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菜摘さんが緊張しているということは、何となく分かっていた。

それは所謂僕と同じ種類の緊張とは言えない、一つ上の次元のものであった。

僕は、菜摘さんと経験することは大体初めての事が多い。

だからこそ、色んな不安や失敗への恐れ、嫌われたくないという気持ちが入り混じった緊張をしてしまう。

だけど菜摘さんの緊張は、これまで僕に対して…もしくは体を重ねてきた男性たちに対して、自ら積極的になっていたのにも関わらず、今回初めて僕に身を任せるということへの慣れない不安のようなものを感じさせる。

まだ僕が安心して身を任せられる程の経験や知識を持たないからなのかもしれないが、どこか我が子の初めての試みを期待半分心配半分で見守っているような心の視線を感じる。

僕はそんな菜摘さんの抱く緊張に見守られながら、自分なりに彼女の心配が杞憂であったと思ってもらいたくて必死になっていた。

必死に、これまでの彼女との行為を通して得た彼女の悦ぶポイントや反応を見ながらいろんな加減を調整していくことを頑張った。

「ふふ。隼くん、顔に緊張してるって書いてあるわ。」

「…菜摘さんこそ……」

「私?」

「うん……」


僕の必死さがあっさりと菜摘さんに見つかってしまったことは最早いつものことなので気にもならなかったが、僕の本心としては菜摘さんも僕への不安を隠しきれていないということを指摘したかった。

だけどそれは、僕が菜摘さんの不安を今現在拭いきれていないことが招いているものであるから、僕は頭を振ってその指摘を諦めた。

「ねえ菜摘さん……」

「なあに?」

「菜摘さんは、僕のどんなところが好き?」

「どうしたのよ急に…」

「…聞きたくなって。」

「…そうねぇ……沢山あるわよ。例えば、優しいところ。大人っぽいところ。そして賢いところ。器用で何でもできちゃうところ。だけど繊細で時々無邪気で幼くて、可愛らしいところ。……全部よ。」

「……ありがとう……」

「うん。隼くんの全部が、大好きよ……」


再び菜摘さんが僕を誘うように背中に手を回した。

僕はその微かな力に自ら倒されるような形で菜摘さんに口付けた。

「……っっ」

今度はゆっくりと、舌を入れていく。

ひたすらお互いが持つ独特の味を交換し合う。

まるで舌や口内が接部になったかのように、絖っぽい温かさがザラザラと響く。

僕は菜摘さんとのこういうキスが好きだ。

まるでキスだけで興奮の絶頂を迎えるかのように、僕の全身が全ての刺激に敏感になる。

だけど菜摘さんも今日は僕と同じようだ。

キスをしながら軽く触れた下半身が、いつも以上に温かくなって僕を待っていた…。
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