70 / 118
1、始まりの逃避とウサギの国での活劇
カメ、頭を隠す
しおりを挟む
サザエガルドは頭を抱えてしばらくぶつくさ言っていたが、考えが纏ったのか急に静かになる。伏せているので表情は見えない(見えたとしても魔族の表情などレイカにわかるはずがない)が、レイカは自分の頬を汗がつたうのを感じた。暑さのせいだと思いたいのだが、強力な火属性であるこの身はマグマ程度の暑さなど感じない身体となっている。なので、これは嫌な予感からくる汗だ。
「・・・貴様のせいか」
「へ?うちどすか?」
「貴様が我が領主様を誑かしたのだ!」
そんな暇などなかったし、あっても男性恐怖症のレイカがそんな高度テクニックなど持ち合わせているはずがない。
そう伝える前に怒りに燃えた魔族が突っ込んでくる。
立派な剣と鎧を装備しているし力も上がってはいるのだが、レイカ自身に剣士に必要な戦闘スキルはないに等しい。つまり、宝の持ち腐れ状態なのだ。さらに、扇もない。まさしく絶体絶命。
戦でやってはならないことに迫ってくる敵を恐れて目を瞑るというのがあるが、そんな訓練を受けていないレイカには無理な話だった。
「キャァッ!」
目を瞑り悲鳴を上げてその場にしゃがみこんでしまった。良くないどころではない。動かない的と化してしまった。
「まったく、領主様を甦らせるどころかその力を自分のものとしてしまうとは。ガキだと思って侮っていましたよ。さすが、神様の器と大層な名前がついているだけの事はあります。大した泥棒猫ですねぇ」
刃と化した触手がレイカの真上から振り下ろされ、
キィィーン
乾いた音が封印の間に響いた。金属と金属がぶつかり合う音。2つの力が衝突する。飛んできた4つの刃が並んだ小さな飛び道具が触手を弾き飛ばした。
その様子をボンヤリ見上げていると突如横から衝撃を受けた。咄嗟に身を丸め、衝撃を減らす。
レイカが落ちたそばに全身を黒い布で覆った人が下り立った。先程の飛び道具に見覚えがあったが、この人の格好で全て説明がついた。あれは故郷の忍びが使用していた忍具の1つ、四方手裏剣だ。
「何者ですか。この神聖な場所で無粋ですよ。顔を隠したちびっ子ちゃん。人に見せられないほど醜い顔をしているのでしょうね」
「そんなことあらしまへん。あなたの価値観がひん曲がっているだけどすぇ」
彼の横に立つ。ほとんど反射運動だった。
不思議だ。この人の横に立つとなんか安心する。レイカにとってイスカの横が元気の元だとしたら、この人の場合は落ち着く場所だ。そう、あの場所。
でも、それは奇跡としか言い表せない。
「それにこの人が醜かったら世にいる男子の大半は不細工にならはるなぁ。髪整えさえしてくれればとても綺麗な方どすえ」
鎌をかけた。そうであることを願って。
「・・・そうなのか?」
帰ってきた黒尽くめの声はレイカの求めた中性的な声だった。それにこの人、気が湧き出ていない。目の前に体を現したのだから気を隠す必要はない。答えは簡単、通常時でも気を出せないのだ。
「そうどす。けど、何で覆面なんかしてるんどすか?暑くて蒸れへん?」
「・・・特に暑さは感じない。怪我は?」
素っ気無い口調。間違いない。約束どおり帰ってきてくれた。
「・・・平気どす」
蹴られた脇腹が・・・・助けてもらったことには変わりないので痛いとはさすがに言い辛かった。
「おやおや、またそちらの味方ですか。本当に1人いれば30人湧いて出るとは本当ですね。迷惑な害虫だ」
家は絶えず綺麗にしているので本物は見たことがないが、あのGと一緒くたにしないでほしいと思うレイカだった。
「・・・害をなしているのはそなたの方」
その1言に魔族の動きが止まった。
「・・・護りの神子導きの神子両者の了解を得ずに時空の歪を通って、もしくは自力で時流壁を越えて他界へ行くことまでは禁忌とされていない。中には自然発生した時空の歪に巻き込まれて自分の意思ではなくとも行ってしまう人もいる」
「だから、それがなんだって言うんですか?自力で時流壁を越える方法を考え出したから特別プレゼントでも貰えるのでしょうかね?」
「・・・プレゼント。贈り物のこと」
「そうそう、つまらない物なら即捨ててしまうでしょうけど」
「・・・手紙なら預かっている」
懐から取り出された白い封筒に一同は注目した。
しかし、レイカの視線はその手のほうに釘付けになる。その細い指が綺麗な音楽を奏でてくれたのはつい此間だった。
でも、それは持ち主と共に炎の沼に沈んでもういない。いないのだ。自分が殺したも同然の・・・・・・無意識に彼がそうであってほしいと願ってしまったのは罪だろうか?
