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1、始まりの逃避とウサギの国での活劇
ロボット、餌をやる
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近づいてくる地響きに比例してロイズの鼓動も高まっていた。本心を言えば、あいつと協同戦線を張れればもっと楽で楽しいのだが、と考えてしまった自分に呆れる。
昔会っている事をあいつに気付かせる前に、記憶を戻す前に失ってしまった。
あの時もそうだ。せっかく蟠りがなくなって普通に過ごせるようになった途端、世界の崩壊。ようやく見つけたと思ったら、今度はあいつの記憶がないときた。それでも側で自然に世間話ができる仲までに復活できた。
それをまた傍から奪われて、ようやく取り戻せたかと思ったら再度記憶を失っており、ようやく元に戻りかけたかと思ったら、別離宣言され、コネを駆使して平穏に戻れてやれやれと安心しかけた途端、今回の死別・・・・体は星の中心に呑まれ、最後に触れることすら敵わなかった魂は今頃死神に狩られているだろう。
もう取り戻せない。絶対許さない。許すつもりなど素粒子程もない。
だが、この戦いにて主となりうるのは王国の問題だ。奴と最初に戦う権利があるのは誰がどう見てもイスカである。王族であり現第1位王位継承者である者との対決を敵も望んでいるはず。イスカが倒れない限り自分に権利が回ってくることはないだろう。お国騒動など面倒なだけである。
掌に生み出した黒い石を地面に投げる。触れた地面に吸い込まれた石から魔法陣が現れた。お世辞にも神々しいとは言えない禍々しい魔法陣の奥底から動物の呻き声が聞こえてくる。
「我が名の元に、出て来い 魔界の犬よ」
魔法陣内の地面が歪み、16匹の犬が姿を現した。狩りに特化した体形。血に飢えた眼をした全身黒の大型犬で、その口からは3日月に似た鋭利な牙がのぞく。罠の街並みを生き延びてきた賊がその場で止まる。彼らを一瞥するとロイズは不敵な笑みを湛えて言った。
「行け」
それは冷たい1言だった。魔犬にとっては“ご飯 ”の合図。賊にとっては死亡宣告。歓喜と悲鳴が混じり合う中、ロイズはゆっくりと足を進めた。召喚した魔犬のうち最も大きな個体が攻撃を止め、彼に追従する。血の色をした魔犬の瞳には主の怒りとも悲しみとも表現しがたい表情が映る。言葉を発せたとしても何も言うことができない、いや言わせない目だ。
正面から向かってきた賊をまとめて殴り飛ばしたロイズは気を固めると双方に放つ。黒い雷が人と建物、魔犬をも区別することなく破壊していく。前方から再び襲ってきた賊に今度は衝撃波を放つ。吹き飛んだ集団は同じく吹き飛んだ家並み1並び分の瓦礫の中へと埋もれた。
「弱ぇ~」
戦闘開始5分後にて、ロイズが最初に漏らした敵への感想だった。特殊クラスで如何に通常の魔法使いと異なる力の持ち主とはいえ、自分達は学生である。人数だって圧倒的な差がある。この国に兵隊がほとんどいないと言っていたが、今回闘っているのは学生2人だけ。魔犬の奮闘だとしてもそう数は出してない。
なのになんだ、この異常なまでの善戦状態は。仮にも国の乗っ取ろうとしている集団とは思えない脆弱ぶりにロイズは呆れを通り過ぎて疑問を抱き始めた。
「どう見ても、軍として最低限の統率すら取れてない。これではまるで・・・・・・」
脳裏に浮かんだ考えにロイズは頷いた。そう考えるのが自然、しっくりくる。
指笛を吹くとそれまで本能のまま賊を殺していた魔犬たちが即座にロイズを中心とした円陣を組み、命令を待つ態勢を取った。
「この街に生きた女の匂いを感じたら即教えろ。物に残っている匂いは別だ。よし、行け!」
駆け出し4方に消えた魔犬に賊が喜ぶ。その顔を見てロイズは鼻で笑った。
