6 / 38
第一章
(6)
しおりを挟む
「もちろん、ずっとじゃないわ。私はやればできる人間なの。だから私がおばあちゃんを安心させるくらいの技術と信頼を手に入れるまで、あなたには恋人のふりをしてほしいの。あなたは一見すると不器用そうだけど、実際はどうなの?」
「君はさらりと失礼なことを言うね。ちなみに掃除は好きだし、料理も簡単なものならできるよ」
僕の家は共働きで、よく洗濯や風呂の掃除を任されたり、遅く帰ってくる父のために簡易的な夜食を作ってあげることもあった。
「でも仮に僕が家事や炊事を人並にできたとしても、君のおばあちゃんを安心させるような人徳のある人間ではないよ。だから僕なんかよりもっと賢そうな人を代役に頼んだ方が賢明だと思うけど……」
「確かにあなたはちょっとさえないけど、見方を変えたら落ち着いていてしっかりしているように見える。変に元気すぎるよりいいと思うわ。おばあちゃんが気に入りそうなタイプよ」
「それは褒めているの?」
「もちろん」
褒められているのかどうかは別として、どうやら僕は彼女のお眼鏡にかなったらしい。でもどう考えても、僕にそんな大役はできそうにない。
「……やっぱりできないよ。君はとても美人だし、僕なんかとは釣り合わない。君にはもっとふさわしい人がいると思うよ」
自信なさげに言うと、彼女は首を横に振った。
「ふさわしいのはあなたよ」
彼女は芯の通った声で言うと、形のいい大きな瞳で射貫くように僕を見た。それは生徒会長の彼女が、ステージに立った時に見せる凛々しい表情だった。
「実は私、今まで二人の人と付き合ったことがあるの。一人は大学生で、もう一人は別の学校の男子なんだけど――」
彼女はぽつりぽつりと昔の交際相手の話を始めた。
一人目の大学生は車を持っていて、デートはもっぱらドライブだったらしい。だからたまに夜遅くに帰宅することもあり、その度におばあちゃんに心配を掛けたそうだ。
二人目の彼は同い年の男子で、常に連絡を取り合っていないと気が済まないタイプだったそうで、彼女は慣れない家事と束縛彼氏との間に板挟みされて参っていたそうだ。
「その二人のことは好きだったわ。だから二人ともおばあちゃんに紹介したの。でも、二人とも最初はとても愛想よくしてくれていたけど、次第にうちに寄り付かなくなっちゃって。若いから街で買い物したり、遊んだりしたかったのでしょうね。でも好きだったからこそ、おばあちゃんのことも大切にしてほしかったし、私の心境も分かってほしかったわ……」
結局最初の大学生の彼とは一か月、二人目の彼とは半月も持たなかったそうだ。それから彼女は今日に至るまで、交際を申し込まれても断っているらしい。
「あなたは今まで付き合った人とも、私に告白してきた男子ともジャンルが違うから、きっとうまくいくと思う。だからこの通り。私に協力して」
手を合わせて懇願する彼女を見ても、やっぱり僕にはできないだろうと思った。いくら何でも荷が重すぎる。
「君はさらりと失礼なことを言うね。ちなみに掃除は好きだし、料理も簡単なものならできるよ」
僕の家は共働きで、よく洗濯や風呂の掃除を任されたり、遅く帰ってくる父のために簡易的な夜食を作ってあげることもあった。
「でも仮に僕が家事や炊事を人並にできたとしても、君のおばあちゃんを安心させるような人徳のある人間ではないよ。だから僕なんかよりもっと賢そうな人を代役に頼んだ方が賢明だと思うけど……」
「確かにあなたはちょっとさえないけど、見方を変えたら落ち着いていてしっかりしているように見える。変に元気すぎるよりいいと思うわ。おばあちゃんが気に入りそうなタイプよ」
「それは褒めているの?」
「もちろん」
褒められているのかどうかは別として、どうやら僕は彼女のお眼鏡にかなったらしい。でもどう考えても、僕にそんな大役はできそうにない。
「……やっぱりできないよ。君はとても美人だし、僕なんかとは釣り合わない。君にはもっとふさわしい人がいると思うよ」
自信なさげに言うと、彼女は首を横に振った。
「ふさわしいのはあなたよ」
彼女は芯の通った声で言うと、形のいい大きな瞳で射貫くように僕を見た。それは生徒会長の彼女が、ステージに立った時に見せる凛々しい表情だった。
「実は私、今まで二人の人と付き合ったことがあるの。一人は大学生で、もう一人は別の学校の男子なんだけど――」
彼女はぽつりぽつりと昔の交際相手の話を始めた。
一人目の大学生は車を持っていて、デートはもっぱらドライブだったらしい。だからたまに夜遅くに帰宅することもあり、その度におばあちゃんに心配を掛けたそうだ。
二人目の彼は同い年の男子で、常に連絡を取り合っていないと気が済まないタイプだったそうで、彼女は慣れない家事と束縛彼氏との間に板挟みされて参っていたそうだ。
「その二人のことは好きだったわ。だから二人ともおばあちゃんに紹介したの。でも、二人とも最初はとても愛想よくしてくれていたけど、次第にうちに寄り付かなくなっちゃって。若いから街で買い物したり、遊んだりしたかったのでしょうね。でも好きだったからこそ、おばあちゃんのことも大切にしてほしかったし、私の心境も分かってほしかったわ……」
結局最初の大学生の彼とは一か月、二人目の彼とは半月も持たなかったそうだ。それから彼女は今日に至るまで、交際を申し込まれても断っているらしい。
「あなたは今まで付き合った人とも、私に告白してきた男子ともジャンルが違うから、きっとうまくいくと思う。だからこの通り。私に協力して」
手を合わせて懇願する彼女を見ても、やっぱり僕にはできないだろうと思った。いくら何でも荷が重すぎる。
0
あなたにおすすめの小説
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる