その男、人の人生を狂わせるので注意が必要

いちごみるく

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1人目:ヤサグレ男の話

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「………とまあ、こんな感じであの日は解散したんだけど?」

「そうか。では君は、何故その『次』が来なかったかを把握しているのかい?」

三畳くらいしかなさそうな狭い個室に刑事と俺が対面で座る。

ドアは開放されていて、もう一人の刑事が俺らのやり取りを見ている。


「まあ………見てたやつにチクられたんだろ?そんで学校に連絡行ったって」

「まあ、そうだな。そして防犯カメラを見てみたら、彼を連行する君たちがバッチリ映っていた」

「はぁ………ったく。ダリィな…」



あれから数日後、何度駅に行ってもあのガキは現れず、そうしてるうちに俺らは全員逮捕された。


あのガキがチクったのかと思いきや、目撃者がガキの制服を見て学校を特定して連絡を入れていたらしかった。

で、映像を確認したら俺らとあのガキが映っていて見事犯罪確定ってわけになっちまった。

そんで一人一人取り調べを受けており、俺も今、その真っ最中って言うわけだ。


「君たちね、他の女性にも余罪があるみたいじゃないか。いつかはこうなるって思わなかったのか?」


「さあな。女共連れ込んでる時は周りも黙り決め込んでたくせに、あのガキの場合にゃすぐに通報されるって……あの駅の奴らも所詮俺らと同類だろ」

「どういう意味だ?」

「それはあんたもわかってるっしょ」



俺は逮捕されたことやもうあの仲間と簡単に会えないことを悔やんだり反省したりはしていない。


今俺の頭の中を支配しているのは………


「なあ刑事さん、俺もうあのガキに会えねえの?」


「会えるわけなかろう」

あのガキについて、もっと知りたかった。

普段はどんな奴なのか。

中学生の癖になぜあんなにも、身体が出来上がっているのか。

最初の頃に俺らに向けた純真な瞳と無垢な人助けと、最後に会った日に見せつけてきた乱れたあいつは、どっちが本物なのか。

正直あいつに会えなくなった次の日から、それしか頭になかった。


「へえ。あんたたちは毎日のように会ってんのにね、職権乱用しやがってな」

「なにが職権乱用だ。大事な事情聴取だ」

「ハハッ!とっくに聴取なんて終わってんだろーに。やっぱり同類っすよ…俺らとあんたは」

「訳の分からないことを言うな。自分の立場が分かっているのか?」

「立場をわかったほうがいいのはあんただろーが。……ま、あんたらの場合、立場を弁えて程々にってやつだな」


俺は目の前の刑事の胸ポケットから一瞬だけ見えた写真を睨めながら言う。


俺の目線に気づいたこのクソ刑事は胸ポケットを手で隠す。



このクソオヤジは、警察官という役職を盾に、あのガキとこれからも何度も会えるんだと思うと、俺の中には言いようのない嫉妬が渦巻いていた。


「なあ刑事さん。俺ら、少年法でどうせぶち込まれたりはしないんだろ?だったらさ、またあのガキとっ捕まえて同じことするかもよ?」

「そんなことさせるわけないだろ。」

「じゃーさ、そのポッケにあるやつ、俺にもちょーだいよ。そしたらもう再犯なんてしないからさ」


俺がそう言うと、目の前のクソ刑事は再び胸ポケットに手を当てる。

「これは、この事件の大事な資料だ。渡すわけがない」

「へー、じゃあまた同じ事件起こしてもいいんだ?」

「そんなことさせるか。…なんでそんなにこれを欲しがるんだ。」

「なんでだろーねえー………」


クソ刑事の胸ポケットには、あのガキの顔写真が入っていた。

いくら担当刑事でも、普通はそんなものを持ち歩いたりはしない。


きっとこの刑事も、あのガキに対して俺と同じような感情を抱いているに違いなかった。


「ま、あんたらが俺やあのガキの証言を聞いて、その写真見て何してるのかなんて、俺たちゃ見通しだってんだよ」

やっぱり図星だったのか、これまで眉一つ動かさなかった刑事は一瞬表情を崩していた。

「これ以上バカなことを言うな。捜査に必要のない話をすると罪が重なっていくぞ」


そんなことを言い取り繕う刑事の後ろには、ずっと俺らのやり取りを監視しているもう一人の刑事がいる。

けどその刑事も、さっき俺が目の前の刑事に放った言葉を聞いた途端、顔を赤らめたのを俺は見逃さなかった。


(結局どいつもこいつも、俺らと変わんねー人間なんだよ)


そう思えたことに少しだけ安心したのは間違いない。


どこのガキかも知らねーあいつに、しかも男のあいつに、こんなにも頭の中を支配されているという事実が少し不思議だったから。

俺もついに変な趣味へと走ってしまったかと思ったが、俺が変なんじゃなくてあいつが変なんだ。

刑事みたいな立場の人間も、あいつの前にしては欲望剥き出しな俺らと同等に成り下がる。


俺はそれでもあの末恐ろしいガキと再会することを、心のどこかで諦めていなかった。
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