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第一章
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ここに至るまでの経緯を話し終えると同時に、彼女が頼んだクリームソーダとブルーマウンテンが運ばれてきた。
「そんなことだろうと思ったわ」
ふてくされたように言うと、彼女はクリームソーダの方に手を伸ばした。僕は自然な流れでブルーマウンテンを手に取ろうとした。するといきなり手の甲を叩かれた。
「それも私のよ」
「じゃあ僕のは?」
「水があるでしょう」
彼女はブルーマウンテンを自分の領域に移動し、おいしそうにクリームソーダのバニラをつまみ始めた。
それにしても、今更ながら彼女の二面性には驚かされた。
屋上で会ってから下校する途中までは、イメージ通り可憐でおしとやかな佇まいだったのに、学校から離れるにつれて化けの皮が剝がれてきた。
これが彼女の本性。彼女は猫をかぶっていたのだ。
彼女が半分くらいクリームソーダを食べ終えるのを蛇の生殺しのように見せつけられながら、僕はきっとこれから本格的に振られるのだろうと思っていた。悪ふざけで告白したことがばれてしまったのだから、これ以上彼女が僕と関わる理由はない。
「君を傷つけたことは本当に申し訳なく思っているから、もう勘弁してくれないかな」
彼女は口元にバニラをべったりとつけながら、僕を訝しそうに見つめていた。
その怪訝そうな顔もそれはそれで魅力的だったが、今の僕には山で鉢合わせたヒグマのようにしか見えず、最初に出会った時とは違い恐怖で胸が高鳴っていた。
「何を言っているの? 私はあなたの告白を了承したのよ。だから私とあなたはもう恋人関係なの」
おかしなことを言いながら、クリームソーダをかきこみ、彼女は次にブルーマウンテンに砂糖とミルクを入れた。
「君は僕のこと好きじゃないでしょう?」
「ええ。赤血球の厚さほども好きじゃないわ」
赤血球の厚さはおよそ2マイクロメートル。1マイクロメートルは100分の1ミリメートルだから、赤血球の大きさは0.002ミリメートル。
要するに、彼女が僕のことを好きだという要素はほぼ皆無なので、ここまでくるともはや嫌いだと言われているのと同じだ。かなり遠回しな表現だが、正直かなり堪える。これが尊の言っていた恋愛の痛みというものなのだろうか。ちょっと違う気がする。
しかし好きでもないのに付き合うなんて、彼女は一体何を考えているのだろう。
「告白を受けたのにはちゃんと理由があるの」
ティースプーンを三周ほどさせて受け皿に置き、そっと一口だけ口に含むと、ため息とともに彼女は嘘の告白を了承した理由を話し始めた。
「私ね、事情があって今おばあちゃんと二人で暮らしているの。でもおばあちゃん、最近体調が悪くて元気がないのよ。それで私も家事とか炊事とかできることは全部自分でやって、おばあちゃんに楽をしてもらおうと思って頑張っているんだけど、全然だめで……」
家での彼女は信じられないくらい不器用で、料理などもできず掃除もやる前より汚くなってしまうので、家事に関してはほぼすべてそのおばあちゃんに任せていたらしい。
「自分がこんなに不器用だなんて思いもしなくて、ある時それで落ち込んでいた私を見かねておばあちゃんが言ったの。伊織ちゃんにもいい人がいたら安心なんだけどねって」
それから彼女が汚名返上とばかりに家事を手伝っても逆に仕事を増やすだけで、その度におばあちゃんは孫娘の未来への不安をしげしげとこぼすらしい。
「だからそんなダメな私でもしっかりしたパートナーがいて、尚且つそのパートナーは、私の悪いところをちゃんと理解してくれているってところをアピールしたいのよ。そしたらおばあちゃんも安心すると思うの」
彼女は湯気の乏しくなったブルーマウンテンを一口飲んだ。辺りを見回すと、いつの間にか店内の客は僕ら二人だけになっていた。
