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「……ああっ!」

一瞬軽く触れただけなのに、菜摘さんは体を大きく震わせて嬌声をあげる。

「……菜摘さん……」

僕はそんな菜摘さんの初々しい反応に、自分の中にあるある種の好奇心に火がつけられたことを自覚した。

「菜摘さん…僕も、菜摘さんの全部が好きだよ。」

互いの息を交換し合い、既に繋がりあったかのような錯覚を覚える接吻の後、僕は菜摘さんの全身を優しく指でなぞった。

「菜摘さんこそ本当に優しいから……。僕のことを何回も救ってくれた。僕は菜摘さんがいなければ、こんなに幸せを感じることもなかったから…。」

菜摘さんの全てを隈無く触れていたい。

菜摘さんの全てを好きだということを肌で伝えたい。

その気持ちの現れであろうか、僕は何度も菜摘さんの肌に優しく触れ、なぞり、柔らかく擦る。

「すごく綺麗で料理も上手で何でも教えてくれて…。こんなに完璧な人が僕の彼女だって、未だに信じられないよ…。」

「ああっ…隼くん……」

「普段は落ち着いていて大人っていう感じがするのに。余裕があって優しくて、何でも受け入れてくれる。」

「……あっ!……」

「だけど……」

僕は焦らすように、ずっと菜摘さんの腿を手で掻き回していた。

彼女の焦れったいような期待するかのような声と反応に、僕はついに応えることにする。

「二人きりのときは、こんなに可愛くなっちゃうから……大好き。」

「ああっ!!」

僕の想いを菜摘さんの耳元に吹き込んだ。

そして彼女が期待していたであろう位置に、敢えて強めに手を移した。

今までで一番大きな声と共に、僕の指先が一瞬で愛に塗れる。

まるでしばらく焦らされ泣いていたかのよう。

僕はそんな涙を一滴も残らず手で掬うべく、愛の全てを右手にかけて、彼女が感じ、反応し、そして果てるまでひたすら動かし続けた。
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