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一日目その2、お話し
間違った休日の過ごし方
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「確かにここはお財布にも軽くて助かるけどさ。本当にそれだけでいいのか?」
「十分」
一度飲んでみたかった。
御主人様は多忙であっても御友人方の計らいで滅多に外食されない。身辺警護を行う自分も必然的に機会が減る。するとしても予約が必要なところなので、これが流麗な横文字としてメニュー表に並ぶことはない。
もっとも、護衛する身としては入店者の身分を明白にしてくれるので非常にやり易い。
「興味があった」
「まぁ、俺もハンバーガーにファンタ派だから滅多に頼まないけどさ。たまに無性に飲みたくなるんだよね~」
ストロベリーシェイク、美味しい。苺っぽくないのに名乗っているのが面白い。
「しっかし、ここは何時来ても人いるよな。携帯ゲームの通信スペースできてからますますそうなったし、なんかのんびりしづらくなった」
その方が助かるのでは?
ファーストフードは薄利多売でスペースも限られているから、一人が長く留まられると売り上げが伸びにくくなりそうだ。コーヒー一杯でソファー席を占領されるのは困りどころだが、その分他の十数席が空くなら稼げる。持ち帰る選択肢もあることも大きい。
回転効率を上げるために、調理もかなり簡略化されている。横の客のバーガーは開けた途端型崩れしていたが、そのまま食べ始めたところを見ると日常茶飯事なのだろう。厨房にいた人もカウンターの人もプロとは思えなかったし、このドリンクだってかなりの量を作り置きしていた。
「次ぎ来た時はバーガーも食べてみろよ。普通のもいいが、俺としてはポークをお勧めするね。肉柔らかいし、タレも割りといけるから」
だが、断る。
ピラリラッリラ~♪
珍しい。通常回線で電話がきた。
「はい」
『すまん、そっちに行くの遅れそうじゃ』
「トラブル?」
『いや、空港に着いたことは着いたんじゃが、ここは誘惑が多すぎる』
それは大幅な遅れが生じる。大怪我しないように気をつけてほしい。
『何とか頑張ってみるが、遅れそうじゃ。図書館なんぞ見つけるではなかったわ。それよりも、例のやつは見つかったか?』
視線だけ横に移す。10代後半の日本人男性。なにより彼が自分を発見した。
視線が合う途端に慌てて笑うと少々挙動不審だが、たいした問題ではない。害はなさそうだ。
「はい」
『なら、そいつに聞いて適当に進めといてくれんか。できるだけ早く合流するのじゃ』
想定内の延滞。ここは彼女にとって夢の国だから・・・・・・今日中に顔を合わせるのは難しくなったかもしれない。彼女は電話指示で良いとしても、彼は現場にいないと意味がない能力なので一刻も早く到着してほしかった。自分が彼の役目を担うには・・・・・・厚みも迫力も足りない。役割的にはどちらも必要ない。
「何だって?」
「遅れる」
情報収集か。人に関わらなければ・・・・・・。
「・・・・・・無理」
人脈がものをいう物件ばかり・・・・・・親しい人、連絡しづらい人ばかり。三分の一が引き篭もり。外に入るが、自分もその類で、人付き合いをあまり得意としない。業務上の浅い人間関係構築なら少し実践がある。しかし、それも後日壊すこと前提の付き合いだ。あとは捕獲ぐらい。その後の拷問はサポート役だった。無表情がいいらしい。
「何が無理なんだ?」
丁度良い。この人に全面的に押し付けよう。
「尋問を頼みたい」
「えっと、それって人に聞きたいことがあるってこと?どんと任してよ。俺の知ってるやつなら答えられるし、人脈多いから誰か知ってるかもしれないしな」
ウインクつきで返してくれた。なんとも頼もしい。見た目は御主人様並みに弱々しいのに・・・・・・弱いからか。御主人様も宿提供者のマスターも人脈だけは豊かだ。違うのは年齢と・・・・・・誠実さ?目の前の男は軽い感じがする。
