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1、始まりの逃避とウサギの国での活劇
カラスの御庭番
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「パーティーへの招待状ですか?それとも、味方になってくれる人からとか?」
レイカとは違って随分ポジティブな発想である。
「・・・時流壁の監視者から。あなたの行為が行き過ぎたため阻止命令が出ました」
黒尽くめは黒尽くめで淡々と言葉を話している。
「・・・ただちに、軍を撤退し本国への帰還を命じる。私的にも公的にも大人しく帰国することを希望する」
「まさか、きさま。庭番か!?」
レイカもその存在だけは監視者の1人である従姉から聞いたことがあった。たしか、監視者が見張り兼修正役なら庭番は現場に出向き、当人の無事を確認したり生活支援物質を届けたり違法者の取締りを行なったりする人。時流を渡っていかなければならないため、時流の流れに影響しない、または影響の少ない者が担当する。もちろん、それ相応の実力がなくてはならない。取り締まるということはサザエガルドみたいな奴との戦闘も仕事に入る。
「神の左手。くっ、もうばれていたとは」
「・・・仕事が入ったのはつい先刻。普段なら公私混合はしないよう心掛けているのだが」
ゆっくりと覆面を解いていく。銀の髪が背に流れる。無造作に伸びた髪の奥に見える深い海色の瞳が恐ろしく冷たい。
現れた顔にサザエガルドの表情が強張る。
「・・・今回は友達の救出を最優先にできる許可を得ることができた」
小さな音がして細い金の鎖が腕から落ちる。
「まさか、あなたが。実力は申し分ないようですが、確かあの時死んだはずですよね。マグマの中に落ちて」
「・・・その件に関しては彼らに悪いことをした。だが、それしかなかったのも事実」
「なかったって、何が?」
「・・・瀕死領域まで欠損した身体を戦闘できる状態に戻すためには完全に死ぬ必要があった。あの場で助けられたとしても早期回復するために人知れず自害しただろう。猶予時間内で体力気力魔力怪我を一気に回復させる最適な方法はそれしかなかった。今の技術では直接自分に回復魔法はかけられないし、薬も効かないから」
その言葉を聞いてレイカはあの時のロンの台詞を思い出した。
ロンは自分が世界の秩序から外れた存在であることを知っていた。だから、あんなことを言ったのだろう。知ってしまったからには雪山で遭難などできない。してしまったら躊躇することなく自分の身体を料理して一緒にいる人に与えそうだ。たぶん、最初は生きたまま。
想像して倒れそうになりレイカは慌てて考えるのを止めた。
「馬鹿な。そんな生物いるはずがない」
現に2人と明らかに身体構造の異なる魔族でさえ彼の言葉に狼狽していた。
「魂を収める物質体、肉体は1人に1つ。失えば終わり。たとえ精神体に近い魔族でも代わりはありません。他人のを奪う以外は。そう世界の摂理として決まっているのですから。髪と目の色が違うのですし、本人の真似をしなくてもいいのではありませんか?偽者さん」
「・・・カラーコンタクトを探す時間がなかったから髪を染めるのも諦めた」
面倒になったのね、とレイカは納得した。彼が本物なのは左腕につけた壊れたブレスレットが物語っている。あれはロンが生み出した魔晶石であり、ロイズがデザインしたこの世に4つしかないものだ。魔晶石が壊れているのはその効力がロンをあの場から助けたからだろう。
「・・・生まれた時からこの身体だった。両親も仲間も特に変だと言わなかったし、不便と感じたことはない。だが、やはりおかしいのだろうか?」
「う~ん、突然変異みたいなものかもしれへんなぁ。うちの髪や瞳、この力もそうやし」
「そうなると気になりますねぇ。両親の種族がいったいどんな化け物か」
彼の奥底に眠っていた何かのスイッチをつけてしまったようだ。レイカも知りたいと思ったが、ロンの気が一気に氷点下まで下がったのを感じ、言葉にはしなかった。
「・・・答える義理はない」
ロンにとっても大切な存在らしい。少し表情がムッとしている。
誰だって両親のことを悪く言う奴に話せるような思い出は持ち合わせていない。
しかし、それはレイカが今の自分に降りかかっている重大な問題を見て見ぬ振りする手伝いに自然となってしまっていた。
「・・・・・・冗談だったのだが」
刀を構えたままポツリと呟いたロンの1言の効力はサザエガルドをも思考を停止するのに十分足りうるものだった。
「ロンはんは真顔で言わはるからまぎらわしいわぁ」
冗談言うなど普段の彼では考えられないことだ。
「でも、うち助けてくれた時といいさっきの登場の仕方といいほんま忍者みたいどすなぁ。使っている武器も直刃の日本刀やし、服も黒装束やからやろか」
「・・・・・・」
「今度から他の人に話す時は身代わり人形を使ったって言った方がええよ。ほんまかとしてもそうそう簡単に知られてもええ秘密ちゃいますやろ」
知らされた方も対処に戸惑うこと間違いない。冗談にしては設定がしっかりしているとかなかなか芸が細かい。
「・・・了解した」
続く
レイカとは違って随分ポジティブな発想である。
「・・・時流壁の監視者から。あなたの行為が行き過ぎたため阻止命令が出ました」
黒尽くめは黒尽くめで淡々と言葉を話している。
「・・・ただちに、軍を撤退し本国への帰還を命じる。私的にも公的にも大人しく帰国することを希望する」
「まさか、きさま。庭番か!?」
レイカもその存在だけは監視者の1人である従姉から聞いたことがあった。たしか、監視者が見張り兼修正役なら庭番は現場に出向き、当人の無事を確認したり生活支援物質を届けたり違法者の取締りを行なったりする人。時流を渡っていかなければならないため、時流の流れに影響しない、または影響の少ない者が担当する。もちろん、それ相応の実力がなくてはならない。取り締まるということはサザエガルドみたいな奴との戦闘も仕事に入る。
「神の左手。くっ、もうばれていたとは」
「・・・仕事が入ったのはつい先刻。普段なら公私混合はしないよう心掛けているのだが」
ゆっくりと覆面を解いていく。銀の髪が背に流れる。無造作に伸びた髪の奥に見える深い海色の瞳が恐ろしく冷たい。
現れた顔にサザエガルドの表情が強張る。
「・・・今回は友達の救出を最優先にできる許可を得ることができた」
小さな音がして細い金の鎖が腕から落ちる。
「まさか、あなたが。実力は申し分ないようですが、確かあの時死んだはずですよね。マグマの中に落ちて」
「・・・その件に関しては彼らに悪いことをした。だが、それしかなかったのも事実」
「なかったって、何が?」
「・・・瀕死領域まで欠損した身体を戦闘できる状態に戻すためには完全に死ぬ必要があった。あの場で助けられたとしても早期回復するために人知れず自害しただろう。猶予時間内で体力気力魔力怪我を一気に回復させる最適な方法はそれしかなかった。今の技術では直接自分に回復魔法はかけられないし、薬も効かないから」
その言葉を聞いてレイカはあの時のロンの台詞を思い出した。
ロンは自分が世界の秩序から外れた存在であることを知っていた。だから、あんなことを言ったのだろう。知ってしまったからには雪山で遭難などできない。してしまったら躊躇することなく自分の身体を料理して一緒にいる人に与えそうだ。たぶん、最初は生きたまま。
想像して倒れそうになりレイカは慌てて考えるのを止めた。
「馬鹿な。そんな生物いるはずがない」
現に2人と明らかに身体構造の異なる魔族でさえ彼の言葉に狼狽していた。
「魂を収める物質体、肉体は1人に1つ。失えば終わり。たとえ精神体に近い魔族でも代わりはありません。他人のを奪う以外は。そう世界の摂理として決まっているのですから。髪と目の色が違うのですし、本人の真似をしなくてもいいのではありませんか?偽者さん」
「・・・カラーコンタクトを探す時間がなかったから髪を染めるのも諦めた」
面倒になったのね、とレイカは納得した。彼が本物なのは左腕につけた壊れたブレスレットが物語っている。あれはロンが生み出した魔晶石であり、ロイズがデザインしたこの世に4つしかないものだ。魔晶石が壊れているのはその効力がロンをあの場から助けたからだろう。
「・・・生まれた時からこの身体だった。両親も仲間も特に変だと言わなかったし、不便と感じたことはない。だが、やはりおかしいのだろうか?」
「う~ん、突然変異みたいなものかもしれへんなぁ。うちの髪や瞳、この力もそうやし」
「そうなると気になりますねぇ。両親の種族がいったいどんな化け物か」
彼の奥底に眠っていた何かのスイッチをつけてしまったようだ。レイカも知りたいと思ったが、ロンの気が一気に氷点下まで下がったのを感じ、言葉にはしなかった。
「・・・答える義理はない」
ロンにとっても大切な存在らしい。少し表情がムッとしている。
誰だって両親のことを悪く言う奴に話せるような思い出は持ち合わせていない。
しかし、それはレイカが今の自分に降りかかっている重大な問題を見て見ぬ振りする手伝いに自然となってしまっていた。
「・・・・・・冗談だったのだが」
刀を構えたままポツリと呟いたロンの1言の効力はサザエガルドをも思考を停止するのに十分足りうるものだった。
「ロンはんは真顔で言わはるからまぎらわしいわぁ」
冗談言うなど普段の彼では考えられないことだ。
「でも、うち助けてくれた時といいさっきの登場の仕方といいほんま忍者みたいどすなぁ。使っている武器も直刃の日本刀やし、服も黒装束やからやろか」
「・・・・・・」
「今度から他の人に話す時は身代わり人形を使ったって言った方がええよ。ほんまかとしてもそうそう簡単に知られてもええ秘密ちゃいますやろ」
知らされた方も対処に戸惑うこと間違いない。冗談にしては設定がしっかりしているとかなかなか芸が細かい。
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続く
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