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一日目その3、揺られる
間違った休日の過ごし方
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電車に乗るのは久しぶりだ。日本の鉄道は時間通りである上に車線が多いので利用価値は高い。特に都心では数分で次が来るから乗り遅れの心配も少ない。唯一の欠点といえば、この満員電車だろう。
「あーあ、帰宅ラッシュに巻き込まれるとはついてねーな」
息苦しい。汗臭い。電波が混ざりあって気持ち悪い。
「・・・・・・(怒)」
人の距離が近い。逃走ルートがない。圧迫感が半端ではない。
身動きが取れないことがこんなにもストレスになるなんて考えもしなかった。特にこの、尻に当たる手。邪魔い、ウザい、うっとおしい。
いつもなら我慢できるのだが、密集ストレスも相まって不快な精神波が体中に巡っていく。
高圧電流でも流したいが、こう密集されては関係ない人にも被害が及ぶ。ペースメイカーをつけた人がいたら無関係者の殺害になる。そうでなくとも、御主人様の耳に入ってしまい、後が怖い。さらに一ヶ月間も無依頼状態になるなんてもう御免だ。
同理由で燃焼も氷結も斬撃も圧迫も中毒も却下。犯罪を誤魔化すぐらいわけないが、あの手の方法だと彼らにすぐに察知される。そうなると必然的に御主人様に知られることになり・・・・・・ああ、不快感が溜まる。動くから波紋が消えない。いっそうの事車両ごと吹き飛ばしてしまおうか。
思考を戻そう。この手の主が殺傷能力があるといえる物を所持してさえいれば誤魔化せることは可能だ。なのに、撫で続ける手が交替することがない。よく考えられている。
窓に映る車内の景色と手の大きさから考えて、背後にいるサラリーマンの手なのはわかる。服に付着した汗の量から仕事帰りなのは明白で、それがどうした?
いけない。あまりに長時間そのままにしているので思考が途絶えてしまった。
考えを戻そう。だとしたら、もう片方の手には周りの人同様鞄か何かを持っているはず。そもそも喧嘩は苦手分野だ。手っ取り早い解決策としてナイフでの刺傷があるが、ここの警察とは関わりたくない。さらに波紋が増す。ロックをかけないと無意識で動いてしまいそうだ。酷い欠陥だと自覚している。けれど、御主人様は何故か喜ぶので直せない。
また外れてしまった。考え方を変えてみよう。5感の内、3感しか感じられない背後だから不安なのであって、体を反転させて正面を向けば、妙な心的波紋も収まるかもしれない。
でも、もし男が混雑によって仕方なくではなく、わざと触っていたとしたら・・・・・・秘密保持のために抹殺も止むを得ない。
そもそも、他人の身体を撫でて何か得るものがあるのだろうか?
「盗み目的でもないのに」
触るだけの犯罪など聞いたことがない。
「それ、何の話だ?」
返答がきた。気付かない内に声になっていたなど、機能劣化の傾向だろうか?行動に支障が出なければいいのだが。
しかし、丁度いい。彼の思考回路は自分とかなり異なる。真反対と言ってもいい。意味不明な行動の回答が得られるかもしれない。そうなれば、自ずと行動が決まる。無視か毒殺か。
「目的なく他人の身体を探る理由を問いたい」
「え?」
「殺意はない。傷害行為も服毒行為もないが、かといって放置するわけにもいかない。接触が一部に限られているため、物取りの可能性も低い」
「つかぬ事をお聞きしますが、その一部とはどこのことで?」
混雑の中でも隣にいる彼には首を動かさずに会話ができる。あれはまだ機能に問題があるから使用したくなかった。
「尻」
彼の対応は迅速だった。瞬時に伸ばされた彼の手が対象の手首をシッカと掴むとそのまま上にねじ上げた。
動作線上にあった自分の腕と肩をさり気なく外すことを忘れはしない。答えをもらえたのだ。これくらいはしなければ。
「お前何やってんだ!次の駅で降りろ!警察に突き出してやる!!」
この流れだと自分達も次の駅で下りる必要があるのでは?目的地は三駅先なのに。
しかも、避けようとした警察と直接対面することに・・・・・・全部彼に押し付けよう。
「き、貴様、何を言っているのだね」
大声で状況を話す若者にサラリーマンも負けない大声で必死で否定している。お互いやったやらなかったの水掛け論で、全然進展しない。
「こいつがやったことに間違いないんだろ。俺も見たし、長時間我慢していたんだろ」
「ふん、これだから最近の若者は。そう言っているのは貴様らだけではないか。他に目撃者はいないのだろう。そうか、難癖つけて冤罪で金銭を巻き上げる魂胆だな」
「そっちこそ自分のこと棚に上げてんじゃんか」