羽織で隠していたポーチから小さな瓶を取り出す。中には直径1cmもない青い玉が入っている。
「BB弾だ。けど、珍しい色だな。大抵は白とか黄色とかだぞ」
「・・・・・・」
「へ?知っていることを話せ」
「返答を要求する」
「え、ああ、わるい。知らないかも」
対象の外枠変更。後の対処を解放から排除へ。
「ちょっとちょっと待ったー。なんか、不味い方に進んでない!?それにほら、青はわかんないけど、オレンジのなら話に聞いたことがあるから」
収集する範囲外の情報だ。聞くだけの時間はあると判断し、手にしたバタフライナイフの刃をしまう。
「有名な格闘漫画で、七つの球を集めるとなんでも一つだけ願い事を叶えてくれる龍が現れるってアイテムがこの辺に転がってるって最近誰かが言ってたような。形もクリソツで、ちゃんと中に1~7の星が順番に入ってて・・・・・・あ、でも、大きさが違うか?」
「そうなのか?」
こんなにそっくりなのに。
クルクルと指で回すと液体に浸かった球が中で揺れた。BB弾でも透明なプラスチックでできているこれは中央に三つの星が刻まれている。
「うわ、ホンモン、なわけないか。大きさ全然違うし」
「濃縮圧縮して不溶解水に入れてある」
「それって何?」
「分子質量などをまとめて収縮し、光以外を完全に遮断する水に封じた。これはさらに青色を着色している」
「へ~、便利なんだな」
「保存することに関しては」
量産の目処が立っていないので、商品化は困難である。
「なら、本来の色はオレンジだな。大体どんくらいの大きさだったんだ」
たしか、片手に乗せられる最大サイズくらいだった。物の例えで言えば、
「占い師の水晶球ほど」
「まさか、本物!?」
「違う」
説明の中にはそんなサプライズ効果はなかった。彼の言っている物がどれかわからないが、同一ではないと判断できる。
「けど、こんなに大きいなら誰かが警察に持って行ってるんじゃないか?」
「・・・・・・」
携帯で警察に相談し始めた。知り合いでもいるのだろうか。
落し物は警察へと耳がタコになるほど聞かされていたから到着後即ガサ入れを決行した。治安もいいので、一つくらいはと思い侵入したが、無駄だった。警備が薄過ぎるだけで大した物がない。紛失物として届出があったかも確かめたが、同じく成果は得られなかった。
「いや、だから、漫画の読み過ぎじゃないって。マジで探している奴がいるの」
知り合いの刑事はあることさえ否定している。最初に漫画で登場すると現実では存在することが許されないらしい。科学で説明つかないことも存在の有無に関係がありそうだ。
刑事の大爆笑が聞こえてくる。
「・・・・あ~、凄い笑われた。それっぽいものはないってさ」
調査済み。武器調達にもならなかった。
「けど、明日になると持ってる人いそうだな。姉貴がイベントあるって言ってたし」
明日になるとある。イベントが関係していそうだ。
それにしても何故彼は落ち込んでいるのだろうか?感情の起伏が激しい人だ。スイッチがサッパリわからない。
「参加条件は?」
「うそ、出んの!?見るだけにしとけって」
かなり疲れるらしい。ビル街でする有酸素運動といえばストリートダンスや喧嘩が挙げられる。前者は得意だが、後者は苦手だ。手加減しろと言われるが、意味がまだわからない。
「目立たないようにしなければ」
「参加者ってだけで十分目立つって。スタッフでさえ要コスプレだからさ」
写真を見せてもらった。どうやらコスプレとは目立つ衣服を着用することらしい。
「派手な色は好まない」
「いや、地味な服も鬘もあるよ。漫画やアニメ、ゲームなどの登場人物に仮装するからどうしても人目を引く姿になっちゃうけどさ。ほら、黒や金や茶色の髪はいてもライトブルーとかオレンジとかピンクの髪の奴なんて実際にはいないし」