「……その役を僕がしないといけないってこと?」
彼女はいじらしい笑みを浮かべながら、そうよと言った。
「そんなことだろうと思ったわ」
ふてくされたように言うと、彼女はクリームソーダの方に手を伸ばした。僕は自然な流れでブルーマウンテンを手に取ろうとした。するといきなり手の甲を叩かれた。
「それも私のよ」
「じゃあ僕のは?」
「水があるでしょう」
彼女はブルーマウンテンを自分の領域に移動し、おいしそうにクリームソーダのバニラをつまみ始めた。
それにしても、今更ながら彼女の二面性には驚かされた。
屋上で会ってから下校する途中までは、イメージ通り可憐でおしとやかな佇まいだったのに、学校から離れるにつれて化けの皮が剝がれてきた。
これが彼女の本性。彼女は猫をかぶっていたのだ。
彼女が半分くらいクリームソーダを食べ終えるのを蛇の生殺しのように見せつけられながら、僕はきっとこれから本格的に振られるのだろうと思っていた。悪ふざけで告白したことがばれてしまったのだから、これ以上彼女が僕と関わる理由はない。
「君を傷つけたことは本当に申し訳なく思っているから、もう勘弁してくれないかな」
彼女は口元にバニラをべったりとつけながら、僕を訝しそうに見つめていた。
その怪訝そうな顔もそれはそれで魅力的だったが、今の僕には山で鉢合わせたヒグマのようにしか見えず、最初に出会った時とは違い恐怖で胸が高鳴っていた。
「何を言っているの? 私はあなたの告白を了承したのよ。だから私とあなたはもう恋人関係なの」
おかしなことを言いながら、クリームソーダをかきこみ、彼女は次にブルーマウンテンに砂糖とミルクを入れた。
「君は僕のこと好きじゃないでしょう?」
「ええ。赤血球の厚さほども好きじゃないわ」
赤血球の厚さはおよそ2マイクロメートル。1マイクロメートルは100分の1ミリメートルだから、赤血球の大きさは0.002ミリメートル。
要するに、彼女が僕のことを好きだという要素はほぼ皆無なので、ここまでくるともはや嫌いだと言われているのと同じだ。かなり遠回しな表現だが、正直かなり堪える。これが尊の言っていた恋愛の痛みというものなのだろうか。ちょっと違う気がする。
しかし好きでもないのに付き合うなんて、彼女は一体何を考えているのだろう。
「告白を受けたのにはちゃんと理由があるの」
ティースプーンを三周ほどさせて受け皿に置き、そっと一口だけ口に含むと、ため息とともに彼女は嘘の告白を了承した理由を話し始めた。
「私ね、事情があって今おばあちゃんと二人で暮らしているの。でもおばあちゃん、最近体調が悪くて元気がないのよ。それで私も家事とか炊事とかできることは全部自分でやって、おばあちゃんに楽をしてもらおうと思って頑張っているんだけど、全然だめで……」
家での彼女は信じられないくらい不器用で、料理などもできず掃除もやる前より汚くなってしまうので、家事に関してはほぼすべてそのおばあちゃんに任せていたらしい。
「自分がこんなに不器用だなんて思いもしなくて、ある時それで落ち込んでいた私を見かねておばあちゃんが言ったの。伊織ちゃんにもいい人がいたら安心なんだけどねって」
それから彼女が汚名返上とばかりに家事を手伝っても逆に仕事を増やすだけで、その度におばあちゃんは孫娘の未来への不安をしげしげとこぼすらしい。
「だからそんなダメな私でもしっかりしたパートナーがいて、尚且つそのパートナーは、私の悪いところをちゃんと理解してくれているってところをアピールしたいのよ。そしたらおばあちゃんも安心すると思うの」
彼女は湯気の乏しくなったブルーマウンテンを一口飲んだ。辺りを見回すと、いつの間にか店内の客は僕ら二人だけになっていた。
「……その役を僕がしないといけないってこと?」
彼女はいじらしい笑みを浮かべながら、そうよと言った。
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