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「いいなぁ~。私も隼くんとカレー作りたい!」

ボランティアイベントの後、僕は菜摘さんと約束していたため、いつもの場所で待ち合わせをして会った。

今日の話をすると、菜摘さんは懐かしそうに小学時代のイベントを振り返っていた。

「僕は菜摘さんが作るカレーを食べてみたいです。菜摘さん、料理が上手なので。」

「まあね~。今度私の家で遊ぶとき、作ってあげるよ!でも隼くんと一緒に作りたいから、少しは手伝ってね?」

「はい!楽しみにしてます!」

「……ねえ隼くん。ずっと思ってたんだけどさ、隼くんはいつまで私に敬語使うの?」

「えっ。」

「もう付き合ってるんだし、隼くんは私の彼氏なのよ?敬語なんて使わないで話してほしいな。」

「ええ……」

「言ってみてよほら。タメ口で!」

「な、なにを……ですか?」

「んー…じゃあ、私に対する気持ち!正直にね?敬語禁止だよ?」

「ええ…そんな……」


菜摘さんがいたずらっぽく笑う。

菜摘さんはたまにこんな風に僕を揶揄い楽しそうにする。

「……菜摘さん……」

「なあに?」

「その……僕……」

「うん?どうしたの?」

「あの……えっと………」

僕が恥ずかしくて吃っている間も、菜摘さんは可笑しそうにニヤニヤしている。

公園という開放的な場所で気持ちを伝えること自体恥ずかしいのに、初めて敬語を崩すという更に難題がふっかけられている。

僕は何度も意を決して伝えようとするが、結局恥ずかしさに負けて言葉を止めてしまう。

相変わらずの自分の情けなさに落胆しながらも、はじめは楽しそうにニヤけていた菜摘さんが次第に僕が気持ちを言わないことに対して若干不満そうな表情を覗かせ始めたのを見て、僕は焦ってきていた。

敬語を崩すのが恥ずかしいとか、公園で気持ちを伝えるのがイレギュラーだから難しいとか、そんなことは菜摘さんも分かってくれているはず。

だけど、それらを分かった上でやっぱり菜摘さんも僕の意気地の無さに若干絶望しているのではないか…。

そんなマイナス思考も浮かんできて、僕はさらに言葉を発せられなくなった。

もう限界かもしれない……

自分への嫌悪感と情けなさ、苛つき、そして菜摘さんへの申し訳無さと焦りがごちゃごちゃに混ざってつい泣きたくなっていた時、僕たちの背後から大きな声が聞こえた。
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