確かに彼はありふれた茶髪茶眼だ。しかしながら、自分には黒や金や茶色や明るい青や橙色や桃色の髪の知り合いがいる。もちろん、全員地毛だ。ライトグレイやレッドもいる。自分の髪だって単なる黒ではなく、ブルーブラックだ。瞳だってよくよく観察すれば深い青だとわかる。彼の論法だと自分はここに存在してはいけないことになる。
ちょっと、ムカッとした・・・・・・使い方はあっているだろうか?擬音語擬態語を思考と一致させることは難しい。
「問題は衣服の調達」
カラフルなパンフレットを貰ったが、イベントの内容が読み取れない。イラスト付きで簡単に説明されていることを鵜呑みにすると、コスプレしてゲームをすることがメインらしい。動くにしても動かないにしてもわざわざ別の服に着替える意味が思い当たらない。不要な装飾品も多い。
同会場で本やグッツの販売もあるようだ。絵によると風景画やアンティークらしき物はなさそうだ。出展物は鑑定困難品ばかり。早く着てほしい。
「服だけなら心当たりあるけどなぁ~」
気が進まないようだ。
「逸材だし、喜んで提供してくれる。いや、贈呈?絶対巻き込まれるよな」
只で用意してくれる、と。是非ともあやからなければ。
「案内」
「え、マジで」
もちろん。
「いや、俺も嫌いじゃないよ。ヒーローになれる機会なんてそうないし」
ヒーローになれる?ヒーローで検索開始・・・・・・赤いマントを着用した青のスパッツ姿のマッチョな男がヒット。その人物と彼との該当箇所はない。
日本なのだからそれも考慮して検索再会・・・・・・戦隊とライダーがヒット。こういう攻撃パターンもあるのか、参考になる。再々検索・・・・・・海賊までヒーロー扱いとは、なんともフリーダムな国である。こちらは参考にし辛い。
「けどなぁ~、う~ん、ちょっとやばいかも~」
このままでは話が進展しない。仕方がない。妥協しよう。
「大丈夫」
「え、全然そう見えねーぞ」
「全額自己負担OK」
「さっき全額俺に奢らせた時に言ってたよね。お金ないって言ってたよね」
「カードなら」
「あるちゅうんかい!」
信じないというのなら、眼下に示すまで。
「しかも、ゴールドとブラックが二枚ずつ!?」
どちらも上限なし。
「何気にセレブ!マッ○で食ったことなかったから、ありっちゅったらありだけど、着てるの超庶民的じゃね?それとも何か?実は桁三つ違いますってやつですか!?」
ゴチャゴチャしているが、服の値段を尋ねているらしい。帽子と靴代あわせて・・・・・・
「7980」
「$」
「¥」
日本の貨幣単位は円だろう。これでもちゃんと現地調達した。厳重注意されたから仕方なく、店に行って適当に選んでお金を置いて買ったものだ。
「金があるんなら買った方がいいな。姉貴も急には仕立てられないだろうし。ただな~」
上から下まで観察されて男は言葉に詰まった。身体異常でもあったのだろうか?完全に模して作られたはずなのに。
「あの店、あんまり行きたくないんだよな~」
また行きたくない。
「同じ理由?」
「う~ん、その手の店って男子には敷居が高過ぎるんだよ。女子ばかりでさ。売ってる物もなんちゅうか、あれ~みたいなやつもあって、最近じゃはまる男子もいるらしいけど、俺はちょっと無理かも」
何故だろう。理由が明確じゃない。でも、こういう話なら一度聞いたことがある。その後向かったあそこは別に法に触れるような商売ではなかった。寧ろ、夢のような品物が現れた。
「大丈夫。甘い物好きは同じ」
「何の話だよ」
「甘味屋に行くのでは?」
「確かに、あそこも女子ばっかで男子だけじゃ入りにくい。間違っちゃいないよ。間違っちゃないけど、話の筋を読もうよ。俺らイベントの話しをしてたよね。てか、ついさっき奢ったばっかりだよね」
そうだった。着ていく物の話になって・・・・・・衣料系で男子単身で足を運びづらい店として該当するのは・・・・・・!
「ランジェリーショップ?」
男性用がないのは何故だろう?女性用の店しか見たことがない。専門店のほとんどが女性用だ。男性には選択の権利がないのか?
「そこもある意味入りにくいよ!てか、異性に面と向かって同行を頼む店じゃないっしょ」
異性概念が薄いから、その辺の区別の判断が難しい。服だってどちらとも着られる。
子供用に限られるのは悔しい。
でも、今回は縦も横もこれ以上必要ないと言われた。年齢もこれ以上下げると単独行動に差し障る。
「その、なんだ。専門ってわけじゃないけどコスプレ衣装を売ってる店があるんだ。ただ、腐男子ってわけじゃないから一緒にある薄い本が苦手ってわけ」
薄い本?イギリスのグルメ紀行、ドイツのジョーク全集、イタリアの英雄戦記、史実・日本の残酷な君主、アメリカ紳士列伝、スイスの国際貢献、アイスランドの森に生きる人、日本人を意識しない韓国人の本などが検索にヒット。
検索中にノイズがあったが、微々たるもので治まったから問題はなさそうだ。書店の一種だと判断する。店名はブラックジョーク。
「絶対におまえが想像したのじゃないから」
店名が異なるが、些細な違いだ。衣服も扱っているからだと考えられる。
「害がある本。誹謗中傷罵詈雑言の教養書とか?」
「需要がないって」
なら、実質的に危険なタイプ。
「本内部、切抜きの中にプラスチック爆弾」
「違うから」
ランクを下げよう。
「ピストル入り」
「違うから」
さらにダウンさせる。
「ページを水に浸すと覚醒剤が溶け出す」
「全然違うから!そんな危ない本が堂々と表通りの大型店舗で売られるなんてありえないっしょ」
木を隠すなら森の中という諺を知らないのだろうか?本をカモフラージュとして利用するならより多く買い手が集まる場所を取引に使うのが上策だ。日本の書店は予めビニールに包んであるので、破るまで見える心配は少ない。
「犯罪器具を取り扱っていない店である」
「そういう意味なら安全だけどさ」
「なら、問題ない」
何かあっても単独行動で対処できる範囲内だ。不足分は現地で調達する。
「絶対考えているとこと違うから」
「行こう」
「何だろう。脅迫されているように感じる」
この人、さっきから妙に勘がいい。
「行こう」
「はいはい、案内しますよ。お嬢様」
だから、何を根拠に自分を女子だと断定する。子は仕方がないとしても。
J系やアクション系ゲームキャラの衣服を選択すれば多少動きづらいで済み武器も堂々と所持できる、はずだった。
「ガッカリだ」
偽物しても脆すぎる。包丁みたいな大剣がダンボールと銀紙でできている。鉄製ですらない。これでは撲殺どころかガードもできない。鍔迫り合いなんて到底できない。
「防具も防御数値が異様に低かった」
「素人が本物の鎧なんて作れないから!」
「会社製造だった」
「今時、鎧着れるような奴いないって。あれ何kgあると思ってんだ?おまえ確実に潰れるぞ」
単独行動で鎧はそれほど重要視されない。歩くたびに足音がするとか、腕を上げるたびに金属が擦れる音がするとか、物に触れるたびに衝突音がするとか、総重量が増えるとか。昔と違って野外戦場で活躍する機会が激減したからだ。奇襲戦だけでなく最近増えた市内戦や屋内戦に全く向かない。楔帷子さえ身に着けなくなった。
しかし、これからどうしよう。あの店の服は全てサイズが合わなかった。現地調達しても裁縫する手間があるし、自分は御主人様のように針仕事は得意ではない。
「仕方がない。姉貴を頼るか」
姉・・・・・・ああ、今のか。彼に関するデータを収集し、早急に情報を補正する必要がある。どのくらい誤差を修正すれば、今の彼に近づくだろうか。
「姉貴、コスプレイヤーでさ。友達に誘われて嵌ったんだと。俺も最初は反対だったんだわけよ。その頃の姉貴は自殺未遂を繰り返してたらしくって、それを救ったのがその友人だって聞いてからは強く反対していない。助けてくれただけじゃなくて、生きがいまで作ってくれたようだし、両親も黙認してるのに俺一人反対し続けるのも変だろ」
姉の友人に感謝している。彼自身も姉を慕っているようだ。コスプレに関しても悪いイメージを持っているわけではない。
「火花はバッチリ被ったがな」
いいことばかりではなかったらしい。
「電車で三十分だけど、本当に連絡しなくていいのか」
「いい」
自分の居場所は連絡で一切触れないし、その場をすぐに離れるようにしている。居場所は担当から口頭で伝えられる。これが意外と便利なのだ。
「じゃあ、招待するぜ。姉貴も張り切って準備してるってさ」
また手持ち(カード)では買えなかったので、今度は後日払いにしてもらった。
「十分」
一度飲んでみたかった。
御主人様は多忙であっても御友人方の計らいで滅多に外食されない。身辺警護を行う自分も必然的に機会が減る。するとしても予約が必要なところなので、これが流麗な横文字としてメニュー表に並ぶことはない。
もっとも、護衛する身としては入店者の身分を明白にしてくれるので非常にやり易い。
「興味があった」
「まぁ、俺もハンバーガーにファンタ派だから滅多に頼まないけどさ。たまに無性に飲みたくなるんだよね~」
ストロベリーシェイク、美味しい。苺っぽくないのに名乗っているのが面白い。
「しっかし、ここは何時来ても人いるよな。携帯ゲームの通信スペースできてからますますそうなったし、なんかのんびりしづらくなった」
その方が助かるのでは?
ファーストフードは薄利多売でスペースも限られているから、一人が長く留まられると売り上げが伸びにくくなりそうだ。コーヒー一杯でソファー席を占領されるのは困りどころだが、その分他の十数席が空くなら稼げる。持ち帰る選択肢もあることも大きい。
回転効率を上げるために、調理もかなり簡略化されている。横の客のバーガーは開けた途端型崩れしていたが、そのまま食べ始めたところを見ると日常茶飯事なのだろう。厨房にいた人もカウンターの人もプロとは思えなかったし、このドリンクだってかなりの量を作り置きしていた。
「次ぎ来た時はバーガーも食べてみろよ。普通のもいいが、俺としてはポークをお勧めするね。肉柔らかいし、タレも割りといけるから」
だが、断る。
ピラリラッリラ~♪
珍しい。通常回線で電話がきた。
「はい」
『すまん、そっちに行くの遅れそうじゃ』
「トラブル?」
『いや、空港に着いたことは着いたんじゃが、ここは誘惑が多すぎる』
それは大幅な遅れが生じる。大怪我しないように気をつけてほしい。
『何とか頑張ってみるが、遅れそうじゃ。図書館なんぞ見つけるではなかったわ。それよりも、例のやつは見つかったか?』
視線だけ横に移す。10代後半の日本人男性。なにより彼が自分を発見した。
視線が合う途端に慌てて笑うと少々挙動不審だが、たいした問題ではない。害はなさそうだ。
「はい」
『なら、そいつに聞いて適当に進めといてくれんか。できるだけ早く合流するのじゃ』
想定内の延滞。ここは彼女にとって夢の国だから・・・・・・今日中に顔を合わせるのは難しくなったかもしれない。彼女は電話指示で良いとしても、彼は現場にいないと意味がない能力なので一刻も早く到着してほしかった。自分が彼の役目を担うには・・・・・・厚みも迫力も足りない。役割的にはどちらも必要ない。
「何だって?」
「遅れる」
情報収集か。人に関わらなければ・・・・・・。
「・・・・・・無理」
人脈がものをいう物件ばかり・・・・・・親しい人、連絡しづらい人ばかり。三分の一が引き篭もり。外に入るが、自分もその類で、人付き合いをあまり得意としない。業務上の浅い人間関係構築なら少し実践がある。しかし、それも後日壊すこと前提の付き合いだ。あとは捕獲ぐらい。その後の拷問はサポート役だった。無表情がいいらしい。
「何が無理なんだ?」
丁度良い。この人に全面的に押し付けよう。
「尋問を頼みたい」
「えっと、それって人に聞きたいことがあるってこと?どんと任してよ。俺の知ってるやつなら答えられるし、人脈多いから誰か知ってるかもしれないしな」
ウインクつきで返してくれた。なんとも頼もしい。見た目は御主人様並みに弱々しいのに・・・・・・弱いからか。御主人様も宿提供者のマスターも人脈だけは豊かだ。違うのは年齢と・・・・・・誠実さ?目の前の男は軽い感じがする。
羽織で隠していたポーチから小さな瓶を取り出す。中には直径1cmもない青い玉が入っている。
「BB弾だ。けど、珍しい色だな。大抵は白とか黄色とかだぞ」
「・・・・・・」
「へ?知っていることを話せ」
「返答を要求する」
「え、ああ、わるい。知らないかも」
対象の外枠変更。後の対処を解放から排除へ。
「ちょっとちょっと待ったー。なんか、不味い方に進んでない!?それにほら、青はわかんないけど、オレンジのなら話に聞いたことがあるから」
収集する範囲外の情報だ。聞くだけの時間はあると判断し、手にしたバタフライナイフの刃をしまう。
