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第一章
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片山さんの手術が終わり、四日が過ぎた。その間僕は毎日病院を訪れた。
病室での僕は終始片山さんの世間話の聞き役で、会話の合間にカタクリコがゲームのことで横槍を出してきた。
彼女はいつも似たような格好でいすに座り、踵をつぶしたスニーカーを足に引っ掛けながらにこにことゲームをしていた。彼女が足を振る度に、アンクレットの外貨が揺れた。
「君、夏休みの宿題終わったの」
ある日、ゲームばかりしているカタクリコに何気なく聞いた。
片山さんは仲良くなった患者と休憩室にお茶を飲みに行っていて、病室には僕らしかいなかった。
「終わったよー」
カタクリコは僕が持ってきた攻略本を見ながら言った。予想外の回答だ。
「全部終わったの?」
「うん」
「いつ?」
「七月中。高校は絵日記がないから楽よねー」
そんな馬鹿な、と思った。受験前ということでどんなに頑張っても半月はかかる量の宿題が出されているのに。
「私ね、こう見えて超頭いいの」
説得力がなさすぎると思った。
「参考までに聞くけど、期末は何位だった?」
「期末だけじゃなくて、中間も学年末も、三年間全部一位だよ」
「うそでしょう?」
「月島くん。人は見た目で判断してはいけないのだよ」
そのタイミングで、ゲーム機からパーティが全員死亡した時に流れる悲しい音楽が聞こえた。
「あっ! 月島くんが邪魔するから!」
「ご、ごめん」
カタクリコは頬を膨らませながらゲーム機の電源を消した。再起動して、ソフトのオープニングの音楽が鳴る。その音楽を聴いて、カタクリコがため息を吐いた。
「ゲームはいいよね。リセットしたら、自分の都合のいいようにやり直せるから」
どういう意図でそう言ったのか分からなかったので、僕は黙っていた。
術後の経過がよかったので、片山さんの予定されていた入院生活はだいぶ短くなり、お盆が終わるころに退院が決まった。
退院の前日、僕とカタクリコはおつかいを頼まれた。片山さんの禁酒の禁断症状が出てきたので、強炭酸水としょっぱいつまみを買ってくるように指示されたのだ。
「溶けるよー」
「参ったね」
「月島くん、アイス買って」
「いいよ」
「やったー」
コンビニでアイスを買い、盆休み中の工務店のシャッターの前に移動した。カタクリコは、鷲と書かれた白い帽子を被っており、アイスを食べながらそれをうちわのようにして仰いでいた。
太陽はセミの羽を焦がしそうなほどの熱量を放っていた。雨の降り方を忘れたような高い蒼穹に、生まれたてのめだかが泳ぐように幾筋かの雲が浮かんでいた。
いつか見た空。材料を買い込み、二人で街路樹の連なる歩道を歩いた、あの日と同じ色――。
カタクリコと会話していても、意識の隙間からいつのまにか伊織が顔を出した。あの時の彼女の声や表情が、抜け殻となって隣にいるようだった。
おつかいの品を買った帰りに、近くのレンタルビデオショップに立ち寄ることにした。そこは店内の半分がゲーム売り場になっており、僕も何度か立ち寄ったことのある店だった。
店に着いて、彼女は目星を付けていたいくつかのゲームを見比べていた。アルバイトもしていないのに、どこからそんな資金を調達してくるのかと聞くと、父親からテストの度に小遣いをもらっているらしい。
「これにしようかな」
彼女の手には、戦国武将になって敵の大将を討ち取るゲームが握られていた。馬に乗り、敵の陣地を縦横無尽に駆け回り、身の丈ほどの武器を振り回して千人以上の兵士をなぎ倒していくという過激な内容である。
病室での僕は終始片山さんの世間話の聞き役で、会話の合間にカタクリコがゲームのことで横槍を出してきた。
彼女はいつも似たような格好でいすに座り、踵をつぶしたスニーカーを足に引っ掛けながらにこにことゲームをしていた。彼女が足を振る度に、アンクレットの外貨が揺れた。
「君、夏休みの宿題終わったの」
ある日、ゲームばかりしているカタクリコに何気なく聞いた。
片山さんは仲良くなった患者と休憩室にお茶を飲みに行っていて、病室には僕らしかいなかった。
「終わったよー」
カタクリコは僕が持ってきた攻略本を見ながら言った。予想外の回答だ。
「全部終わったの?」
「うん」
「いつ?」
「七月中。高校は絵日記がないから楽よねー」
そんな馬鹿な、と思った。受験前ということでどんなに頑張っても半月はかかる量の宿題が出されているのに。
「私ね、こう見えて超頭いいの」
説得力がなさすぎると思った。
「参考までに聞くけど、期末は何位だった?」
「期末だけじゃなくて、中間も学年末も、三年間全部一位だよ」
「うそでしょう?」
「月島くん。人は見た目で判断してはいけないのだよ」
そのタイミングで、ゲーム機からパーティが全員死亡した時に流れる悲しい音楽が聞こえた。
「あっ! 月島くんが邪魔するから!」
「ご、ごめん」
カタクリコは頬を膨らませながらゲーム機の電源を消した。再起動して、ソフトのオープニングの音楽が鳴る。その音楽を聴いて、カタクリコがため息を吐いた。
「ゲームはいいよね。リセットしたら、自分の都合のいいようにやり直せるから」
どういう意図でそう言ったのか分からなかったので、僕は黙っていた。
術後の経過がよかったので、片山さんの予定されていた入院生活はだいぶ短くなり、お盆が終わるころに退院が決まった。
退院の前日、僕とカタクリコはおつかいを頼まれた。片山さんの禁酒の禁断症状が出てきたので、強炭酸水としょっぱいつまみを買ってくるように指示されたのだ。
「溶けるよー」
「参ったね」
「月島くん、アイス買って」
「いいよ」
「やったー」
コンビニでアイスを買い、盆休み中の工務店のシャッターの前に移動した。カタクリコは、鷲と書かれた白い帽子を被っており、アイスを食べながらそれをうちわのようにして仰いでいた。
太陽はセミの羽を焦がしそうなほどの熱量を放っていた。雨の降り方を忘れたような高い蒼穹に、生まれたてのめだかが泳ぐように幾筋かの雲が浮かんでいた。
いつか見た空。材料を買い込み、二人で街路樹の連なる歩道を歩いた、あの日と同じ色――。
カタクリコと会話していても、意識の隙間からいつのまにか伊織が顔を出した。あの時の彼女の声や表情が、抜け殻となって隣にいるようだった。
おつかいの品を買った帰りに、近くのレンタルビデオショップに立ち寄ることにした。そこは店内の半分がゲーム売り場になっており、僕も何度か立ち寄ったことのある店だった。
店に着いて、彼女は目星を付けていたいくつかのゲームを見比べていた。アルバイトもしていないのに、どこからそんな資金を調達してくるのかと聞くと、父親からテストの度に小遣いをもらっているらしい。
「これにしようかな」
彼女の手には、戦国武将になって敵の大将を討ち取るゲームが握られていた。馬に乗り、敵の陣地を縦横無尽に駆け回り、身の丈ほどの武器を振り回して千人以上の兵士をなぎ倒していくという過激な内容である。
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