ああ、注目されている。思いっきり注目されている。怪訝そうな顔で遠巻きに眺めている。これはまずい。スペースが空いたが、人目が多過ぎて反撃できない。
手が離れて心の波は小さくなった。なかったことにしてこれ以上このサラリーマンと関わるのはよそう。
「あーあ、帰宅ラッシュに巻き込まれるとはついてねーな」
息苦しい。汗臭い。電波が混ざりあって気持ち悪い。
「・・・・・・(怒)」
人の距離が近い。逃走ルートがない。圧迫感が半端ではない。
身動きが取れないことがこんなにもストレスになるなんて考えもしなかった。特にこの、尻に当たる手。邪魔い、ウザい、うっとおしい。
いつもなら我慢できるのだが、密集ストレスも相まって不快な精神波が体中に巡っていく。
高圧電流でも流したいが、こう密集されては関係ない人にも被害が及ぶ。ペースメイカーをつけた人がいたら無関係者の殺害になる。そうでなくとも、御主人様の耳に入ってしまい、後が怖い。さらに一ヶ月間も無依頼状態になるなんてもう御免だ。
同理由で燃焼も氷結も斬撃も圧迫も中毒も却下。犯罪を誤魔化すぐらいわけないが、あの手の方法だと彼らにすぐに察知される。そうなると必然的に御主人様に知られることになり・・・・・・ああ、不快感が溜まる。動くから波紋が消えない。いっそうの事車両ごと吹き飛ばしてしまおうか。
思考を戻そう。この手の主が殺傷能力があるといえる物を所持してさえいれば誤魔化せることは可能だ。なのに、撫で続ける手が交替することがない。よく考えられている。
窓に映る車内の景色と手の大きさから考えて、背後にいるサラリーマンの手なのはわかる。服に付着した汗の量から仕事帰りなのは明白で、それがどうした?
いけない。あまりに長時間そのままにしているので思考が途絶えてしまった。
考えを戻そう。だとしたら、もう片方の手には周りの人同様鞄か何かを持っているはず。そもそも喧嘩は苦手分野だ。手っ取り早い解決策としてナイフでの刺傷があるが、ここの警察とは関わりたくない。さらに波紋が増す。ロックをかけないと無意識で動いてしまいそうだ。酷い欠陥だと自覚している。けれど、御主人様は何故か喜ぶので直せない。
また外れてしまった。考え方を変えてみよう。5感の内、3感しか感じられない背後だから不安なのであって、体を反転させて正面を向けば、妙な心的波紋も収まるかもしれない。
でも、もし男が混雑によって仕方なくではなく、わざと触っていたとしたら・・・・・・秘密保持のために抹殺も止むを得ない。
そもそも、他人の身体を撫でて何か得るものがあるのだろうか?
「盗み目的でもないのに」
触るだけの犯罪など聞いたことがない。
「それ、何の話だ?」
返答がきた。気付かない内に声になっていたなど、機能劣化の傾向だろうか?行動に支障が出なければいいのだが。
しかし、丁度いい。彼の思考回路は自分とかなり異なる。真反対と言ってもいい。意味不明な行動の回答が得られるかもしれない。そうなれば、自ずと行動が決まる。無視か毒殺か。
「目的なく他人の身体を探る理由を問いたい」
「え?」
「殺意はない。傷害行為も服毒行為もないが、かといって放置するわけにもいかない。接触が一部に限られているため、物取りの可能性も低い」
「つかぬ事をお聞きしますが、その一部とはどこのことで?」
混雑の中でも隣にいる彼には首を動かさずに会話ができる。あれはまだ機能に問題があるから使用したくなかった。
「尻」
彼の対応は迅速だった。瞬時に伸ばされた彼の手が対象の手首をシッカと掴むとそのまま上にねじ上げた。
動作線上にあった自分の腕と肩をさり気なく外すことを忘れはしない。答えをもらえたのだ。これくらいはしなければ。
「お前何やってんだ!次の駅で降りろ!警察に突き出してやる!!」
この流れだと自分達も次の駅で下りる必要があるのでは?目的地は三駅先なのに。
しかも、避けようとした警察と直接対面することに・・・・・・全部彼に押し付けよう。
「き、貴様、何を言っているのだね」
大声で状況を話す若者にサラリーマンも負けない大声で必死で否定している。お互いやったやらなかったの水掛け論で、全然進展しない。
「こいつがやったことに間違いないんだろ。俺も見たし、長時間我慢していたんだろ」
「ふん、これだから最近の若者は。そう言っているのは貴様らだけではないか。他に目撃者はいないのだろう。そうか、難癖つけて冤罪で金銭を巻き上げる魂胆だな」
「そっちこそ自分のこと棚に上げてんじゃんか」
ああ、注目されている。思いっきり注目されている。怪訝そうな顔で遠巻きに眺めている。これはまずい。スペースが空いたが、人目が多過ぎて反撃できない。
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