「有名な格闘漫画で、七つの球を集めるとなんでも一つだけ願い事を叶えてくれる龍が現れるってアイテムがこの辺に転がってるって最近誰かが言ってたような。形もクリソツで、ちゃんと中に1~7の星が順番に入ってて・・・・・・あ、でも、大きさが違うか?」
「そうなのか?」
こんなにそっくりなのに。
クルクルと指で回すと液体に浸かった球が中で揺れた。BB弾でも透明なプラスチックでできているこれは中央に三つの星が刻まれている。
「うわ、ホンモン、なわけないか。大きさ全然違うし」
「濃縮圧縮して不溶解水に入れてある」
「それって何?」
「分子質量などをまとめて収縮し、光以外を完全に遮断する水に封じた。これはさらに青色を着色している」
「へ~、便利なんだな」
「保存することに関しては」
量産の目処が立っていないので、商品化は困難である。
「なら、本来の色はオレンジだな。大体どんくらいの大きさだったんだ」
たしか、片手に乗せられる最大サイズくらいだった。物の例えで言えば、
「占い師の水晶球ほど」
「まさか、本物!?」
「違う」
説明の中にはそんなサプライズ効果はなかった。彼の言っている物がどれかわからないが、同一ではないと判断できる。
「けど、こんなに大きいなら誰かが警察に持って行ってるんじゃないか?」
「・・・・・・」
携帯で警察に相談し始めた。知り合いでもいるのだろうか。
落し物は警察へと耳がタコになるほど聞かされていたから到着後即ガサ入れを決行した。治安もいいので、一つくらいはと思い侵入したが、無駄だった。警備が薄過ぎるだけで大した物がない。紛失物として届出があったかも確かめたが、同じく成果は得られなかった。
「いや、だから、漫画の読み過ぎじゃないって。マジで探している奴がいるの」
知り合いの刑事はあることさえ否定している。最初に漫画で登場すると現実では存在することが許されないらしい。科学で説明つかないことも存在の有無に関係がありそうだ。
刑事の大爆笑が聞こえてくる。
「・・・・あ~、凄い笑われた。それっぽいものはないってさ」
調査済み。武器調達にもならなかった。
「けど、明日になると持ってる人いそうだな。姉貴がイベントあるって言ってたし」
明日になるとある。イベントが関係していそうだ。
それにしても何故彼は落ち込んでいるのだろうか?感情の起伏が激しい人だ。スイッチがサッパリわからない。
「参加条件は?」
「うそ、出んの!?見るだけにしとけって」
かなり疲れるらしい。ビル街でする有酸素運動といえばストリートダンスや喧嘩が挙げられる。前者は得意だが、後者は苦手だ。手加減しろと言われるが、意味がまだわからない。
「目立たないようにしなければ」
「参加者ってだけで十分目立つって。スタッフでさえ要コスプレだからさ」
写真を見せてもらった。どうやらコスプレとは目立つ衣服を着用することらしい。
「派手な色は好まない」
「いや、地味な服も鬘もあるよ。漫画やアニメ、ゲームなどの登場人物に仮装するからどうしても人目を引く姿になっちゃうけどさ。ほら、黒や金や茶色の髪はいてもライトブルーとかオレンジとかピンクの髪の奴なんて実際にはいないし」
確かに彼はありふれた茶髪茶眼だ。しかしながら、自分には黒や金や茶色や明るい青や橙色や桃色の髪の知り合いがいる。もちろん、全員地毛だ。ライトグレイやレッドもいる。自分の髪だって単なる黒ではなく、ブルーブラックだ。瞳だってよくよく観察すれば深い青だとわかる。彼の論法だと自分はここに存在してはいけないことになる。
ちょっと、ムカッとした・・・・・・使い方はあっているだろうか?擬音語擬態語を思考と一致させることは難しい。
