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菜摘さんは出会ったときから優しくて、いつも笑顔で明るくて、僕みたいないじめられっ子を好きだと言ってくれる素敵な人だ。

だけど付き合ってからたまに見せる悪戯な笑顔や僕を揶揄う姿、僕の行動に拗ねたり怒ったりする無邪気な素直さも兼ね備えた人だった。

菜摘さんは僕を大人っぽくもあり子供らしいとも言うが、僕から見た菜摘さんもまさに同じだった。

包容力に溢れた素敵な大人の女性と、無垢で直向きな子供のような女性。

僕の知ってる菜摘さんは、そんな人だった。

だけど…


「隼くん……自分で自分のを使って遊んだことはある?」

潤んだ目と靭やかな手つき、囁くような甘い声でそんなことを聞いてくる菜摘さんは、僕がこれまで知らなかった彼女で溢れている。

僕は菜摘さんの問に必死に首を横に振った。

それでも菜摘さんはそんな僕の反応を楽しむかのように妖艶な笑みを浮かべ、僕のことをじっと見ている。


「そっかぁ……」

含みを持たせるような言い方でそう呟きながら、菜摘さんはずっと僕のを見ている。

「…菜摘さん……あの、あんまり見られると…」

「なあに?見られるとどうなるの?」

「恥ずかしい……」

「ふふっ。かわいい!隼くん。」

「いやっ……だから見ないで……」

「見ないわけないじゃない。こんなにかわいいのに」

菜摘さんがいつも以上に意地悪で悪戯だ。

僕が見ないでといえば言うほど、菜摘さんは喜んでいるかのように僕の全身を見る。

「………っ」

僕は恥ずかしさと戸惑いのあまり、発火しそうなくらい熱い顔に気がついたら涙が流れていたことに気づいた。

「……隼くん……?」

僕が突然泣き出したことに、菜摘さんは焦ったように僕を見る。

「ごめん…ごめんね隼くん。嫌だったよね…。」

そう言いながら、菜摘さんは僕を抱きしめ頭を撫でてくれた。

「…ごめん……私、最低ね…。隼くんみたいな子供に、一体何を……」

何度もそう言って、心底後悔したような声で菜摘さんは謝っている。


「……違う……」

「え…?」

「違うんだ……」


菜摘さんがこんなに焦っているのを初めて見た。

だけど僕が泣いているのは、菜摘さんにされたことが嫌だったからじゃない…。


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