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「おい!隼じゃん~お前なにしてんの?」

突然後ろから声がした。

振り返ると、そこには田中くんが立っていた。

「田中くん……」

僕と渚さんの声が重なった。


「え?もしかして隼が渚のことナンパしてんの?きっしょいわぁ…」

「違うよ……」

「でも渚泣きそうじゃん。隼がしつこくしたんじゃねーの?」

「これは…その…」

「おい渚!こいつにはハッキリ嫌って言わねーと、昭恵みたいになるぞ。女子にしつこくしてるからこいつ嫌われてんじゃん。」


僕と渚さんの様子を交互に見ながら、田中くんはまくし立てるようにして言い切る。

そんなはっきりとした態度のせいで、渚さんも頷きながら田中くんの言うことを信じているような顔をしている。

昭恵さんの事件に関しては、事あるごとにこうして引き合いに出されている。

その度に僕は否定しているが、今回も否定したところで、余計に僕が渚さんをしつこく連れたそうとしたという話にされてしまいそうな雰囲気を感じた。

「……じゃあ、田中くんは渚さんと一緒に帰ってあげて。僕は渚さんが持ってる荷物を学校に運ぶから。」

微妙な空気を打ち破るように、僕は渚さんの手からぶら下げられていた買い物袋を受け取った。

「僕は学校に用事があったんだ。だから学校に向かってたんだよ。そしたらその途中で渚さんに会って…帰る頃には暗くなってるし最近不審者も多いし、心配だったから一緒に帰ろうと思ってたけど…田中くんが来てくれたなら安心だね。僕はこれを持って学校に行くから…渚さんと一緒に帰ってあげてね。」

誤解を解きたいという気持ちと、少しでも早くこの場から離れたいという気持ちから、僕は早口で二人にそう言った。

「…きっしょ…なにイキってんだよ。」

僕の言葉を聞いた田中くんは、蔑むような目を向けてきた。

「お前に言われなくても渚と帰るっつーの!お前より俺の方が絶対役に立つしな!」

「うん。渚さん、田中くんの方が僕と帰るよりも安心だよね?」

「う、うん……」

「あたりめーだろボケ。ほら、行くぞ渚。こいつと話してるとキモさがうつる。」


吐き捨てるように言た田中くんは、渚さんの手を引いて僕と反対方向へと向かった。

渚さんは何か言いたげにこちらを見ていたけど、田中くんの目を気にしたのか、すぐに僕から目を逸らしてしまった。
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