「問題は衣服の調達」
カラフルなパンフレットを貰ったが、イベントの内容が読み取れない。イラスト付きで簡単に説明されていることを鵜呑みにすると、コスプレしてゲームをすることがメインらしい。動くにしても動かないにしてもわざわざ別の服に着替える意味が思い当たらない。不要な装飾品も多い。
同会場で本やグッツの販売もあるようだ。絵によると風景画やアンティークらしき物はなさそうだ。出展物は鑑定困難品ばかり。早く着てほしい。
「服だけなら心当たりあるけどなぁ~」
気が進まないようだ。
「逸材だし、喜んで提供してくれる。いや、贈呈?絶対巻き込まれるよな」
只で用意してくれる、と。是非ともあやからなければ。
「案内」
「え、マジで」
もちろん。
「いや、俺も嫌いじゃないよ。ヒーローになれる機会なんてそうないし」
ヒーローになれる?ヒーローで検索開始・・・・・・赤いマントを着用した青のスパッツ姿のマッチョな男がヒット。その人物と彼との該当箇所はない。
日本なのだからそれも考慮して検索再会・・・・・・戦隊とライダーがヒット。こういう攻撃パターンもあるのか、参考になる。再々検索・・・・・・海賊までヒーロー扱いとは、なんともフリーダムな国である。こちらは参考にし辛い。
「けどなぁ~、う~ん、ちょっとやばいかも~」
このままでは話が進展しない。仕方がない。妥協しよう。
「大丈夫」
「え、全然そう見えねーぞ」
「全額自己負担OK」
「さっき全額俺に奢らせた時に言ってたよね。お金ないって言ってたよね」
「カードなら」
「あるちゅうんかい!」
信じないというのなら、眼下に示すまで。
「しかも、ゴールドとブラックが二枚ずつ!?」
どちらも上限なし。
「何気にセレブ!マッ○で食ったことなかったから、ありっちゅったらありだけど、着てるの超庶民的じゃね?それとも何か?実は桁三つ違いますってやつですか!?」
ゴチャゴチャしているが、服の値段を尋ねているらしい。帽子と靴代あわせて・・・・・・
「7980」
「$」
「¥」
日本の貨幣単位は円だろう。これでもちゃんと現地調達した。厳重注意されたから仕方なく、店に行って適当に選んでお金を置いて買ったものだ。
「金があるんなら買った方がいいな。姉貴も急には仕立てられないだろうし。ただな~」
上から下まで観察されて男は言葉に詰まった。身体異常でもあったのだろうか?完全に模して作られたはずなのに。
「あの店、あんまり行きたくないんだよな~」
また行きたくない。
「同じ理由?」
「う~ん、その手の店って男子には敷居が高過ぎるんだよ。女子ばかりでさ。売ってる物もなんちゅうか、あれ~みたいなやつもあって、最近じゃはまる男子もいるらしいけど、俺はちょっと無理かも」
何故だろう。理由が明確じゃない。でも、こういう話なら一度聞いたことがある。その後向かったあそこは別に法に触れるような商売ではなかった。寧ろ、夢のような品物が現れた。
「大丈夫。甘い物好きは同じ」
「何の話だよ」
「甘味屋に行くのでは?」
「確かに、あそこも女子ばっかで男子だけじゃ入りにくい。間違っちゃいないよ。間違っちゃないけど、話の筋を読もうよ。俺らイベントの話しをしてたよね。てか、ついさっき奢ったばっかりだよね」
そうだった。着ていく物の話になって・・・・・・衣料系で男子単身で足を運びづらい店として該当するのは・・・・・・!
「ランジェリーショップ?」
男性用がないのは何故だろう?女性用の店しか見たことがない。専門店のほとんどが女性用だ。男性には選択の権利がないのか?
