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菜摘さんは、何度も僕のせいで泣いた。

だけどその涙は、ものすごい勢いで、まるで僕への愛を返すかのように僕の顔や体に向かって溢れてきた。

僕はそれを浴びる度に、彼女の恍惚とした表情と相まって、自分もまた夢心地のようにフワフワとした気持ちになった。


あの菜摘さんが、僕の行為によってこんなにも激しく乱れている……。

そう思うと、より一層彼女への愛撫は止められなかった。

そして彼女を果てさせる度に感じる一種の自信に似たような満足感が、また僕を虜にさせた。


「……菜摘さん……もう僕、我慢できないよ……」

「我慢なんて……しないで頂戴……」

菜摘さんの言葉を合図にするかのように、僕は自分の昂ぶりをもう抑えることをしなかった。

「……っ菜摘さん……」

「ああっ隼くん!」

泣きじゃくっているかのように震えが止まらない菜摘さんに、僕は自分でも感じるくらい熱くなった脈を思い切り打ち付けた。


僕はつい1ヶ月ほど前まで、こんな行為を知らなかった。

自分の体がこんな風になることも、菜摘さんがこんな風になることも、そして2人が繋がればどうなるかということも……

何も知らなかった。

だけど……


「あっ!……隼くんっ……」

「ごめん菜摘さん……勝手に動いちゃって…」

「いいの。止めないで……思う存分動いてっ…!」


自分の意志なのかも分からないくらいの速度で、僕は菜摘さんに受け入れられた途端に体を揺すっていた。

菜摘さんを見る度に、触れる度に、感じる度に…

僕は自分の成長を認識せざるを得なかった。

無縁だと思っていたけど、ずっと先の話だと思っていたけど、菜摘さんと……好きな人と体を重ね合わせることが、こんなにも幸せで満たされるものだとは……


だけどこんなことを考えている余裕も、次第に失われていく。

「……菜摘さんっ……!」

僕はいつもの癖のように、快楽で思考が閉ざされると愛して溢れる気持ちをぶつけるかのように菜摘さんの名前を呼ぶことしかできない。

「隼くんっ……」

二人の切羽詰まった声と吐息が乱れ合う。

体温と摩擦が産み落とす湯気が出るような熱気に包まれながら、僕と菜摘さんはひたすらに動く。

そして限界を迎えた二人は、愛の絶頂に共に放り出される。

まるで空を旅する浮遊感の直後に手繰り合いながらゆっくりと地上へと戻ってくる。


息を整える音だけが響き、細やかな余韻から抜け出せずにいる。

僕の全てを菜摘さんに注ぎ、そして菜摘さんは全てを受け入れ、吸い上げてくれる。

そんな幸せはもちろんのこと、僕は初めて自分から菜摘さんに己の気持ちをぶつけたことにもまた、これまでにない満足感を得た。

僕は、菜摘さんを何度も感じさせた。

菜摘さんが、僕で感じ、僕で果ててくれた…。

そんな初めての経験が、僕にとっては本当に大切なものになった。

あの美しくて優しい大好きな菜摘さんが僕に満足してくれていることが、伝わってきたから…。

これまで心のどこかに感じていた自信の無さや不甲斐なさが、少しは軽減されたような気がしていた。
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