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第二章
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暑さが一向に後退の陰りを見せないまま九月の中頃を過ぎた。その頃になると、校内は文化祭の準備で慌ただしく、当日に近付くにつれて毎日少しずつ下校時間が遅くなっていった。
「あっ、月島くんじゃん」
放課後僕がベニヤ板を運んでいる時、カタクリコに声を掛けられた。カタクリコはしばらく会っていない間に、髪の毛が少しだけ伸びていた。飄々とした佇まいは以前のままである。
「月島くんのクラスは何をするの?」
「タピオカを販売するんだ。君のクラスはカレーだったね」
「そうだよ。みんなで仮装して、青いカレーを振舞うのよ」
「よくそんな企画が通ったね……」
すると渡り廊下の方を、伊織がものすごい勢いで走っていく姿が見えた。最近の彼女は特に忙しく、一緒に帰ることも少ない。
いまいち明瞭としなかった僕と伊織の関係も、ようやく友達という枠内に収まったところで、今後について僕は伊織にある提案をした。
おばあちゃんを始めとする世間の目は、僕らのことをこれからもきっと釣り合いの取れていない恋人だと認識するだろう。
それをひとたび、本当は嘘の恋愛関係でつい最近本当の友達になりましたと公開したらどうなるだろうか。降りかかる火の粉を想像しただけで恐ろしい。
だから僕は、結論を可及的に求めることを放棄した。今まで通りの関係で世間を偽り、時が経って頃合いになったら再び考えようという結論に落ち着いたのだ。
その先延ばし的な考え方は、とてもずるくて卑怯なやり方かもしれないが、一番波風が立たない方法に違いなかった。
何より、おばあちゃんが僕らの本当の関係を知って悲しむ姿は見たくない。だから友達として、おばあちゃんに安心してもらうためのあくまでもボランティア行為だと思い、彼女の嘘の片棒を担ごうと決心したのだった。
「いおちゃん、就職希望って聞いた?」
「まあ、それとなく」
いつかの帰り道、伊織と進路の話をしたことがあった。僕は当初から他県の大学に進学することを決めていたが、伊織は地元で就職をするらしい。
日々の生活の中で、伊織が真央さんに憧れていて、本当は美容師になりたいのだという事は分かっていた。にも関わらず、彼女が進学しないのには事情があるのだ。
夏休みが空けたあたりから、おばあちゃんが体調を崩し始めた。昔から心臓に疾患があったそうで、過去に何度か倒れたこともあったらしい。
この町には美容系の専門学校はないので、進学するならどうしても遠方になってしまう。そのことが彼女の本心に蓋をかぶせているのだろう。喫茶店で彼女が美容系の雑誌を見ている姿を見ると心が痛んだ。
「遠距離になっちゃうねぇ」
カタクリコが、伊織が走っていった方向を見ながら呟いた。そういえばそうだなと、僕はどこか他人事のように思った。
「あっ、月島くんじゃん」
放課後僕がベニヤ板を運んでいる時、カタクリコに声を掛けられた。カタクリコはしばらく会っていない間に、髪の毛が少しだけ伸びていた。飄々とした佇まいは以前のままである。
「月島くんのクラスは何をするの?」
「タピオカを販売するんだ。君のクラスはカレーだったね」
「そうだよ。みんなで仮装して、青いカレーを振舞うのよ」
「よくそんな企画が通ったね……」
すると渡り廊下の方を、伊織がものすごい勢いで走っていく姿が見えた。最近の彼女は特に忙しく、一緒に帰ることも少ない。
いまいち明瞭としなかった僕と伊織の関係も、ようやく友達という枠内に収まったところで、今後について僕は伊織にある提案をした。
おばあちゃんを始めとする世間の目は、僕らのことをこれからもきっと釣り合いの取れていない恋人だと認識するだろう。
それをひとたび、本当は嘘の恋愛関係でつい最近本当の友達になりましたと公開したらどうなるだろうか。降りかかる火の粉を想像しただけで恐ろしい。
だから僕は、結論を可及的に求めることを放棄した。今まで通りの関係で世間を偽り、時が経って頃合いになったら再び考えようという結論に落ち着いたのだ。
その先延ばし的な考え方は、とてもずるくて卑怯なやり方かもしれないが、一番波風が立たない方法に違いなかった。
何より、おばあちゃんが僕らの本当の関係を知って悲しむ姿は見たくない。だから友達として、おばあちゃんに安心してもらうためのあくまでもボランティア行為だと思い、彼女の嘘の片棒を担ごうと決心したのだった。
「いおちゃん、就職希望って聞いた?」
「まあ、それとなく」
いつかの帰り道、伊織と進路の話をしたことがあった。僕は当初から他県の大学に進学することを決めていたが、伊織は地元で就職をするらしい。
日々の生活の中で、伊織が真央さんに憧れていて、本当は美容師になりたいのだという事は分かっていた。にも関わらず、彼女が進学しないのには事情があるのだ。
夏休みが空けたあたりから、おばあちゃんが体調を崩し始めた。昔から心臓に疾患があったそうで、過去に何度か倒れたこともあったらしい。
この町には美容系の専門学校はないので、進学するならどうしても遠方になってしまう。そのことが彼女の本心に蓋をかぶせているのだろう。喫茶店で彼女が美容系の雑誌を見ている姿を見ると心が痛んだ。
「遠距離になっちゃうねぇ」
カタクリコが、伊織が走っていった方向を見ながら呟いた。そういえばそうだなと、僕はどこか他人事のように思った。
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