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「私に…私に話しかけないでよ。あんたとなんか一緒に歩きたくないっての…」
 
彼女の鋭い視線と共に発せられる言葉に、僕は一瞬驚いて体が固まってしまった。
 
まさか彼女から、そんなにも嫌悪の念を抱かれていたなんて思わなかったからだ。
 
「ごめん…そうだよね…」
 
だけど渚さんの言葉通り、確かにいじめられている僕と一緒に歩いているところを見られたら、彼女も何か言われるかもしれない。
 
渚さんは大人しい方だから、もし田中君たちに何かされても言い返せないかもしれない。
 
そうなったら僕のせいだ…。
 
今になってそんなことに気づき、無意識のうちに渚さんに謝っていた。
 
だけど彼女はまだ怒りが収まらないのか、肩を震わせながらこっちを見ている。
 
そして…
 
「だいたい…あんたなんかに何ができるの?一緒にいたときに何かがあったところで…何してくれるの?あんたなんか……教室では一番弱いくせに……」
 
 
閃光と言っていいほどの強く鋭い言葉が、僕の全身に一瞬にして突き刺さった。
 
まるで頭を鈍器で殴られたかのような衝撃と、じわじわと胸に広がる羞恥心が、僕の視界を歪ませた。
 
本当に彼女の言う通りだ。
 
僕は、教室では誰よりも弱いんだ。
 
昭恵さんの事件の濡れ衣を着せられても、田中くんたちにひどいことを言われても、何も言わずにただその瞬間が過ぎ去るのを待っている。
 
いじめなんて一過性のもので、その場の感情で起こるものだから、僕が我慢すればそれでいい…
 
そう思って、本質から目を背けて逃げ続けているだけの僕は、間違いなく教室で一番弱い…
 
泣きそうな顔の渚さんを見て、僕も涙が出そうになった。
 
それを必死に押さえるように、僕は力ない声で何度も「そうだね、ごめん。」と繰り返した。
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