「そこもある意味入りにくいよ!てか、異性に面と向かって同行を頼む店じゃないっしょ」
異性概念が薄いから、その辺の区別の判断が難しい。服だってどちらとも着られる。
子供用に限られるのは悔しい。
でも、今回は縦も横もこれ以上必要ないと言われた。年齢もこれ以上下げると単独行動に差し障る。
「その、なんだ。専門ってわけじゃないけどコスプレ衣装を売ってる店があるんだ。ただ、腐男子ってわけじゃないから一緒にある薄い本が苦手ってわけ」
薄い本?イギリスのグルメ紀行、ドイツのジョーク全集、イタリアの英雄戦記、史実・日本の残酷な君主、アメリカ紳士列伝、スイスの国際貢献、アイスランドの森に生きる人、日本人を意識しない韓国人の本などが検索にヒット。
検索中にノイズがあったが、微々たるもので治まったから問題はなさそうだ。書店の一種だと判断する。店名はブラックジョーク。
「絶対におまえが想像したのじゃないから」
店名が異なるが、些細な違いだ。衣服も扱っているからだと考えられる。
「害がある本。誹謗中傷罵詈雑言の教養書とか?」
「需要がないって」
なら、実質的に危険なタイプ。
「本内部、切抜きの中にプラスチック爆弾」
「違うから」
ランクを下げよう。
「ピストル入り」
「違うから」
さらにダウンさせる。
「ページを水に浸すと覚醒剤が溶け出す」
「全然違うから!そんな危ない本が堂々と表通りの大型店舗で売られるなんてありえないっしょ」
木を隠すなら森の中という諺を知らないのだろうか?本をカモフラージュとして利用するならより多く買い手が集まる場所を取引に使うのが上策だ。日本の書店は予めビニールに包んであるので、破るまで見える心配は少ない。
「犯罪器具を取り扱っていない店である」
「そういう意味なら安全だけどさ」
「なら、問題ない」
何かあっても単独行動で対処できる範囲内だ。不足分は現地で調達する。
「絶対考えているとこと違うから」
「行こう」
「何だろう。脅迫されているように感じる」
この人、さっきから妙に勘がいい。
「行こう」
「はいはい、案内しますよ。お嬢様」
だから、何を根拠に自分を女子だと断定する。子は仕方がないとしても。
J系やアクション系ゲームキャラの衣服を選択すれば多少動きづらいで済み武器も堂々と所持できる、はずだった。
「ガッカリだ」
偽物しても脆すぎる。包丁みたいな大剣がダンボールと銀紙でできている。鉄製ですらない。これでは撲殺どころかガードもできない。鍔迫り合いなんて到底できない。
「防具も防御数値が異様に低かった」
「素人が本物の鎧なんて作れないから!」
「会社製造だった」
「今時、鎧着れるような奴いないって。あれ何kgあると思ってんだ?おまえ確実に潰れるぞ」
単独行動で鎧はそれほど重要視されない。歩くたびに足音がするとか、腕を上げるたびに金属が擦れる音がするとか、物に触れるたびに衝突音がするとか、総重量が増えるとか。昔と違って野外戦場で活躍する機会が激減したからだ。奇襲戦だけでなく最近増えた市内戦や屋内戦に全く向かない。楔帷子さえ身に着けなくなった。
しかし、これからどうしよう。あの店の服は全てサイズが合わなかった。現地調達しても裁縫する手間があるし、自分は御主人様のように針仕事は得意ではない。
「仕方がない。姉貴を頼るか」
姉・・・・・・ああ、今のか。彼に関するデータを収集し、早急に情報を補正する必要がある。どのくらい誤差を修正すれば、今の彼に近づくだろうか。
「姉貴、コスプレイヤーでさ。友達に誘われて嵌ったんだと。俺も最初は反対だったんだわけよ。その頃の姉貴は自殺未遂を繰り返してたらしくって、それを救ったのがその友人だって聞いてからは強く反対していない。助けてくれただけじゃなくて、生きがいまで作ってくれたようだし、両親も黙認してるのに俺一人反対し続けるのも変だろ」
姉の友人に感謝している。彼自身も姉を慕っているようだ。コスプレに関しても悪いイメージを持っているわけではない。
「火花はバッチリ被ったがな」
いいことばかりではなかったらしい。
「電車で三十分だけど、本当に連絡しなくていいのか」
「いい」
自分の居場所は連絡で一切触れないし、その場をすぐに離れるようにしている。居場所は担当から口頭で伝えられる。これが意外と便利なのだ。
「じゃあ、招待するぜ。姉貴も張り切って準備してるってさ」
また手持ち(カード)では買えなかったので、今度は後日払いにしてもらった。
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