異世界の学園にて学園生活を謳歌するはずだった

１、始まりの逃避とウサギの国での活劇

ウサギ、剣を否定する

　魔獣の集団に当たったイスカはイライラをぶつけていた。炎を宿した拳で次々に殴り倒し、蹴り飛ばし、掴んで地面に叩きつける。その１撃１撃が力強く、魔獣がぶつかった岩や地面には必ず大きな蜘蛛の巣状のヒビが走り、壁一枚だと簡単に貫通し、魔獣は黒い霧となって消えていく。炎を操りながら唱えた魔法フレイムブラストを放ち、辺りを一掃する。魔法発動後の隙を狙って横から飛んできた魔獣を魔導歌無しの火炎で焼失させた。
「ちょっと、投げるんだったら、撲と気絶効果付きの岩にしなさいよ」
「瘴気と噛み付き効果付きだ。文句ねーだろう」
「あるわよ！」
ビシッとザリアを指さしてイスカは言った。
「レイカを攫い、友であるロンを殺した」
大きく息を吸うと手で空を切る。
「攫っただけなら取り返す際に１撃ＫＯ拳→蹴りでの打ち上げ→パールドライバーのコンボで許したけど、ロンを殺したのは絶対に許せない。いや、誰がなんと言おうと許すつもりはない。それがお祖父ちゃんの兄であっても！」
イスカの体からマグマより赤い気が噴火する。怒りによるオバーソウル、気の大放出だ。
「その行い、万死に値する！」
一気に距離を詰めた拳の１撃をザリアは大剣を盾に防ぐ。衝撃が剣を震わせ、イスカの拳が振り切った時、ザリアは防いだ構えのまま後退させられる。それだけイスカの力は強かった。地面を蹴って即距離を縮め、今度は大剣に飛び蹴りを喰らわせる。対空のまま素早く態勢を変え、もう１度大剣に向けて拳の一撃。最初の蹴りでヒビの入った大剣がイスカのパンチに耐えられるはずなく、音をたてて２つに割れた。
「くそ、これだから安物は」
安物だからではない。基地の武器庫にあった武器にはロンがキッチリ細工を施していた。数回衝撃を受けると使用不可になるように。
「剣なんかに頼るからよ。男なら拳で来いや！」
「ち、馬鹿力めっ」
剣の残りを捨てるとザリアは頭を掻きながら呟く。声が大きいので呟きに聞こえない。
「だいたい、おまえ何もんだ。予め雇った探偵の話では現第１王位継承者ってことだったぞ。確かに名前は同じだが、話では男だったはずだ」
その言葉を聞いてイスカは腹の底から笑った。暑中見舞いとか送っていた頃があったのかと。さすがの女王様もこのことを書くのは気が引けたようだ。
「男だぜ。今もな」
口の端を吊り上げ笑うとイスカは大きく跳んだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く