「結果が出るまでの暇つぶし。付き合ってもらうぜ」
漆黒の気を全身から発し、不敵な笑みでボキボキと指を鳴らすロイズに盗賊たちの気は飲み込まれた。
続く
昔会っている事をあいつに気付かせる前に、記憶を戻す前に失ってしまった。
あの時もそうだ。せっかく蟠りがなくなって普通に過ごせるようになった途端、世界の崩壊。ようやく見つけたと思ったら、今度はあいつの記憶がないときた。それでも側で自然に世間話ができる仲までに復活できた。
それをまた傍から奪われて、ようやく取り戻せたかと思ったら再度記憶を失っており、ようやく元に戻りかけたかと思ったら、別離宣言され、コネを駆使して平穏に戻れてやれやれと安心しかけた途端、今回の死別・・・・体は星の中心に呑まれ、最後に触れることすら敵わなかった魂は今頃死神に狩られているだろう。
もう取り戻せない。絶対許さない。許すつもりなど素粒子程もない。
だが、この戦いにて主となりうるのは王国の問題だ。奴と最初に戦う権利があるのは誰がどう見てもイスカである。王族であり現第1位王位継承者である者との対決を敵も望んでいるはず。イスカが倒れない限り自分に権利が回ってくることはないだろう。お国騒動など面倒なだけである。
掌に生み出した黒い石を地面に投げる。触れた地面に吸い込まれた石から魔法陣が現れた。お世辞にも神々しいとは言えない禍々しい魔法陣の奥底から動物の呻き声が聞こえてくる。
「我が名の元に、出て来い 魔界の犬よ」
魔法陣内の地面が歪み、16匹の犬が姿を現した。狩りに特化した体形。血に飢えた眼をした全身黒の大型犬で、その口からは3日月に似た鋭利な牙がのぞく。罠の街並みを生き延びてきた賊がその場で止まる。彼らを一瞥するとロイズは不敵な笑みを湛えて言った。
「行け」
それは冷たい1言だった。魔犬にとっては“ご飯 ”の合図。賊にとっては死亡宣告。歓喜と悲鳴が混じり合う中、ロイズはゆっくりと足を進めた。召喚した魔犬のうち最も大きな個体が攻撃を止め、彼に追従する。血の色をした魔犬の瞳には主の怒りとも悲しみとも表現しがたい表情が映る。言葉を発せたとしても何も言うことができない、いや言わせない目だ。
正面から向かってきた賊をまとめて殴り飛ばしたロイズは気を固めると双方に放つ。黒い雷が人と建物、魔犬をも区別することなく破壊していく。前方から再び襲ってきた賊に今度は衝撃波を放つ。吹き飛んだ集団は同じく吹き飛んだ家並み1並び分の瓦礫の中へと埋もれた。
「弱ぇ~」
戦闘開始5分後にて、ロイズが最初に漏らした敵への感想だった。特殊クラスで如何に通常の魔法使いと異なる力の持ち主とはいえ、自分達は学生である。人数だって圧倒的な差がある。この国に兵隊がほとんどいないと言っていたが、今回闘っているのは学生2人だけ。魔犬の奮闘だとしてもそう数は出してない。
なのになんだ、この異常なまでの善戦状態は。仮にも国の乗っ取ろうとしている集団とは思えない脆弱ぶりにロイズは呆れを通り過ぎて疑問を抱き始めた。
「どう見ても、軍として最低限の統率すら取れてない。これではまるで・・・・・・」
脳裏に浮かんだ考えにロイズは頷いた。そう考えるのが自然、しっくりくる。
指笛を吹くとそれまで本能のまま賊を殺していた魔犬たちが即座にロイズを中心とした円陣を組み、命令を待つ態勢を取った。
「この街に生きた女の匂いを感じたら即教えろ。物に残っている匂いは別だ。よし、行け!」
駆け出し4方に消えた魔犬に賊が喜ぶ。その顔を見てロイズは鼻で笑った。
「結果が出るまでの暇つぶし。付き合ってもらうぜ」
漆黒の気を全身から発し、不敵な笑みでボキボキと指を鳴らすロイズに盗賊たちの気は飲み込まれた。
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