続く
「・・・貴様のせいか」
「へ?うちどすか?」
「貴様が我が領主様を誑かしたのだ!」
そんな暇などなかったし、あっても男性恐怖症のレイカがそんな高度テクニックなど持ち合わせているはずがない。
そう伝える前に怒りに燃えた魔族が突っ込んでくる。
立派な剣と鎧を装備しているし力も上がってはいるのだが、レイカ自身に剣士に必要な戦闘スキルはないに等しい。つまり、宝の持ち腐れ状態なのだ。さらに、扇もない。まさしく絶体絶命。
戦でやってはならないことに迫ってくる敵を恐れて目を瞑るというのがあるが、そんな訓練を受けていないレイカには無理な話だった。
「キャァッ!」
目を瞑り悲鳴を上げてその場にしゃがみこんでしまった。良くないどころではない。動かない的と化してしまった。
「まったく、領主様を甦らせるどころかその力を自分のものとしてしまうとは。ガキだと思って侮っていましたよ。さすが、神様の器と大層な名前がついているだけの事はあります。大した泥棒猫ですねぇ」
刃と化した触手がレイカの真上から振り下ろされ、
キィィーン
乾いた音が封印の間に響いた。金属と金属がぶつかり合う音。2つの力が衝突する。飛んできた4つの刃が並んだ小さな飛び道具が触手を弾き飛ばした。
その様子をボンヤリ見上げていると突如横から衝撃を受けた。咄嗟に身を丸め、衝撃を減らす。
レイカが落ちたそばに全身を黒い布で覆った人が下り立った。先程の飛び道具に見覚えがあったが、この人の格好で全て説明がついた。あれは故郷の忍びが使用していた忍具の1つ、四方手裏剣だ。
「何者ですか。この神聖な場所で無粋ですよ。顔を隠したちびっ子ちゃん。人に見せられないほど醜い顔をしているのでしょうね」
「そんなことあらしまへん。あなたの価値観がひん曲がっているだけどすぇ」
彼の横に立つ。ほとんど反射運動だった。
不思議だ。この人の横に立つとなんか安心する。レイカにとってイスカの横が元気の元だとしたら、この人の場合は落ち着く場所だ。そう、あの場所。
でも、それは奇跡としか言い表せない。
「それにこの人が醜かったら世にいる男子の大半は不細工にならはるなぁ。髪整えさえしてくれればとても綺麗な方どすえ」
鎌をかけた。そうであることを願って。
「・・・そうなのか?」
帰ってきた黒尽くめの声はレイカの求めた中性的な声だった。それにこの人、気が湧き出ていない。目の前に体を現したのだから気を隠す必要はない。答えは簡単、通常時でも気を出せないのだ。
「そうどす。けど、何で覆面なんかしてるんどすか?暑くて蒸れへん?」
「・・・特に暑さは感じない。怪我は?」
素っ気無い口調。間違いない。約束どおり帰ってきてくれた。
「・・・平気どす」
蹴られた脇腹が・・・・助けてもらったことには変わりないので痛いとはさすがに言い辛かった。
「おやおや、またそちらの味方ですか。本当に1人いれば30人湧いて出るとは本当ですね。迷惑な害虫だ」
家は絶えず綺麗にしているので本物は見たことがないが、あのGと一緒くたにしないでほしいと思うレイカだった。
「・・・害をなしているのはそなたの方」
その1言に魔族の動きが止まった。
「・・・護りの神子導きの神子両者の了解を得ずに時空の歪を通って、もしくは自力で時流壁を越えて他界へ行くことまでは禁忌とされていない。中には自然発生した時空の歪に巻き込まれて自分の意思ではなくとも行ってしまう人もいる」
「だから、それがなんだって言うんですか?自力で時流壁を越える方法を考え出したから特別プレゼントでも貰えるのでしょうかね?」
「・・・プレゼント。贈り物のこと」
「そうそう、つまらない物なら即捨ててしまうでしょうけど」
「・・・手紙なら預かっている」
懐から取り出された白い封筒に一同は注目した。
しかし、レイカの視線はその手のほうに釘付けになる。その細い指が綺麗な音楽を奏でてくれたのはつい此間だった。
でも、それは持ち主と共に炎の沼に沈んでもういない。いないのだ。自分が殺したも同然の・・・・・・無意識に彼がそうであってほしいと願ってしまったのは罪だろうか?
続く
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。
選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。
だが、ある日突然――運命は動き出す。
フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。
「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。
死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。
この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。
孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。
リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。
そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる