異世界の学園にて学園生活を謳歌するはずだった

シロ

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1、始まりの逃避とウサギの国での活劇

カメ、頭を隠す

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 サザエガルドは頭を抱えてしばらくぶつくさ言っていたが、考えが纏ったのか急に静かになる。伏せているので表情は見えない(見えたとしても魔族の表情などレイカにわかるはずがない)が、レイカは自分の頬を汗がつたうのを感じた。暑さのせいだと思いたいのだが、強力な火属性であるこの身はマグマ程度の暑さなど感じない身体となっている。なので、これは嫌な予感からくる汗だ。
「・・・貴様のせいか」
「へ?うちどすか?」
「貴様が我が領主様を誑かしたのだ!」
そんな暇などなかったし、あっても男性恐怖症のレイカがそんな高度テクニックなど持ち合わせているはずがない。
そう伝える前に怒りに燃えた魔族が突っ込んでくる。
立派な剣と鎧を装備しているし力も上がってはいるのだが、レイカ自身に剣士に必要な戦闘スキルはないに等しい。つまり、宝の持ち腐れ状態なのだ。さらに、扇もない。まさしく絶体絶命。
戦でやってはならないことに迫ってくる敵を恐れて目を瞑るというのがあるが、そんな訓練を受けていないレイカには無理な話だった。
「キャァッ!」
目を瞑り悲鳴を上げてその場にしゃがみこんでしまった。良くないどころではない。動かない的と化してしまった。
「まったく、領主様を甦らせるどころかその力を自分のものとしてしまうとは。ガキだと思って侮っていましたよ。さすが、神様の器と大層な名前がついているだけの事はあります。大した泥棒猫ですねぇ」
刃と化した触手がレイカの真上から振り下ろされ、
キィィーン
乾いた音が封印の間に響いた。金属と金属がぶつかり合う音。2つの力が衝突する。飛んできた4つの刃が並んだ小さな飛び道具が触手を弾き飛ばした。
その様子をボンヤリ見上げていると突如横から衝撃を受けた。咄嗟に身を丸め、衝撃を減らす。
レイカが落ちたそばに全身を黒い布で覆った人が下り立った。先程の飛び道具に見覚えがあったが、この人の格好で全て説明がついた。あれは故郷の忍びが使用していた忍具の1つ、四方手裏剣だ。
「何者ですか。この神聖な場所で無粋ですよ。顔を隠したちびっ子ちゃん。人に見せられないほど醜い顔をしているのでしょうね」
「そんなことあらしまへん。あなたの価値観がひん曲がっているだけどすぇ」
彼の横に立つ。ほとんど反射運動だった。
不思議だ。この人の横に立つとなんか安心する。レイカにとってイスカの横が元気の元だとしたら、この人の場合は落ち着く場所だ。そう、あの場所。
でも、それは奇跡としか言い表せない。
「それにこの人が醜かったら世にいる男子の大半は不細工にならはるなぁ。髪整えさえしてくれればとても綺麗な方どすえ」
鎌をかけた。そうであることを願って。
「・・・そうなのか?」
帰ってきた黒尽くめの声はレイカの求めた中性的な声だった。それにこの人、気が湧き出ていない。目の前に体を現したのだから気を隠す必要はない。答えは簡単、通常時でも気を出せないのだ。
「そうどす。けど、何で覆面なんかしてるんどすか?暑くて蒸れへん?」
「・・・特に暑さは感じない。怪我は?」
 素っ気無い口調。間違いない。約束どおり帰ってきてくれた。
「・・・平気どす」
蹴られた脇腹が・・・・助けてもらったことには変わりないので痛いとはさすがに言い辛かった。
「おやおや、またそちらの味方ですか。本当に1人いれば30人湧いて出るとは本当ですね。迷惑な害虫だ」
家は絶えず綺麗にしているので本物は見たことがないが、あのGと一緒くたにしないでほしいと思うレイカだった。
「・・・害をなしているのはそなたの方」
その1言に魔族の動きが止まった。
「・・・護りの神子導きの神子両者の了解を得ずに時空の歪を通って、もしくは自力で時流壁を越えて他界へ行くことまでは禁忌とされていない。中には自然発生した時空の歪に巻き込まれて自分の意思ではなくとも行ってしまう人もいる」
「だから、それがなんだって言うんですか?自力で時流壁を越える方法を考え出したから特別プレゼントでも貰えるのでしょうかね?」
「・・・プレゼント。贈り物のこと」
「そうそう、つまらない物なら即捨ててしまうでしょうけど」
「・・・手紙なら預かっている」
懐から取り出された白い封筒に一同は注目した。
しかし、レイカの視線はその手のほうに釘付けになる。その細い指が綺麗な音楽を奏でてくれたのはつい此間だった。
でも、それは持ち主と共に炎の沼に沈んでもういない。いないのだ。自分が殺したも同然の・・・・・・無意識に彼がそうであってほしいと願ってしまったのは罪だろうか?


                           続く
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