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『20XX年 12月25日


私と隼くんが一緒に迎える、初めてのクリスマス。


この日私は隼くんと、少し都心から離れたところへツリーを見に行った。

隼くんはいつも以上にはしゃいでいて、珍しく子供らしかった。

白い息を吐きながら、私は隼くんの隣に並び、夜空を見上げる。


「てっぺんのスターの部分に雪がかかると、余計に輝いて見えるんだね……」


ふと隣で呟く隼くんの目は、この世で最も澄んでいた。

隼くんが時々口にする言葉はとても洗練されていて、その美しい感性に、私はただただ感心するばかりだった。


そんな隼くんが愛おしくて、自然と優しい笑みが溢れる。

そして隼くんはそんな私の言葉と笑顔を、嬉しそうに眺める。


隼くんは、家族以外とクリスマスを過ごすのは初めてだと言っていた。


私は隼くんの家族から隼くんを奪ったのだという少しの罪悪感を覚えながらも、同時に込み上げる優越感を無視できなかった。


隼くんは、家族に彼女ができたことを報告していたみたいだった。

ただ、もちろん相手が25歳であるということは伏せていた。

きっと隼くんの家族は、同じ小学生と付き合っていると思っているのだろう。


ツリーの周りにはカップルたちが沢山いた。

そんな男女の中の1組となっていた私達は、向き合って立っていた。

隼くんはここで、私にクリスマスプレゼントをくれた。


恥ずかしそうに顔を赤らめながら私の反応を気にして渡す様子は、本当に可愛かった。


隼くんがくれたのは、小さな雪の結晶の形をしたネックレスだった。

結晶の中心には、ひとつだけダイヤが輝いている。

見た瞬間、私はテンションが上がった。

そして早速ネックレスを付けた。


銀色のネックレスは、私の肌の上で柔らかく光っていた。

隼くんがくれたネックレスは、全てにおいて私の好みのドンピシャだったのだ。

そして私ももちろん、隼くんへのクリスマスプレゼントは用意していた。

ただこれは、ついに我慢できなくなった私の欲を"クリスマスプレゼント"という大義名分を用いていたに過ぎなかった。

私はこの日、意を決して……

後戻りができない事をも理解した上で、それはもう人生の分岐点における重要な判断だという理解の上で、意を決して隼くんから全てを奪ったのである。
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