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確かに僕は、菜摘さんのことが大好きだから彼女の言葉を全て信じようとしているのかもしれない。

そしてもし彼女の言葉に嘘があったら、その時自分がどんなに傷つきショックを受けるだろうか。

そんなことを考えたくすらないのだ。

更に、彼女が僕に向かって嘘をつくような人だということが発覚することが…何よりも悲しくて辛いのだと思う。

だからその可能性を頭ごなしに考えずにいたという指摘は、あながち間違いではないのである。


「ねえ隼くん…。もし、好きな人が自分の思うような人じゃなかった時…自分を傷つけるような人だった時…自分はどう思いどんな行動を取るだろう?って、考えたこともないでしょう?」


何も言えずにいる僕を、昭恵さんは下から嘲笑の色が込もった目で見上げる。

どこか挑戦的なその目は、僕の心に嫌なまとわり付き方をする。

「そんなことをはじめから考えるなんて、恋って言えるのかな……」


今度は僕が昭恵さんの目を見ることができずに俯いて力なく呟く。

何の説得力も持たない弱々しい僕の自説が、二人の間に流れる妙な空気に晒し上げられているかのように響いた。

「疑って終わり、じゃ恋ではなくてそれこそ偶像崇拝に過ぎないわよ。疑った先に、傷つけられた先にどんな気持ちを持つか…それにかかってるんじゃない?」

この言葉に僕は思わず顔を上げた。

「…私だって、菜摘さんを妬んで隼くんにこんなことを言ってるんじゃないわよ。隼くんに諦めて欲しくて意地悪してるんじゃないの。…むしろ、隼くんには幸せになってほしいから…だからこそこんな話をしているのよ。…分かる?」



僕はただ頷くしかできなかった。
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