇まいだったのに、学校から離れるにつれて化けの皮が剝がれてきた。
これが彼女の本性。彼女は猫をかぶっていたのだ。
彼女が半分くらいクリームソーダを食べ終えるのを蛇の生殺しのように見せつけられながら、僕はきっとこれから本格的に振られるのだろうと思っていた。悪ふざけで告白したことがばれてしまったのだから、これ以上彼女が僕と関わる理由はない。
「君を傷つけたことは本当に申し訳なく思っているから、もう勘弁してくれないかな」
彼女は口元にバニラをべったりとつけながら、僕を訝しそうに見つめていた。
その怪訝そうな顔もそれはそれで魅力的だったが、今の僕には山で鉢合わせたヒグマのようにしか見えず、最初に出会った時とは違い恐怖で胸が高鳴っていた。
「何を言っているの? 私はあなたの告白を了承したのよ。だから私とあなたはもう恋人関係なの」
おかしなことを言いながら、クリームソーダをかきこみ、彼女は次にブルーマウンテンに砂糖とミルクを入れた。
「君は僕のこと好きじゃないでしょう?」
「ええ。赤血球の厚さほども好きじゃないわ」
赤血球の厚さはおよそ2マイクロメートル。1マイクロメートルは100分の1ミリメートルだから、赤血球の大きさは0.002ミリメートル。
要するに、彼女が僕のことを好きだという要素はほぼ皆無なので、ここまでくるともはや嫌いだと言われているのと同じだ。かなり遠回しな表現だが、正直かなり堪える。これが尊の言っていた恋愛の痛みというものなのだろうか。ちょっと違う気がする。
しかし好きでもないのに付き合うなんて、彼女は一体何を考えているのだろう。
「告白を受けたのにはちゃんと理由があるの」
ティースプーンを三周ほどさせて受け皿に置き、そっと一口だけ口に含むと、ため息とともに彼女は嘘の告白を了承した理由を話し始めた。
「私ね、事情があって今おばあちゃんと二人で暮らしているの。でもおばあちゃん、最近体調が悪くて元気がないのよ。それで私も家事とか炊事とかできることは全部自分でやって、おばあちゃんに楽をしてもらおうと思って頑張っているんだけど、全然だめで……」
家での彼女は信じられないくらい不器用で、料理などもできず掃除もやる前より汚くなってしまうので、家事に関してはほぼすべてそのおばあちゃんに任せていたらしい。
「自分がこんなに不器用だなんて思いもしなくて、ある時それで落ち込んでいた私を見かねておばあちゃんが言ったの。伊織ちゃんにもいい人がいたら安心なんだけどねって」
それから彼女が汚名返上とばかりに家事を手伝っても逆に仕事を増やすだけで、その度におばあちゃんは孫娘の未来への不安をしげしげとこぼすらしい。
「だからそんなダメな私でもしっかりしたパートナーがいて、尚且つそのパートナーは、私の悪いところをちゃんと理解してくれているってところをアピールしたいのよ。そしたらおばあちゃんも安心すると思うの」
彼女は湯気の乏しくなったブルーマウンテンを一口飲んだ。辺りを見回すと、いつの間にか店内の客は僕ら二人だけになっていた。
「……その役を僕がしないといけないってこと?」
彼女はいじらしい笑みを浮かべながら、そうよと言った。
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる