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第一章
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しかし僕が洗った食器を彼女に渡すと、彼女は食器の大きさや種類など関係なしに置くものだからすぐに水切りかごが溢れかえり、挙句の果てにはせっかく洗った茶碗を落としてまた洗わなければならなくなる始末だった。
ほとんど僕一人で食器洗いを終え、水切りかごの食器類を綺麗に並べなおして居間に戻ると、おばあちゃんがねぎらいの言葉を掛けてくれた。
「伊織ちゃん、生ごみにシューはした?」
「忘れてた、すぐするね!」
伊織は再び台所に戻り、三角コーナーに霧吹きのようなもので数回スプレーをして戻ってきた。彼女の説明によると、そのシューなるものはおばあちゃんが酢と水で作った、生ごみ消臭剤なのだそうだ。
そのスプレーは生ごみが放つ強烈な悪臭を軽減してくれるそうで、夏場のこの時期には特に重宝しているらしい。おばあちゃんは生活の知恵が豊富で、他にもいろいろなものを手作りしているそうだ。
僕が感心した反応を見せると、伊織は次に古い木製の棚の上から謎の小瓶を取り出した。それもおばあちゃんが作ったもので、中身は虫よけスプレーだった。
「ヨモギの葉を焼酎に漬け込んで三週間位待つとできるのよ。小さいスプレーに入れて持ち歩いてもいいし、網戸に吹きかけると虫が寄りつかなくなるの。それは伊織ちゃんが採ってきたヨモギで作ったんだよ」
伊織は五月になると決まって近所の河原や、お寺のそばの茂みにヨモギを摘みに行って、おばあちゃんに毎年この虫よけスプレーを作ってもらうそうだ。もっとも伊織はいらない雑草まで摘んでくるそうで、大量に採取してきた草の中から、おばあちゃんがヨモギを選別しているらしい。
「昔は私も伊織ちゃんを連れてヨモギを取りに行っていたんだけど、最近はどうも体の調子が悪くてね。また一緒に行きたいんだけどねぇ」
「体調が良くなったら、今度は三人で行こうよ。ね、歩」
僕が頷くと、おばあちゃんはゆったりとした口調でそうだねぇと言って、目じりを下げた。
それからおばあちゃんは、伊織の成長の記録を見ようと、押し入れの中から二冊のアルバムを引っ張り出した。ページを捲るたびに伊織は恥ずかしそうに写真を隠していたが、その度におばあちゃんがそれを払いのけ、写真の一枚一枚を説明してくれた。
中には若かりし頃のおばあちゃんや真央さんが一緒に写っているものもあり、二人に挟まれながらカメラに向かってあどけなく笑う伊織はとても幸せそうだった。
アルバムを見ていて、気になることが二つあった。
一つは、どの写真にも彼女の両親が写っていないことだ。どれも小学生のころからの写真で、彼女の幼年期の写真は一つもない。
二つ目は、アルバムの表紙である。ハードカバーに薄いクリアフィルムが巻きつけてある表紙の右下には、それぞれ②、③とマジックで書かれていた。ということは、どこかに①のアルバムがあり、そこに彼女の赤ん坊のころの写真などがあるのかもしれない。
気にはなったものの、聞くことはできなかった。おばあちゃんも伊織も楽しそうだったので、僕の余計な一言で水を差すということは避けたかった。
夕方雅田家を出る時、おばあちゃんは新茶の葉を持たせてくれた。近所の寺の住職からの頂き物だそうで、ビニール袋に一年分くらいの茶葉が詰め込まれていた。
おばあちゃんは玄関まで見送りに来てくれて、何度も伊織のことをよろしくと言って優しく目を細めていた。僕は玄関の前で伊織とおばあちゃんに一礼して帰宅した。
ほとんど僕一人で食器洗いを終え、水切りかごの食器類を綺麗に並べなおして居間に戻ると、おばあちゃんがねぎらいの言葉を掛けてくれた。
「伊織ちゃん、生ごみにシューはした?」
「忘れてた、すぐするね!」
伊織は再び台所に戻り、三角コーナーに霧吹きのようなもので数回スプレーをして戻ってきた。彼女の説明によると、そのシューなるものはおばあちゃんが酢と水で作った、生ごみ消臭剤なのだそうだ。
そのスプレーは生ごみが放つ強烈な悪臭を軽減してくれるそうで、夏場のこの時期には特に重宝しているらしい。おばあちゃんは生活の知恵が豊富で、他にもいろいろなものを手作りしているそうだ。
僕が感心した反応を見せると、伊織は次に古い木製の棚の上から謎の小瓶を取り出した。それもおばあちゃんが作ったもので、中身は虫よけスプレーだった。
「ヨモギの葉を焼酎に漬け込んで三週間位待つとできるのよ。小さいスプレーに入れて持ち歩いてもいいし、網戸に吹きかけると虫が寄りつかなくなるの。それは伊織ちゃんが採ってきたヨモギで作ったんだよ」
伊織は五月になると決まって近所の河原や、お寺のそばの茂みにヨモギを摘みに行って、おばあちゃんに毎年この虫よけスプレーを作ってもらうそうだ。もっとも伊織はいらない雑草まで摘んでくるそうで、大量に採取してきた草の中から、おばあちゃんがヨモギを選別しているらしい。
「昔は私も伊織ちゃんを連れてヨモギを取りに行っていたんだけど、最近はどうも体の調子が悪くてね。また一緒に行きたいんだけどねぇ」
「体調が良くなったら、今度は三人で行こうよ。ね、歩」
僕が頷くと、おばあちゃんはゆったりとした口調でそうだねぇと言って、目じりを下げた。
それからおばあちゃんは、伊織の成長の記録を見ようと、押し入れの中から二冊のアルバムを引っ張り出した。ページを捲るたびに伊織は恥ずかしそうに写真を隠していたが、その度におばあちゃんがそれを払いのけ、写真の一枚一枚を説明してくれた。
中には若かりし頃のおばあちゃんや真央さんが一緒に写っているものもあり、二人に挟まれながらカメラに向かってあどけなく笑う伊織はとても幸せそうだった。
アルバムを見ていて、気になることが二つあった。
一つは、どの写真にも彼女の両親が写っていないことだ。どれも小学生のころからの写真で、彼女の幼年期の写真は一つもない。
二つ目は、アルバムの表紙である。ハードカバーに薄いクリアフィルムが巻きつけてある表紙の右下には、それぞれ②、③とマジックで書かれていた。ということは、どこかに①のアルバムがあり、そこに彼女の赤ん坊のころの写真などがあるのかもしれない。
気にはなったものの、聞くことはできなかった。おばあちゃんも伊織も楽しそうだったので、僕の余計な一言で水を差すということは避けたかった。
夕方雅田家を出る時、おばあちゃんは新茶の葉を持たせてくれた。近所の寺の住職からの頂き物だそうで、ビニール袋に一年分くらいの茶葉が詰め込まれていた。
おばあちゃんは玄関まで見送りに来てくれて、何度も伊織のことをよろしくと言って優しく目を細めていた。僕は玄関の前で伊織とおばあちゃんに一礼して帰宅した。
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